二十四話 癒しの詩
「「千秋!」」
真紅と華理の悲鳴が重なった。
「先生、今すぐ結界を解いて下さい! 誰か、養護教諭の先生を!」
「一人じゃ足りない! もう試合は終わっているんだ! 全員呼べ!」
教師が慌てて治癒魔法使いを探す。
結界が解かれ、真紅と華理は中へ入った。
「千秋さん! 千秋さんしっかりして下さい‼ どうして、どうしてこのようなことを……」
魔法が止まっている。別の意味で取り乱してはいるが、何とか我を取り戻したようだ、と千秋は安心した。
「《だい、じょうぶ。ケガなんて、たいしたことない》」
「千秋、無茶しないで!」
真紅に肩を貸しながら、二人が駆け寄る。
魔法でケガを治そうと思ったが、意識が朦朧としていて上手くいかない。微かに痛みが引いた程度だ。
茶色、空色、赤茶色の瞳から涙が溢れ、零れ落ちていく。
「なかない、でよ……ほんとに、だいじょうぶ、だから…………」
どれだけ言葉を尽くしても、彼女たちの涙がは止まらない。
仕方がないじゃないか、身体が勝手に動いたんだ。
何度だって同じことをするよ。
でも、きっと、その言葉じゃ彼女たちの涙は止められない。
だから。
――君の恐怖を知った。それは孤独
君の悲しみを知った。それは慟哭――
歌うことにした。
この国で最も有名で、知らない人間は誰もいない。
少し陽気だが、どこか切なさを孕んだ曲。
嗚呼、私には何もないけれど
歌を謳うことはできる
嗚呼、私には何もないけれど
この腕を羽に変えて
君を抱きしめてあげる
少し高い少年の歌声に、観客のざわめきが鎮まる。
決して声は大きくなかったが、観客たちは皆一様に、千秋の歌に心を奪われていた。
私はいつまでも待ってる
私はずっとここにいる。だから
君の進む果てなき未来に
幸、多からんことを――……
泣くことも忘れて、彼女たち三人は歌に聞き惚れていた。
誰もが何度も聞いていたはずの歌を。
千秋はもう一度笑った。
「う……っ」
「「千秋!」」
「千秋さん!」
背中に食い込んだ傷が痛み、彼は呻いた。
そろそろ意識が飛びそうだ。
何か、言わなくては。
そう思った。
彼女たちが悲しんでいる姿は、見たくない。
こんなにも、自分を想ってくれている彼女たちの。
悲しんでいる表情は見たくない。
「オレは、だいじょうぶ。だから……」
わらって、よ――。
それが、キミたちにはよく似合う。
瑠璃は息を呑んだ。
そして、口元に手を当てて、彼女は肩を震わせて泣いた。
「あなたはいつも、他人のことばかり……」
かちゃり、と金属を外すような音が、遠のいていく意識の向こうで聞こえた。