使用者二人目:親分登場
初めての使用者?が訪れてから、陽が出た回数で算出して五日経った。
あの男はそこそこ頭が良かった。
俺が無限ではないにせよ、綺麗な水を大量に出せることに目をつけたのだ。
桶を持ちこみ、満杯にして帰っていく。
おそらく都市に持っていき販売するのだろう。
水に困っている地域ならばそれなりの金になるのは容易に想像できる。
ただ、逼迫した水問題を抱えた都市が近くにあるとは思えなかった。
男が往復する時間から計算して、近郊の都市は片道二時間ほどであろう。
時計がないため正確ではないが、誤差は少ないだろう。
タンク内の水を使い簡易の水時計を作った。
体感一分で水が溜まる量を使い、徐々に単位を上げて十分単位を作り利用した。
そういう訳で片道二時間以内に都市がある。
ここは森で乾燥地域ではない。
水に困っていることはないから利益なんて出ないだろう。
ということは何か付加価値をつけたのだろう。
考えられるのは二つ。美味しさと安全性。
この二つには価値がある。前世の歴史でも市民が水を安全に美味しく飲めるのは現代に入ってからだ。
男の服装ぐらいしか情報はないが、この世界は中世ぐらいであろう。
あの時代のヨーロッパを考えれば安全で美味な水の需要は高いはずだ。
「ぼろい商売だぜ」
またも男は桶に水をくみ、出て行く。
男は満足そうだが、俺は便器としてのプライドを傷つけられ、些か不機嫌だ。
手があれば殴ったかもしれないし、口があれば怒鳴ったかもしれない。
イライラしたので瞑想して落ち着こう。
......。
...。
「本当にこっちでいいのか」
「そう、です」
いつもの男の声が聞こえて目覚める。
(あれ。二人? それにさっき水をくんだばかりだぞ)
顔を大きく腫らした男が戻ってきた。図体の大きなおっさんを連れて。
「これがそうか」
「そうです親分」
なるほど。男がやっていた水売買が親分にばれたのか。
親分は俺に近づく。
(手に武器はない。壊されることはなさそうかな)
「ここを回せば水が出るのか。確かに綺麗な水だな。良い物見つけたな」
「そ、そうでしょ」
親分が振り返り、男を殴った。
(うわー、痛そう)
「なっ、なぁにするんでしゅか!?」
「独り占めはいけないよな」
「そ、それは...」
「これはケジメだ」
数度、親分は殴る。男の反応がなくなると止める。
「次、黙ってたら殺すからな」
「...はひ」
(こえー。この親分、絶対人殺したことあるよ)
振り返った親分の手には血がついていた。
「なんかこれ...おまるに似てないか」
(お! 親分腕っ節だけでなく頭のほうも回るのね)
「言われて、見ると、そうかもしれませんね」
「ちょっと外でてろ」
男を追い出し、親分だけが残る。
この状況。
(ついにこの時がきたか)
便器としての本懐を遂げる時が来た。
俺は覚悟を決める。初めてがおっさんな事に抵抗がないといえば嘘になる。
(だけど俺は便器だ! 貴賎無く受け止め、流してやる覚悟がある! かかってこい!)
スル。
ドシ。
ブリ。
ジャー。
「ふぅー」
(......)
「こりゃあ便利だな。処理まで勝手にやってくれんのか。魔法なのか」
(......うっ。きつい)
でも耐えてやったぞ。俺自身を強く褒めてやりたい。
「後先考えずにやっちまったが、これ、水汚くなっちまったんじゃーねーか」
親分は外で待機していた男を呼び戻し、水を飲むように命令した。
「いや! いやだ!」
「グダグダうるせぇ、飲め」
ゴクゴク、と喉を鳴らす。
「...美味しいです。前と変わりません」
「よしよし。大丈夫だな。なら人を増やすぞ。枯れるまで水を取るぞ」
親分と男は出て行った。
(しんどかった...)
《満足度を1ポイント手に入れました》
《スキルを習得できます》
脳内にアナウンスが響く。神との会話と同じ方式だ。
(満足度? もしかして親分に使用されたからか)
スキルというのを調べてみた。
(......これは!?)
詳細に書くと不味そうなので音でごまかしました。
べ、別に書くのを面倒だと思った訳じゃないんだからねっ!!