決着
「反撃する前にまず・・・・・・彩姫、今すぐ星華の所に行って傷を治してきて、その間僕一人で戦うから」
「何言ってるのよ! そんなの無理に決まってるじゃない!」
怒る彩姫だったが翔天の顔を見たら不思議と不安な気持ちが消えていった。
「大丈夫、みんなの傷が治るまでの間だから・・・・・・僕はみんなのことを信じているだから僕のことも信じてほしい」
「・・・・・・わかった。私達も早く傷を治すから待っててね」
なんとか立ち上がった彩姫は足を引きずりながら星華の方に行った。
「・・・・・・!」
急に火の玉が飛んできたが翔天は水の膜を張り難なく防いだ。
「お前なんで水属性の解放術を使えるんだ。お前は火属性じゃなかったのか」
これは翔天も分からないことで気づけば使えるようになってたとしか言いようがなかったが。
「お前を倒すのにはちょうどいい属性だろ」
「まさかここまで嘗められてるとはな、たかが水属性に変わったからといって俺に勝てると思ったのか!」
走り出したアルナールは剣で斬りかかろうとしたが目の前に火の壁が現れ行く手を遮る。
「馬鹿な! 水属性だけでなく火属性まで操れるだと!?」
「そうだよ僕は火と水の両方とも属性解放術が使えるんだ」
後ろに回り込んだ翔天はアルナールの持つ剣を落とそうとしたがギリギリの所で避けられた。
「これは少し驚いたな。まさか二種類の属性を持つ人間がいるとはな・・・・・・だがそれでも俺が負けることはない!」
周囲の炎と一緒に攻撃していたが翔天は水の膜でガードせずひらりひらりと避けてった。
当たらない攻撃にイライラしてきたアルナールは炎を翔天の後ろに回り込ませ逃げ道を無くした。
「これで終わりだぁ!」
上段から降り下ろされる一撃を剣で受け流した反動で斬りかかる三日月流の基本的な戦いかたの一つ。当たると思った剣先は服を掠めたぐらいでアルナールは後方に飛んで直撃を免れている。
「どうなっている。さっきとはまるで違う戦いかたをしやがって」
よろめくアルナールは信じられないと言わんばかりの顔をしていた。
「これが僕の本当の戦いかた・・・・・・僕とフレデリカ師匠しか出来ない戦いかただ!」
「うるせー! お前はおとなしく俺に殺されてろっ!」
大振りな一撃必殺だったさっきと違い今度は一撃の威力を弱め手数で攻撃してきたがこれも翔天にとっては焦るほどの攻撃ではない。
「スピードだけならフレデリカ師匠や星華の方がお前よりも速い!」
全てを避けきった反撃する翔天だったが気づくと全方位に火の玉が浮いていた。
「こ、これは?」
「ハハハ、今ごろ気づいたか。さすがにこれだけの量を一気に放ったらお前でも全ては防ぎきれまい」
恐らく、アルナールのことだから属性解放術で防ごうとしたらきっとその一瞬を狙ってくるに違いない、そうなると確かに翔天にはこれらを防ぐ術はない。翔天だけなら。
「喰らえー!!」
翔天に向かっていった火の玉は急に地面から出てきた火柱により消えてしまった。
「な、何!? お前いつのまに属性解放術を」
よく翔天を見ていたアルナールだったが翔天が属性解放をする素振りは一度も見せていなかった。
「ありがとー龍太。お陰で助かったよ」
振り向くと動けず横たわってた龍太が立っていた。
「ったく世話のかかる奴だぜ」
どうやらあの火柱は龍太が魔法によって出したものだった。
「次から次に俺の癇に障ることをしやがって」
アルナールがイラついている一瞬の隙を星華は逃さなかった。
あまりにも一瞬すぎて星華の回し蹴りを避けきれず横腹に命中しさらに横蹴りがアルナールの腹部に当たった。
「邪魔だぁー!!」
星華に与えられたダメージが大きかったのか剣術にキレが無くなっていた。
「そこっ!」
剣が降り下ろされるよりも速いスピードで繰り出された渾身の蹴り技は、フレデリカが与えた傷口に当たった。
「ぐはっ! くっ、まだだ、まだ俺は殺れる! 属性解放・炎神!」
アルナールから出てきた炎は今までよりも威力が高く、それはアルナールがこの一撃で決めるという意志が伝わってきた。
「野郎ついに玉砕覚悟できやがるつもりか」
炎はアルナールの剣に集まり別の姿に変えていった。
「これでお前らをまとめて焼き尽くしてやる!」
「させるか! 属性解放・水神!」
水を剣に纏わせアルナールに向かって走り出す翔天を巨大な炎の剣を持つアルナールが迎え撃った。
水と炎がぶつかり合いつばぜり合う二人だったがアルナールの方が少し押していた。
「やはり俺の方が強かったようだな」
手負いのはずなのにアルナールの力は衰えることなくむしろ上がっているようにさえ思えた。
「この戦いは俺の勝ちだー!」
競りかったアルナールが返しの刃で翔天達を殺そうとしたが殺されるはずの翔天は笑っていた。
「アルナール、悪いけどこの戦いは・・・・・・」
「私達の勝ちね」
いきなり背後から現れた彩姫に反応することが出来なかった。
「この一撃は今まで殺されたみんなの分よ!」
必殺の右ストレートがアルナールの顔面を完璧に捉えそのまま殴り飛ばした。
二回三回と転がったアルナールはそのまま動かなかった。
「死んだのか?」
「ううん、たぶんまだ生きていると思う」
倒れるアルナールに近づいたらいきなり仰向けになったため起き上がってくるかと思ったがそうでもなかった。
「どうやら俺の敗けのようだな・・・・・・早く俺を殺せこうして横になっているだけでも不愉快だ」
その言葉が嘘か本当なのかは分からなかったが剣を手放しているためもう戦う手段がないのだろう。
「どうするのショウ? このまま殺すの?」
どうやらアルナールの生殺与奪権は翔天に委ねられたようだ。
三人の顔を見るとどんな答えでも問題ないと言っているような気がした。
アルナールに近づき右手に持つ剣を上に振り上げた。
「ふっ、お前に殺されるとは思っても見なかった。・・・・・・さぁ殺せよ俺はお前の大切な人を殺した憎き仇だぜ」
この期に及んでまだ煽ってくるアルナールに怒りが込み上げることはなかった。
「・・・・・・よし」
意を決した翔天は振り上げた剣をアルナールに降り下ろすことなくそのまま鞘に戻した。
「お前何を考えているんだ」
翔天はアルナールの側に座り微笑みながらある提案を言った。
「僕らと一緒にこの世界を救わないか?」