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同室のひろむ、いや宇宙人Hは、おれよりも少し前に入院したそうだ。
三回目とか言っていたな。
宇宙人Hは起きている時間よりも、眠っている時間の方が多い。
おれも、横になったらすぐにうとうとしてしまうけれども。
入院って退屈。
看護士さんが熱を測りにきたり、ご飯を持ってきたり、検査のために血を採られたりするけれど、
それ以外は何もないし。
とどめが苦くて甘ったるい薬。
テレビはあるけど昼とかはおもしろい番組なんてないし、ゲームは疲れるから禁止なんてひどい。
ただおもしろいと思えるのは宇宙人Hのこと。
宇宙人Hは起きているときは本を読んでいる。
星に関係するものがほとんど。
カーテンが開いている時に、宇宙人Hのおかあさんがかばんに詰めて持ってきているのを見た。
おばさんもやっぱり宇宙人なのかな?
どう見てもふつうの人に見えるんだけど。
「宇宙人H、起きてる?」
「うん、ゆうじくん。」
「本読んでたの?」
「ああ、見てた、こっちへ来る?」
おれはベッドから出た。
カーテンをくぐって、宇宙人Hのいるベッドのへりに腰掛けた。
宇宙人Hは青白い顔。
枕の側には本がある。
「ゆうじくん、調子よさそうだね。」
「そうかな、宇宙人Hは?」
「ぼくは、まあまあさ、ゆうじくんは早く退院できる気がするよ?」
宇宙人Hは少し寂しそうに言う。
「ゆうじくん、ほら、見よう?」
宇宙人Hは本を広げた。
本の世界は真っ黒な宇宙空間。
宇宙人Hはゆっくりと得意そうに話した。
「ブラックホールといってね、ものすごい重力で光も閉じ込めてしまうものがあるんだ。ブラックホールは星がたどりつく最期の姿だ。」
「さいご?」
「そう。星としての終わりの姿なんだ。」
「・・・なんだか怖いね。」
「だけど、はじまりもあるんだよ? それがホワイトホール。星はここで次々と誕生する。」
星の話をする宇宙人Hはとても幸せそう。
このまんま、宇宙にすっと溶けていくような感じがする。
おれはブラックホールもホワイトホールもよく知らない。
けれども・・・。
「宇宙って、すごいんだね。」
「そうだろう? ぼくはいつかここに帰っていくんだ。宇宙空間に体を漂わせて、自分自身の存在を感じるんだ。
自分のあまりもの小ささに怖さも感じるだろうけれど、きっと気持ちのいいものだろうなあ・・・。」
宇宙人Hはベッド近にあるロッカー引き出しを開けた。
てのひらに乗るくらいの巻貝を取り出すと耳にあてた。
「こうすると、星の声が聞こえるよ。」
「星の声? おれも聞いていい?」
おれは貝を受け取ると耳にあてた。
ぐぉぉぉぉぉと低い音がした。
「これが星の声?」
「そうだよ、正確にいえば、貝の中に通る空気の音だけれど。空気、いや大気で包まれてるだろう、地球って。いや他の星たちにも大気があるんだ。だから、この音は生きている星の声なんだ。」
「そうなんだ、宇宙人Hってさすがだよね、なんでも知ってる。」
「おいおい、からかうなよ。」
宇宙人Hがとまどってるような顔をした。
「ううん、おれ、尊敬している。」
おれは巻貝を宇宙人Hに返した。
宇宙人Hはまた貝を耳にあてて、じっと音を聞いていた。
そして貝を持ったまま、すうすう寝息をたて始めた。
おれは貝をロッカーの引き出しにしまうと、自分のいたベッドへと戻った。