一日目 ユメ
「…ん」
私はふと気づくと真っ暗な森の中に立っていた。
「さっきまで私は部屋にいたはずだが…」
そう呟いて私は空を見上げると今まで見たこともないような、大きくて真っ白な月が浮かんでいるのが目に入った。
「あぁ、これは夢か…」
夢と感覚的にわかった私は、別段起きようという気にもなれずなんとなく歩き始めた。
木々の合間から漏れる月光のお陰でうっすらと足元が照らされていた。
あたりからは風が木々を揺らす音、虫の音などが聞こえており他に聞こえるのは自分の足跡だけであった。
それからどれ程歩いただろうか、いくら歩いても変わらない光景と周りの音にも飽きてきた私は近くの木の根もとに腰かけた。
「それにしてもだ。なんだか、やけにリアリティがある夢だな…」
その時である、さっきまで白い光にのみ照らされていた木々の合間から一瞬、青い光が見えたのである。
「ん、今のは…なんだ?」
明らかに自然界のものではないであろう鮮やかな青色であった。
私はその光をの正体を確かめようとゆっくりと、そして静かに腰をあげた。
音をたてないようにその方向に近づいてみると、そこには白い花にとまっている一匹の鮮やかな青色の蝶がいた。
「蝶?見たことがない形だな…」
蝶を見つけた私は特に警戒することもなく、たださっきと同じようにゆっくりと近づいた。
すると、蝶は急に羽を広げると飛んだのである。
そして驚いた事に、蝶が羽ばたくと羽からリンプンであろうか、青く光粉があたりを舞った。
そのあまりにも神秘的な光景を目にした私は、一瞬これが夢であることを忘れて放心してしまったがすぐに蝶の後を追いかけて走り出したのであった。
蝶はゆっくりと羽ばたいているのにも関わらず、かなりの早さで、それでいて優雅に木々を避けながら奥へ奥へと進んで行く。
それを私は必死に追いかけた。
すると、いきなり木々が目の前からなくなり目の前が開けたのである。
眼前にあるのは一面の草原と、少し遠くで飛んでいるあの蝶、そしてさらに奥には大きな岩が何本もたっているのが見えた。
「こ、ここは一体…これは本当に夢なのか?」
またもや、放心してしまった私であるが、その時何か今までとは違った音が草原の奥から聞こえてきた。
「これは…人の声…?」
その音は微かにしか聞こえなかったので、私はそこに近づいてみようと歩き出そうとした。
しかし…
「う、うおっ!!?」
私は足を何かにとらわれて思わず転んでしまった。
倒れこんだまま自分の足を見ると草が絡み付いていた。
私はそれをちょっと恥ずかしく思って 、草を引きちぎろうと手を伸ばそうとした。
すると、いきなり周りの草がざわめいたかと思うと一斉に私の手首に絡み付いたのである。
「なんだ!これは!?」
しかし、手を無理やり持ち上げようとすると今度は腕に、そして腰に肩にと草はどんどんと私の体に巻き付いてきて、そして遂には私を地中に引きずり込もうと引っ張り始めたのである。
私は助けを求めようとしたが、草はまるでそんな私の意図を見透かすかのように終いには私の顔にまで絡み付いたのである。
そして、私は周りの草のその青青しい匂いを感じたのを最後に意識を失ったのであった。