私は……
「――!」
不意に誰かの声が聞こえた。水面から差し伸べられた手を握り、私はその声を探していた。
「――星華!」
また聞こえた。今度ははっきりと私の名を呼ぶ声。
一体誰の声なのだろうか。分からない分からないが何処かで聞いたことのある優しい暖かな声だ。
「目を覚ますんだ星華!」
次に聞こえた声は目を覚ますんだと訳の分からないことを言っている。
なにに目を覚ませと言っているのだろうか、私はこうして目を覚ましているのに。と、そこで私は気付いたのだ。湖の底から差し伸べられている手があることに。
「星華!」
声も底から聞こえてくる。
この声は信用していいのだろうか。私は今すぐこの地獄のような場所から出たいのに――。
出たい出たいのに何で私はあの手を無視できないのだろう。もしかして私はまた地獄のような場所に戻りたいのか。
「思い出してくれ!」
思い出す……何を……私は何を思い出せば――。
「幼い頃を!」
幼い頃……私の幼い頃は――。
「この世界の冒険の事を!」
この世界の冒険……それは……それは……。
「僕達の絆を!」
絆……私の絆。
そうだ。私はあの手をあの手を知っている。
あの手は絶対に私を地獄に連れていかない。安全の保証はないけど、あの手なら大丈夫。何故かそう思えてきた。
――私は……私は戻りたいんだ。安全な場所じゃなくてみんなの所に!
掴む手を話すと私は底の手まで泳ぎその手を掴んだ。