見えてくる希望
「なるほどこれはキツいな」
実験台になっていた龍太は今、兵士に連れられ収容所に向かっていた。
「こんなんが毎日続いたらそりゃああんな風になるわな」
実験の内容がマナを強制的に引き出されたり、マナを回復させる注射を三、四本打たれたりたとかなりしんどいものだ。
「おい、ここからは俺が連れていくからお前は見張りに戻れ」
目の前に現れたアルナールは兵士にそう言うと兵士は敬礼をし駆け足で自分の持ち場に戻っていった。
「一体なんのようだアルナール」
「ふん、馬鹿なお前と少し話をな」
「馬鹿ってどういうことだよ」
会って早々に悪口を言われ頭にきたが実験のせいで怒る気力もそんなになかった。
「何故俺の言う通りにあの女を連れて逃げなかったんだ」
「別にこの研究所を調べてからでも遅くないと思ってね」
「そんな考えだと後悔するぞ」
いつにもまして親切に話をするアルナールが少し気持ち悪く思える。
「忠告ありがとな。だが俺はこの研究所を調べるからな」
「・・・・・・ふん、そうかよ」
簡単に引き下がったので何だか呆気なかった。
「最後に良いことを教えてやるよ」
「何だ?」
もう少しで収容所につく時にアルナールがニヤッとした顔で話してきた。
「翔天があの女の妹と一緒に行動しているらしいぜ」
「それは本当なのか!?」
つい大声を出してしまい体調が余計悪くなった気がした。
「さっき翔天と話してきてなその時言ってたぜ。後、この国を救うとも言ってたな」
「・・・・・・そうか」
アルナールが翔天と会って話をしたのは以外だったが今のこいつならおかしいことでもなかった。
「あいつがこの国を救うならこの研究所の調査は絶対だな」
「気持ち悪いほどの信頼関係だな」
「今なにか言わなかったか」
ボソッとアルナールが喋ったような気がしたが、なにも言ってねー。と一蹴された。
昨日と同じ様に収容所に押し入れられアルナールは何も言わずに離れていった。
「変な奴だな、今さらだけど」
「お疲れさま龍太。体調の方は大丈夫?」
初めての人体実験で体調不良の龍太にミエが労いの言葉と共に体調の方も気にかけてくれた。
「少し気分は悪いが大丈夫だ。心配してくれてありがとな」
「心配して当たり前だよ。だって私達は仲間なんだから」
ミエも疲れているはずなのにそんな素振りも見せず他の人を元気付けている姿は天使に見えるほどだ。
「あっそうだ、ミエにいい話があるんだ」
「いい話?」
アルナールが言ったことが本当かどうかは分からないが一つだけ言えるのはあの時のアルナールは嘘をついていないことだ。だから龍太はアルナールの言うことを信じることにした。
「実は俺の仲間がミカと一緒にいるらしいんだ」
「そっ、それってホント!」
「あぁたぶんな」
妹の所在が分かったからなのかミエはよかったーと溜め込んでいた息を吐き出した。
よほど妹のことが心配だったようで涙まで流していた。
「ごめんねいきなり泣いてしまって」
「いいって、それだけお前が妹のことを心配してたってことだ」
「ありがとう」
満面の笑顔でお礼を言うミエは天使を通り越して女神に見える。
「俺の仲間は今、この研究所に捕まってる人達を助けるつもりだから俺達も頑張っていこうぜ」
「えぇ。希望の光が私達を照らし出し始めたんだからね」
二人で頑張るぞー、と気合い入れている二人をアルナールは遠目から見ていた。
「翔天や星華だけでなくあいつもかなり甘いんだな。普通は信じないだろ」
再びアルナールは所長のいる部屋まで歩き出す。
「これがあいつの言う人間の優しさというものなのか」
アルナールは一週間前に出会った彼女のことを思い出していた。
「今何してるんだろなあいつは」
会えるわけのない彼女のことを思い出しながら隠し通路に入り地下に続く階段を下りていった。