世間は狭い
ちょびちょびいきます
最近、ある情報を得た。
ここらでその名前を知らない人間はいないだろって人物の従兄弟がある人だったということ。
「臣、あんた知ってた」
今日は日曜日。
珍しく弟の臣が家にいた。臣は2つ下で白高に通っている高校1年。私とは違い、見た目が男前な臣は女子からモテる。女子大生が好みで、1人暮らしだとよく転がり込み、家に2、3日は帰ってこないことがよくある。
だから珍しく家にいるのだ。
そんな弟は“半不良”で、『ここらでその名前を知らない人間はいないだろって人物』に憧れているから、知ってるだろうと思い、訊いてみることにした。
じゃがりこを食べながら臣はこちらを見た。
「何を」
私は1本奪う。
「芝山一郎が直也くんの従兄弟だって」
『ここらでその名前を知らない人間はいないだろって人物』は芝山一郎と言う。
私と同い年で“不良の中の不良”と言われるほど、マジでヤバイ要注意人物。最近まで少年院にいた。
うちの弟はそんな芝山一郎に憧れている。
間違えないでほしい。少年院に入るほどの不良だから憧れているのではない、と前に本人が言っていた。
臣は私の言ったことに然して驚きもせず「知ってるよ。だって直也さんが紹介してくれたもん」と言った。
私は驚いた。
「会ったことあるの!」
身を乗り出す。
直也くんと芝山一郎が一緒にいるところなんて見たことない。
「最近だな。1ヶ月前くらいにさ、俺が芝山さんに会ってみたいってぼやいてたら直也さんが「従兄弟だけど会わせてあげようか」って言ってきてくれたんだわ」
ちょっとコンビニ行かね?的なノリだったらしい。
臣はその時のことを思い出したのか、顔がにやけた。
「すっげぇ、無愛想なんだけどさ、すっげぇ、カッケーんだよ!」
興奮しだした臣。顔近いんですけど。
私は少し身を引いた。
少しショックだった。私の方が直也くんに近いとこにいるのに。
臣に先を越されたことが悔しいのか。
「そうか、お前は会ったんだな」
私は顔を俯かせる。
「俺は、お前が会ったことないってことにびっくりだ」
自分が先に会ったことに臣は自慢げだった。
臣のいう憧れではないけれど、私も芝山一郎には興味があった。直也くんの従兄弟だと知る前から。
まあそれは彼が同い年でマジでヤバイ要注意人物ってとこに興味が湧いたってだけで、そこらへんの野次馬と変わらない。
最近知った、直也くんの従兄弟だということ。
母方の妹の息子だから結構近いんだということ。
会ったときのことを思い出し、今だニヤニヤしている臣を見ながら思った。
・・・・・・世間って狭いな。