師匠として
体から出てくる炎は翔天の周りを漂っていた。
「ショウのあれって・・・・・・アヤちゃんとフレデリカが見せた・・・・・・」
「うん・・・・・・あれは間違いなく属性解放術だよ」
炎の勢いはどんどん上がっていき周囲のカーテンや絨毯が焦げていく。
「クククッそれだよそれ俺が求めてるのはその顔なんだよ」
「そうか! あいつの目的はショウを怒らせることだったんだ!」
やっとアルナールの目的に気づいた龍太だったが既に手遅れのようだ。
「そんな・・・・・・ショウ落ち着いて冷静になって!」
近づいて止めようとしても周りの炎が行く手を阻み翔天に近づくことが出来ない。
「いいねいいねー、あのときの餓鬼が力を持って俺の前に立っている・・・・・・俺はこの瞬間を待ってたんだよぉ! 属性解放っ!!」
勢いよく翔天との距離を詰めたアルナールの体からも翔天と同じように紅蓮の炎が溢れだした。
両者の剣と剣がぶつかり合い周囲にかなりの熱気が広がった。
「くっ、さすがにこの距離は俺たちの身が危ない。少し距離を取るぞ!」
距離を取り振り返ると龍太と星華はある違和感を抱いた。
「なぁ星華、なんか翔天の戦い方おかしくないか」
翔天の振るう剣をアルナールはギリギリのところでかわして反撃しているがその反撃に対する翔天の反応が少し遅れていた。
「うん、たしかに何かがおかしいと思う」
二人は長い間、翔天と共に戦っているためある違和感を持つが彩姫はどこがおかしいのか分からなかった。
「たぶんそれ二人の勘違いじゃないの? もしくは属性解放術を使っているからじゃないの?」
今までカウンター攻撃しかやっていなかったアルナールが遂に自分から仕掛けてきた。
アルナールの剣は翔天のと比べ全体的にかなりかなり大きく一撃が重いため、受け止めている翔天も足がふらついている。
「おいおいその程度かぁー、そんなんで俺を殺すなんて片腹痛いぜっ!」
タイミングよく剣を上に弾き、空いた横腹に返しの一撃を加えようとしたが周りの炎がその部分に集まり斬ることが出来なかった。
「アハハハ、残念だったな」
「うるさい! 消えろっ!」
先程、属性解放術を使いだした翔天と違いアルナールはかなり使い慣れているため余計に翔天の剣がアルナールに届くことはなかった。
「そうかそういうことか!」
急に声を上げた龍太に星華と彩姫はビクッとした。
「どうしたの急に?」
「よく見ればさっきからショウは三日月流・・・・・・フレデリカに教えてもらった戦い方をしてないんだ」
フレデリカの三日月流は本来は相手の攻撃を見てから戦う後の構えでそれを翔天が自分からでも攻撃出来るようにしたのが三日月流抜刀術だ。
「ホントだ、あれはフレデリカが教えた構えじゃない」
翔天はアルナールの出す炎の壁を力任せに壊そうとするがなかなか壊れず、その隙をつかれて反撃をくらいいつの間にか翔天は傷だらけになっていた。
「このままだとショウが危ない」
助けにいこうとするが二人の出す紅蓮の炎のせいで近づけない。
「こんなときにウンディーネがいれば・・・・・・いや、今はそんなことを言っている場合じゃない早く何とかしないと」
急に炎の威力が弱まり翔天の方を見ると、翔天から出てた炎がじわじわと消えていた。
「ヤバイ、もうショウは限界よ早く助けに行かないと」
弱まる炎を掻い潜ろうとしたとき一気に炎の威力が強まり進めなくなった。
「なんでまた炎の威力が強くなったの?」
翔天の炎は威力が弱まっている一方なのになぜ先程よりも炎が強まったのかが分からなかった。
「おい邪魔すんじゃねーよ、これからフィナーレにはいるんだからなだ!」
「・・・・・・っ! まさかこの炎全部、アルナールが出しているというの」
気づけば炎は、翔天とアルナールを囲むように大きな渦になっていた。
「どうなってんだよあいつのマナは」
尽きること無く出てくる炎にみんなは驚いていた。
「アヤちゃん、あれだけ凄い炎が出るってことはアルナールの体内のマナはどれだけ多いの?」
「違う・・・・・・これだけの威力は属性解放だけでは出来ない・・・・・・もしかしてアルナールはあれを・・・・・・」
彩姫の言っていることが分からなかったが渦の中からアルナールの笑い声が聞こえてくる。
「さすが熟練の属性解放者だねー・・・・・・察しの通り、これは神の力を使った属性解放術だよ」
彩姫とアルナールの会話は全く理解できなかった。
「彩姫、知っているなら教えてくれ今起こっているこれは何なんだ」
炎が強くなるなか滴る汗を拭い彩姫は翔天にも聞こえる声で話した。
「これは、神の細胞を属性解放術で活性化させてより威力の高い属性解放術をおこなう技なの・・・・・・私は神の細胞を知らなかったからこの技は出来ないと思っていたけど・・・・・・まさかアルナールも神の細胞を持っていてこの技を使うなんて・・・・・・」
話の内容を聞く限り彩姫はこれを使うことが出来ないことが分かってしまう。
「さぁー話も終わったことだしそろそろフィナーレといこうか 属性解放・炎神」
新たに出てきた炎はアルナールの持つ剣に集まり炎の剣と化していた。
「させるかっ!」
武器で炎の渦を壊そうとしたが炎の渦から火の玉が襲ってき壊すことができなかった。
「さぁ、もう邪魔者は入らない・・・・・・終りにしよう」
「アルナァーールっ! お前だけは絶対に絶対に殺す」
足に力が入らず立つことが出来なかったがアルナールに対する怒りの感情は増していた。
「あぁー最後の最後まで俺を楽しませてくれる・・・・・・そんなお前に敬意を払い楽に殺してやるよ」
ゆっくりとこの時間を楽しむように近づくアルナールは真っ赤に燃える剣を振り上げる。
「やめろっ! アルナール!」
「お願いショウ逃げてぇー!」
「ショウ!」
三人の必死な叫びもアルナールにとってはこの状況を盛り上げるためのスパイスにしかならないようだ。
「悲しいなー、楽しい時間とは長くは続かないものだー・・・・・・残念だがお別れだ翔天ー!」
体の動かない翔天にとってこの時間はゆっくりと流れているような気がした。
アルナールが降り下ろす剣がゆっくりと自分に迫るのが見え悔しい気持ちで一杯だった。
ーー結局、僕はこいつには勝てないのか?
