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『さぁ、点呼が終わりました! ついでに入学式もこれで終わりです。起立、礼着席!』


「最後ぐらい真面目にやれ!」


『ま~いいじゃないですか、学園長の方針ですよ~……はい、これから皆さんお待ちかね、我が校の恋愛システムについての説明と、ドキドキパートナー探しを開催します!』



 終始このテンションで疲れないかと思うくらい陽キャオーラを振りまきながら入学式を終えた遠田は、またもや幕際からの怒号にへらへらと返してからパチリと指を鳴らした。



 生徒たちがまばらに着席しながら彼のほうを見やると、遠田の背後に大きなスクリーンが降りてきたのが見えた。




『では、ここからは竹道一葉(たけみちかずは)先生にお願いします。説明どうぞ!』


『……どうも、恋愛システム監修を担当する竹道です。まずは皆さんご入学お願いします。それから早速ですが説明に移りたいと思います』




 遠田から放り投げられるようにして空を舞ったマイクを、ノールックで受け取り壇上右端に姿を現した竹道という教師が、低音ボイスで喋り始める。同時にスクリーンにスライドを表示し操作した。




『我が校では三年前から開発を進めてきた、恋愛相性度を測ることのできる最新鋭のAIを搭載したチェリーパラメーター、略してチェリプロというものを使用します。

 これは脈拍や体温から、この学園内にいるチェリプロをつけあった者同士の相性度を分析表示するプログラムが搭載されています。

 この学園に入る際に了承してもらったと思いますが、あくまで期待値とはいえ相当高い精度で相性度を表示するので、お互い両想いとか片思いとかそういうものはすべて表示されてしまうと思ってください—————』




 竹道は流れるような口調で淡々と恋愛システムについて述べ始めた。

 ワカメの様に長い黒髪は正直見た目に野暮ったい印象を与えていたが、黒スーツに若干垣間見えるガタイの良さと、何より落ち着いた口調に、体育館中の誰もが司会者をこの人にするべきだったのではないかと思った。



『次に、今日のこれからの流れについて説明します。今日この説明の後、皆さんには相性度が最も高かった者同士で一時的にカップルを組んでもらうことになります。

勿論出合ったことのない人ばかりでしょうから、今回はあくまで目安だと思っていてください。

これはあくまで試験の際に入力してもらったフォーマットと、試験管への受け答えなどを加味して算出した結果です……そして、受付を済ませたのち各自カップルで昼食を取ってもらいます。

そのあとは自由解散です。一応寮はクラスごとに階層で別れていて、共同スペースでの交流ができるようになっています。

それから各部屋に事前に送ってもらった荷物が振り分けられているので、すぐに日常生活が送れると思います。


——————でも、すでに審査は始まっていると思ってください』




「「「「「⁉」」」」」




 竹道が鋭く言い放った一言に周囲が騒めく。紡も表情を変えないものの心中で首を傾げた。




『————なんの、と言いたげですね』


「はい! 俺も気になります!」





『は?』




 含みあるように竹道が言った途端、壇上に再び上がってきた遠田が大声で叫ぶと、一瞬で竹道の表情が歪んだ。




『何で知らないんですか、あなたもいっぱしの教師でしょう、あり得ないです……』




 瞬間陰湿な口調に代わった竹道に遠田の頬がひきつる。恐らく遠田は生徒の気持ちを代弁したつもりだったのだろうが、本気で引いた様子の竹道を見ると、何やらこの二人には因縁がある様だった。


 こちらには関係がないので早く説明に戻ってもらいたいところではあるが。



「竹道先生、抑えて!」



 幕際から小さく声が飛び、しばし目を瞬かせた竹道は調子を戻して説明を再開した。



『えー……この学園にはほかの学校と違って、恋愛という成績科目を付加しています。評価は他教科と同じく十段階。どのようにして成績が上がるのかについては後程各自のチェリプロにメールを送信しますが……大まかに、イベントポイントを貯めることと、共に過ごした時間とどのような過ごし方だったのか、項目を満たす行動に相性度を掛けたものを評価対象に考えています。

