弟子として
「彩姫ーっ!」
勢いよく窓から入ってきたウンディーネは彩姫の身を案じていたが、視線をずらし下を見ると先程まで一緒に救助活動をしていたフレデリカが死んでいた。
「これは一体・・・・・・? 彩姫これはどういうことなのですか」
「・・・・・・フレデリカがショウの代わりにアルナールの剣に斬られてそれで・・・・・・」
それだけで十分だった。救助を終え翔天達の所に行ったとき薄々嫌な予感はしていた。
「ゴホッ、ゴホッ・・・・・・いってっーなーまさかあの爆発で生きていたとは」
フレデリカに吹き飛ばされたアルナールはゆっくりと立ち上がったが、喰らった傷が思いの外深かくよろめいていた。
「人がせっかく気分よくトドメを差してやろうとしたのに余計な真似をしやがって」
近づくアルナールに気づいたウンディーネはそれをみんなに伝えたが翔天だけが放心状態だった。
「おい、なぜあの爆発で生きてるんだよ」
「私がこの町の住人や救助の人達に水魔法の結界を張っていたのであの爆発で死んだ人はいません」
淡々と答えるウンディーネにアルナールはイライラしており、落とした剣を拾い狂気の顔で迫ってきた。
「おい来るぞ!」
だが翔天だけが一向に立ち上がろうとはせず呆然としている。
「おいショウしっかりしろ!」
あまりにもフレデリカの死がダメージのようで心ここにあらずのようだった。
「いい加減に・・・・・・っ!?」
彩姫が龍太を制止させたことに龍太は文句を言おうとしたが彩姫の目を見て全てを察した。
「龍太・・・・・・星華・・・・・・ウンディーネ・・・・・・しばらくの間三人でアルナールと戦ってほしいの」
「アヤちゃんはどうするの?」
彩姫は少し間をおき、決意したように言った。
「私は少しショウと話があるからそれが終わったら加勢に行くからその間だけ・・・・・・」
ポンと彩姫の肩を叩き龍太はアルナールに向かって歩いていた。
「ショウはお前に任した。アルナールは俺らで倒すからこっちのことは気にするな」
それに続くように星華とウンディーネもアルナールに向かっていった。
「ありがとう、みんな」
視線を翔天に戻したが、変わらず翔天は呆然としている。
「ショウ、いつまでそうしているつもり」
返事はなく聞こえているかも分からなかったが構わず喋り続けた。
「あなたはフレデリカの弟子なんでしょ! だったらそんなことしてないでさっさと立ち上がりなよ!」
完全に心を閉ざしている。けどここで諦めたら死んだフレデリカが悲しむ。
「わかっているでしょ! そうしたってフレデリカはもう戻ってこないそれはショウが一番知っているでしょ! ・・・・・・それともフレデリカの最後の言葉が聞こえなかったの?」
僅かだが翔天の肩がビクッと動いた気がした。
「ショウが本当にフレデリカの弟子なら立ち上がって剣を取りなさい・・・・・・ショウがそうしているのは私も辛いしそれにフレデリカだって・・・・・・」
いつのまにか自分の目から涙が出ていが今はそんなことはどうでもよかった。
「私はフレデリカ出会って一日にも満たない時間だったけど・・・・・・フレデリカがショウのことを信頼し大切にしていたのだけは知っているだから・・・・・・」
言葉がつまる。翔天が苦しんでいんのはわかっている、わかっているからこそ言わなければならないことがある。
「ショウは・・・・・・ショウはフレデリカの弟子として師匠の分まで・・・・・・戦ってこの国を・・・・・・この世界を救いなさいっ!!」
流れる涙を拭い彩姫はアルナールと戦っている方を見ると負傷しているアルナールに三人は少し押されていた。
「私はみんなを助けに行くから」
龍太達の所に走っていく彩姫は急に立ち止まった。
「ショウ・・・・・・今のままじゃ守りたい人も守れないよ」
「・・・・・・!」
再び走り出し加勢に向かった彩姫を翔真は黙ってみていた。
ーー僕が守りたい人。
横たわるフレデリカを見つめ深く考えた。
ーーフレデリカ師匠が死んだのは怒りに身を任せて戦ったせいだ。
“なんで一人で戦った。”
急に声が聞こえた。それがいわゆるもう一人の自分の声かどうかはわからなかった。
ーー周りが見えていなかったからだ。
“違うお前は周りを信頼していなかったからだ。”
辛辣な言葉が返ってくる。
ーー僕はみんなを信じてる。
“なら今お前はどうすべきなんだ。”
まるで自分を試すように謎の声が問いかけてくる。
ーー守りたい大切な人を。
彩姫に言われ思い出した。自分が何のために強くなりたいと思ったのかを。
“今のお前に守れるのか?”
正直に言えば無理なのかも知れないが翔天には新たに守らなければならないものがあった。
ーーわからない、でも一つだけ守らなくちゃいけないものがある。
“一人で守れるのか?”
彩姫やフレデリカに言われたことが今この瞬間理解できた。
ーー違う、僕は一人じゃない。僕にはみんながいるだから・・・・・・みんなで守りたい。
“できるのか?”
ーー出来るできないの問題じゃない、これはやらなくちゃいけないことだ。だって僕は・・・・・・
いつの間にか謎の声は聞こえてこなかったがそれでも翔天は謎の声に、落ち込む自分の心に向かって叫んだ。
ーーだって僕はフレデリカ師匠の弟子だから!
その瞬間、自分の体から先程とは違うものが沸き上がってくる感覚がした。