ゆっくり動く世界のなかで視界の隅にこちらに突っ込んでくる人影が見えた。
ーーあ、あれは?
こちらに来る人影は翔天とアルナールの間に入り、翔天の代わりにアルナールの剣に右肩から腰にかけて斬られ大量の血を撒き散らした。
斬られた人影は倒れることはなく右手に持つ水の纏ったレイピアをアルナールの心臓に目掛けて神速の一閃を放った。
「はあぁァァァーーー!」
気合いの声が口から漏れ放った一撃はアルナールの左胸の少し下に当たったがあまりの威力にアルナールは後方に吹っ飛び壁に激突した。
周りを囲っていた炎の渦が消えたのと同時に翔天を助けた人は力尽きたように倒れた。
「あぁぁ、ぁぁ」
声にならない声が唇から漏れ止めどなく涙が溢れてきた。
倒れている人は翔天を拾ってここまで育ててくれたフレデリカだった。
「フ、フレデ、リカ・・・・・・師匠」
うつ伏せに倒れるフレデリカの下から大量の血が出てきた。
「フレデリカ師匠ォォォォ!!」
剣を杖がわりに歩きフレデリカの所に行き、仰向けにするとアルナールに斬られたところからどくどくと血が溢れていた。
炎の渦が消え急いで来た彩姫達が見たのは大量の血を流すフレデリカを抱き抱え涙を流す翔天だった。
「嘘だろ・・・・・・こんなことって」
「なんでフレデリカが・・・・・・」
漸く彩姫達が近くにいるのに気づいた翔天は星華の治癒術でフレデリカの傷を治してもらおうとしたが星華は治癒術を使おうとはしなかった。
「星華、なんで治癒術をかけてくれないんだよ、早くしないとフレデリカ師匠が・・・・・・フレデリカ師匠が・・・・・・」
座り込んで泣き続ける星華はごめん、ごめんと泣いて謝っている。
「星華・・・・・・どうして・・・・・・?」
彩姫も龍太も星華が治癒術をかれない理由が分かってしまいかける言葉がなかった。
「星華、早く・・・・・・早く治癒術を」
星華に伸ばす手を弱々しくフレデリカの手が掴んだ。
「し、翔・・・・・・天・・・・・・もう・・・・・・いいん・・・・・・だ」
その声はいつもより覇気がなく、意思の宿った目は光を失っていた。
「喋らないで下さいフレデリカ師匠、でないと傷口が」
フレデリカは横に首を降った。
「この傷じゃ・・・・・・どのみち・・・・・・もう・・・・・・助からない・・・・・・はずだ」
「こうなることが分かっていたならどうして僕を庇ったんですか」
翔天にとってこの状況は辛かった。
死んだと思ってたフレデリカが生きていて自分を助けたせいで今死にそうなフレデリカを見るのは胸を締め付けるような感覚だった。
「簡単な・・・・・・ことだ・・・・・・私が・・・・・・お前の・・・・・・師匠・・・・・・だからだ」
涙が止まらなかった。フレデリカの弟子である自分が師匠の教えてくれた剣技を無視して戦ってしまったことに。
「師匠すいません。・・・・・・僕は師匠の教えに背いてしまいました、もう僕はあなたの弟子である資格がありません」
流れる涙をフレデリカが拭いその顔は幸せそうだった。
「お前が・・・・・・なんと・・・・・・言おうと・・・・・・お前は・・・・・・私の弟子だ・・・・・・だから最後に・・・・・・師匠として・・・・・・言わなければならない・・・・・・ことがある」
無理をして喋っているせいで口からも大量の血が出ていた。
「フレデリカ師匠これ以上喋ったら・・・・・・」
「ショウ、お願いフレデリカの話を・・・・・・最後の言葉を聞いて!」
その言葉はフレデリカの死が近づいているのを教えていた。
「ありがとな・・・・・・彩姫」
短い付き合いだったが彩姫とフレデリカの間にはたしかな絆が芽生えていた。
「いいか・・・・・・お前は強い・・・・・・だが忘れるな・・・・・・お前は・・・・・・一人じゃない」
握る力が弱まりフレデリカの息も弱くなっている。
「フレデリカ師匠、しっかりしてください」
フレデリカの手を握りしめ必死に呼び掛けるがもう目が見えないのか翔天の姿をとらえれていなかった。
「もう、目も・・・・・・見えない・・・・・・か」
体温が下がっていきフレデリカの死が刻一刻と迫ってきた。
「最後に・・・・・・この世界を・・・・・・救ってくれ」
それを最後にフレデリカから一気に力が抜け閉じた瞼は開くことがなくその手は握り返すことはなかった。
「フレデリカ師匠・・・・・・フレデリカ師匠・・・・・・うわぁぁぁぁ!」
そしてフレデリカは永い眠りについた。