ですから、早々に部屋に引きこもるよりは相手とコミュニケーションを図ることをお勧めします』



 竹道がそう言い切ると、生徒たちのざわめきが大きくなった。

 恋愛を促進するとは言われていたが、まさか恋愛に成績が付くとは考えていなかったからである。しかしみんなは意外とまんざらでもなさそうだった。


 高校生という青春真っただ中にAIで打ち出された相性のいい人と合法的に交流できる機会というのは一種憧れの様なものであると感じたからだろう。


 しかし説明をかみ砕いた紡にはめんどくさいという感情以外浮上しなかった。

 入学式を乗り切ったら早速自習室で勉強でもしようと思っていたのに。先回りするかのように、自分の思考と近しいことを竹道に指摘されて、若干きまり悪くなる。




『え~静かに。驚くのは無理もありませんが、これは将来の君たちの活躍を考える上でも大事な成績となってくるのです』


「え~どんなものですか?」


『っ……!』




 竹道がまた一睨みし、遠田は誰かに引っ張られたのか、袖に消えていった。懲りない態度に何人かの生徒は笑っていたが、竹道の不機嫌そうな表情に押し黙る。


 先ほどのざわめきも自然に収束し、すっかり静かになったところでまた竹道は喋り始めた。





『我が社『CHERRYQUITESEA』は、将来君たちの就職場の候補として機能したいと考えています。その際この恋愛という科目—————正確にいえば、これは恋愛だけでなく普段の人間性や社会貢献度なんかも評価対象に含む予定ですが————の評価を就職の評価として活用します。

高校三年間のうちに人間性を見極めることであなたたちは『CHERRYQUITESEA』への就職が有利になりますし、こちらとしてもスムーズな対応が可能になります。

……とまぁ、まだまだ話したいことはありますが、初日に伝えておくこととしてはこのくらいでしょうか。恋愛が教育に組み込まれると知って不安な人も多いかもしれませんが、私たち教員も全力でサポートしますから、安心してください。これで説明を終わります』




 すべてを言いきり、満足した竹道がエンターキーを強く押し込む音が響いたと同時に、スクリーンに



『レッツパートナー探し!』となんともポッピーな文字が映る。



 スクリーンを確認した竹道は一瞬で顔を曇らせ、それから『……ここから先は、遠田先生に戻します。説明お願いします』と言って、意気揚々と壇上に再び現れた遠田にマイクを手渡す。


若干力強かったのは気のせいではないだろう。遠田の手の皮にばしっと強い振動が伝わったのが見えた。 




『はい、司会を変わりました遠田です! 皆さんさっきぶりですね! それでは早速ドキドキパートナー探しを開催します! あ、このスライド俺が竹道先生にお願いして入れてもらったんですよ。楽しげでいいでしょ?』




 それであんな不機嫌な表情になったのかと、先程の竹道の態度を反芻した何名かの生徒が苦笑いした。


 当の本人はなんとなく手の皮を痛そうにさすってはいたものの、何も気にしていないというようにしゃべり始めた。




『まず皆さんには各自一人一つずつチェリパラを手渡します。電源が入っている状態なので、そのまま聞き手とは逆のほうの腕に装着してください。そこには既に各自のデータを入れてあるので、本人確認を一応してください』




 遠田の明るい声と同時に脇に待機していた教師たちが生徒たちの前を通り、一人ずつチェリパラを手渡し始めた。



「はい、五番、神代」


「ありがとうございます」



 受け取ってみると、正方形の滑やかなパネルが、腕時計の様にベルトについている作りになっていた。

 左腕にはめると、フォンという軽い起動音と共に画面が明るくなる。



【一年B組五番:神代紡……YES/NO】


『生徒名とYES/NOが表示されると思うので、選択してください』



 遠田の声に導かれるままYESのアイコンをタッチすると、ホーム画面のようなものが表示された。既にインストールされているアプリがいくつかあり、ざっと確認したところ電話やメッセージ、ニュース、おそらく学習用アプリ、その他こまごました実用的なアイコンが表示されていた。



 周囲の生徒達も自信のチェリプロを受け取ったのか楽しげに画面を見つめている。大方の生徒が本人確認を終えたと判断した遠田が一層声を張り上げた。




『さあ皆! 先ほど竹道先生がおっしゃっていたように、今日から恋愛という教科の成績付与が開始します! そしてそのポイント稼ぎの第一歩となるのが今日のこのイベント、ドキドキパートナー探しです! さぁ皆、体育館の後ろに移動するんだ!……準備は良いか?』




