取り戻す
洗脳……アストロギアの最も得意とする技だ。アルナールやリアンユがそうだったようにこの状況なら星華もかけられているはずだ。
ならば、洗脳者であるアストロギアを倒すのが一番なのに、星華がそれを邪魔してアストロギアに攻撃することができない。
「目を覚ますんだ星華!」
何度問いかけようが結果は変わらない。的確に急所めがけてくる足技に辛うじて反応しながら避けるもそう長くは続かない。
「もう手遅れなんですよ~。今の彼女には私以外の声は届かないんですよ~。これも全ては彼女の心に深い闇があるお陰なんですからね~」
星華の抱く心の闇。前なら理解できなかったかもしれないが今なら分かる。
きっと星華は自分の秘密が知られることによって僕らが離れていってしまうと恐れ、誰にも言わずにいた。それがストレスにもなり無意識に星華を追い詰めていたんだ。
「頼むから目を覚ましてくれ! 僕は星華ともう一度話をしたいんだ!」
一瞬、星華の動きが止まったような気がした。が、間髪入れずにアストロギアの闇を纏った闇のムチ改め触手がなぎ払ってきた。
「ショウ!」
咄嗟にミカの放った火の玉が星華の目の前の地面に当たり爆発するそのお陰で黒煙が立ち、アストロギア達の視界を遮る。
「ありがとうミカ」
視界が悪いのはこちらも同じ。でも星華の位置は何となく分かる。
目を閉じ、神経を集中させる。
あちこちから足音が聞こえる。
ミカは動いてないからミカではない。
アストロギアも遠距離攻撃があるため動いてないはず。
ならこの足音は――。
「……そこだ!」
右後方を振り返ると同時に黒煙から星華が現れる。
渾身の蹴りが頭を狙ってくる。頭を少し下げ紙一重で避けると僕は剣を捨て、星華に抱き付いた。
「目を覚ますんだ星華! もう僕の事なんて忘れてしまったのか!」
じたばたと暴れ、逃れようとあちこち殴ってくる。それでも放すことなく、なお一層強く抱き締める。
「思い出してくれ! 幼い頃を! この世界の冒険の事を! 僕達の絆を!」
黒煙が薄れていく。このままではアストロギアから攻撃を食らう。
「私がなんとか抑えるからショウはそのまま星華をお願いします!」
僕の考えを先読んでかミカがアストロギアの前に立つ。
無謀だと止めたいが今はミカを信用して星華を取り戻すしかない。
「星華……頼む……頼むから僕達の所に戻ってきてくれ! 僕は星華の事が……」