今出来ること
朝八時、珍しく早く起きた翔天は外で素振りをしていた。
「駄目だもっと速く振らないと」
三日月流抜刀術はいかに速く剣を抜き放てるかが重要なため翔天はいつも剣に二十キロの重りを付けて素振りをしている。
「朝から精が出るわね」
素振りを止め後ろを向くと茂みから彩姫が出てきた。
「おはよう彩姫」
「おはようショウ」
挨拶を終えるやまた翔天は素振りを始める。彩姫も特に何も言わずに翔天の素振りを見ていた。
あれから三十分が経ち翔天は素振りを止めた。
「もういいの?」
「あぁやり過ぎて体を壊してもいけないしな」
「そっか」
いつのことだが彩姫は翔天が素振りをしているとき必ず傍で見ている。
最初は何で見ているか聞いてみたが特にこれといった理由もなくただ見ているだけだと言うのでこちらも特に気にせずにしていた。
「ねぇ、ショウはホノちゃんのことどう思う?」
「いきなりそんなことを聞いてどうしたんだよ」
「確かにそうだよね。ただ昨日のホノちゃんの様子がおかしくてそれが気になって・・・・・・」
彩姫の言う通り昨日の星華は様子がおかしかった。
リアンユが生きているかもしれない事実を知ったからだとは到底思えない。
「そういえばあの時、左目を見られたかもしれないと焦った星華は少しおかしかったな。もしかして彩姫が気にしてるのはそれか?」
彩姫は黙って頷く。
「彩姫は星華の左目について何か知っているのか?」
「ううん。前にホノちゃんに聞いてみたことがあるんだけど何か言いたくなさそうだったの」
翔天も昔、彩姫と同じ様に聞いたことがあったが全く同じ感じでこれ以上聞くことができなかった。
「正直、あいつがなんで左目を隠しているのかさっぱりなんだよな。彩姫なら何か知ってると思ってたんだけどなー」
「ごめんね」
「謝る必要はないよ。彩姫にも話さないってことはよほど知られたくない秘密なんだろうな」
「・・・・・・今さらだけど私達ってホノちゃんのことを知っているつもりで実は何も知らなかったんだね」
その通りだ。最初に会った時も姿は変わってしまっても中身だけは変わっていないいつもの星華だと思ってた。だから僕達は星華の過去について何も知ろうとしてこなかった。
「今私達がホノちゃんに出来ることって何なんだろうね」
「・・・・・・今出来ることか」
昨日アルナールはなんでもないと言っていたがたぶんあれは嘘だ。きっとアルナールは星華の左目のこととかも知っているのだろう。でも聞いたところでアルナールは答えてくれそうにない。
なら、何も知らない僕らが今星華に出来ることは一つしかないはずだ。
「僕らが星華の大切な友達・・・・・・親友として傍にいることじゃないかな」
「親友として傍にいること・・・・・・そうだね今はそれしか私達には出来ないよね」
彩姫も納得してくれたようで良かった。
「彩姫、約束しないか」
「約束って何の?」
「どんなことがあろうと僕らは星華を信じ続けることを」
たぶんだが星華が話せないのは僕らと一緒にいられなくなるかもしれないという恐怖があるから言えないのだと思っている。
「・・・・・・そうだね約束しよ絶対に信じ続けるって」
考えに気づいてくれたのか彩姫の表情は迷いのない晴れた顔をしている。
「それじゃあ一人で寂しそうにしているかもしれない星華の所に行くか」
「うん行こう」
剣をしまい翔天と彩姫は星華の所に向かった。