「「「「「「「「「「お……おおおおおおぉぉ‼‼」」」」」」」」」」




 ここでようやく桜ヶ丘水上学園の目玉……恋愛教育に実感が湧いてきた生徒たちが、遠田の声につられ

て一斉に沸いた。興奮に満ちた表情でパイプ椅子から立ち上がり、体育館後方の開いているスペースにかけていく。



『さぁ皆、お手元にご注目! これから一斉に相性度公開を行います。表示されている名前の人を探して是非話しかけてみてください! 今日限りは一番上の相性度の人と全員がパートナーを組めるように調整しているので、その人に話しかけてください!あぶれることはありませんから大丈夫、恐れずに話しかけて、パートナーを組んでもらってください!』




「「「「「「「「「「お~‼‼」」」」」」」」」」





『上位の相性度をたたき出したカップルは、このスクリーン上に表示されるので、みんな是非注目してみてください! それでは! スリー、ツー、ワン!』




 遠田の声につられてみんながカウントダウンを始める。






『「「「「「「「「「「ゼロ‼‼‼」」」」」」」」」」』



「……本当に、面倒くさい」




 その中で、紡は椅子に座ったまま下を向き、大きくため息を付いた。


 恋愛する気などさらさらないものの、桜に頼まれたあの約束が、これから自分を厄介ごとに巻き込んでいく気配しかしなかったからである。



 カウントダウンがゼロになったとたん生徒たちのチェリプロがピピピピ、という高い電子音を鳴らしながら一定に光りだした。それから少しおいて、各自ランキングのような画面が浮かび上がる。どうやら自分にとっての上位五名の名前とクラス出席番号、相性度が表示される仕組みになっているようだった。



 周囲が一気に色めき立ち、自分たちのカップルを探し始める。





『さあ、スクリーンにも結果を反映しますよ! 栄えある一位カップルの相性は果たして~?』



 そして、遠田の楽しげな声とともにスクリーン画面が更新され、大きなランキング表が表示される。とたん、体育館中の生徒が驚愕で一瞬言葉を失った。





 その視線の先にあるのは、一位に輝くカップルの相性度。




 神代、北条ペア—————相性度:七十二%




『おっと、入学初日からまさかの相性度七十%越え……これは先の展開が気になるところです! さぁ、どう出る⁉』




 壇上で若干驚愕に声を震わしながら遠田が叫びだしたが、紡はそれにかまっている余裕はなかった。



 胸中を面倒くさいの一言で満たしながらおもむろに立ち上がり、周囲を見回す。それからお目当ての人物に向かって一直線に歩き出した。



 桜の脅しがなければ、この場で適当にカップルを作成した後、何かに理由をつけて解消し、一人ひっそり学園生活を送るつもりだった。それか、自分の地蔵っぷりに慣れている夏菜を巻き込んで、三年間過ごそうと思っていた。



 しかし、こんな大衆の面前で告白してから隠居生活を送ることは到底期待できないだろう。





 きゅ、きゅ、と買ったばかりの体育館靴を鳴らして一歩ずつ歩く。周囲の生徒はその勢いに気おされて後退し、紡の行き先に列を作った。





「——————いた。北条綾乃ってお前のこと?」



 いや、もしくは今ここで最低な男子としてふるまえば、すぐに愛想をつかされて、放っておいてくれるかもしれない。そんな一縷の望みをかけて。



 もともとの仏頂面に瞳をとがらせ紡は鋭く言い放った。






「プロセスなんてどうでもいい—————俺とさっさとカップルになろう」


 それで人が離れて行ってくれるのだと、このころの紡は真剣に信じていたのである。人間と関わるのが苦手な、おそらくは人間不信に陥りかけていた彼の、唯一の希望だった。




 その彼の、節々から滲む優しさに、周囲が彼を放っておかないということにも気が付かずに——————





「はい……?」





 今ここに、困惑の表情を浮かべる茶髪の少女も知りえない、運命にも近い幸せな未来が、火ぶたを切られた。



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