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宇宙人H  作者: 大林秋斗
2/5

同室のひろむ、いや宇宙人Hは、おれよりも少し前に入院したそうだ。

三回目とか言っていたな。

宇宙人Hは起きている時間よりも、眠っている時間の方が多い。

おれも、横になったらすぐにうとうとしてしまうけれども。


入院って退屈。

看護士さんが熱を測りにきたり、ご飯を持ってきたり、検査のために血を採られたりするけれど、

それ以外は何もないし。

とどめが苦くて甘ったるい薬。

テレビはあるけど昼とかはおもしろい番組なんてないし、ゲームは疲れるから禁止なんてひどい。

ただおもしろいと思えるのは宇宙人Hのこと。

宇宙人Hは起きているときは本を読んでいる。

星に関係するものがほとんど。

カーテンが開いている時に、宇宙人Hのおかあさんがかばんに詰めて持ってきているのを見た。

おばさんもやっぱり宇宙人なのかな?

どう見てもふつうの人に見えるんだけど。


「宇宙人H、起きてる?」

「うん、ゆうじくん。」

「本読んでたの?」

「ああ、見てた、こっちへ来る?」

おれはベッドから出た。

カーテンをくぐって、宇宙人Hのいるベッドのへりに腰掛けた。

宇宙人Hは青白い顔。

枕の側には本がある。

「ゆうじくん、調子よさそうだね。」

「そうかな、宇宙人Hは?」

「ぼくは、まあまあさ、ゆうじくんは早く退院できる気がするよ?」

宇宙人Hは少し寂しそうに言う。

「ゆうじくん、ほら、見よう?」

宇宙人Hは本を広げた。

本の世界は真っ黒な宇宙空間。

宇宙人Hはゆっくりと得意そうに話した。

「ブラックホールといってね、ものすごい重力で光も閉じ込めてしまうものがあるんだ。ブラックホールは星がたどりつく最期の姿だ。」

「さいご?」

「そう。星としての終わりの姿なんだ。」

「・・・なんだか怖いね。」

「だけど、はじまりもあるんだよ? それがホワイトホール。星はここで次々と誕生する。」

星の話をする宇宙人Hはとても幸せそう。

このまんま、宇宙にすっと溶けていくような感じがする。

おれはブラックホールもホワイトホールもよく知らない。

けれども・・・。


「宇宙って、すごいんだね。」

「そうだろう? ぼくはいつかここに帰っていくんだ。宇宙空間に体を漂わせて、自分自身の存在を感じるんだ。

自分のあまりもの小ささに怖さも感じるだろうけれど、きっと気持ちのいいものだろうなあ・・・。」

宇宙人Hはベッド近にあるロッカー引き出しを開けた。

てのひらに乗るくらいの巻貝を取り出すと耳にあてた。

「こうすると、星の声が聞こえるよ。」

「星の声? おれも聞いていい?」

おれは貝を受け取ると耳にあてた。

ぐぉぉぉぉぉと低い音がした。

「これが星の声?」

「そうだよ、正確にいえば、貝の中に通る空気の音だけれど。空気、いや大気で包まれてるだろう、地球って。いや他の星たちにも大気があるんだ。だから、この音は生きている星の声なんだ。」

「そうなんだ、宇宙人Hってさすがだよね、なんでも知ってる。」

「おいおい、からかうなよ。」

宇宙人Hがとまどってるような顔をした。

「ううん、おれ、尊敬している。」

おれは巻貝を宇宙人Hに返した。

宇宙人Hはまた貝を耳にあてて、じっと音を聞いていた。

そして貝を持ったまま、すうすう寝息をたて始めた。

おれは貝をロッカーの引き出しにしまうと、自分のいたベッドへと戻った。

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