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宇宙人H  作者: 大林秋斗
1/5

病院って嫌い。

どんなにぴかぴかの建物であっても、

壁が染みなく白かったって、ベッドが大きくてシーツがぱりんとしていたって、

二人部屋で広くって、お日さまが照って明るくたって、

嫌いなものは嫌い。

この胸のむかむかが大きいのは病気のせいじゃない。


「ゆうじ、着替えようか。」

おかあさんが、大きなかばんからパジャマを取り出す。

おれはしぶしぶ服を脱いで、パジャマの袖に腕を通した。

「・・・入院なんて、やだ。」

おかあさんが、しょぼんとして目で言った。

「ゆうじ、お医者さまも言っていたでしょう? ゆうじのお咳をしっかり治すためなのよ。おかあさんもできるだけ病院にいるからね。」

「・・・でも・・・。」

その時、

「は、は、は。」と隣の仕切りのカーテンの奥から笑い声がした。

おれはむっとして、ほっぺたをふくらませた。

気分がますます悪い。

「ほらほら、ゆうじがだだをこねるから、笑われたじゃないの。」

おれはだんまりをきめたまま、ベッドに横たわった。



おれはそのまま知らないうちに眠ってたようだ。

薬が効いたのかな? むねのむかむかが楽になっている。

おれはそろりと体を起こした。電気がついていて明るい。

おかあさんはいなかった。もう家に帰ったのだろうか。

おれはぐるりと辺りを見回した。

隣のカーテンを見たとたん、おさまっていたむかむかが、よみがえった。

(笑ったのはだれ?)

おれはベッドから下りた。少しふらふらする。

やっぱりすぐには治らないよな、調子悪い。

おれはゆっくり歩いて、隣のカーテンをめくった。

おれと同じ年、いや下だろうか。

おれより小さい感じの男の子が、すうすうと大きな息遣いで眠っていた。

ふっくらとしたほっぺをしているけれど、蛍光灯の明かりのせいだろうか。顔が青白い。

枕の側に本が置いてある。

星空の表紙の本だ。

何回も見たんだろうな、本がぶわーとふくれている。

そいつはやがてゆっくり目を開けた。茶色い瞳のくりくりした大きな目。

「・・・やあ、こんにちは。」

そいつはにっこりと笑った。

おれは怒っていたはずなのに、そいつの穏やかな顔にどぎまぎしてしまった。

「はじめまして、君は何年生?」

そいつはずいぶん大人びた話し方をした。

「四年生。」

おれはぶっきらぼうに答えた。

「四年生か・・・、ふうん。」

「そういうお前は何年生?」

「ぼくは六年生だよ。」

おれは驚いた。自分より上の学年と思わなかったから。

どうりで大人みたいな話し方をするわけだ。

「君の名前は何ていうんだい?」

「おれ? おれはゆうじ、谷口ゆうじ、で・・・、えと、おにいちゃんは?」

そいつは肩をゆすって笑い出した。

「なんで笑うんだよ。」

おれはぷくっと、ほっぺたをふくらませた。

「ごめん、ごめん、ただ、おにいちゃんはやめてくれよ。年だってそんなに違わないだろう? 

ぼくの名前は中田ひろむ。ひろむは宇宙という漢字を書くんだ。」

「へえ、そうなんだ。」

ひろむはまたくっくっと笑い出すと、くりくりした目をいっそうまん丸にして言った。

「ゆうじくんにだけ、ぼくの正体話してあげる。ぼくは実は宇宙人なんだ。」

「えっ!?」

「本当の名前、記号なんだけど、宇宙人Hと呼ばれてるんだ。」

おれはどう答えていいのか分からず、ぽかんと口を開けたまま、ひろむ、宇宙人Hの顔を見ていた。


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