表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

変わってしまったのは、私だった

 昼休み、教室の後ろの席で、誰かが恋愛の話を始めた。


「ねえ、結衣って好きな人いないの?」


 からかう声に、結衣は少し考えてから答える。


「うーん……」


 そして、あっさり言った。


「私さ、好きとかよく分かんないんだよね」


 周りが「えー?」と笑う。


「だって、絵描いたりゲームしてる方が楽しいし」


 本気でそう思っている顔だった。


「誰かと一緒にいるより?」


「うん。気使うの疲れるし」


 軽い笑いが起きる。


 話題はすぐ別の方向へ流れていった。


 私は黙ったままパンの袋をたたむ。


(……そっか)


 胸の奥が、少しだけざわつく。


 でも、それは痛い感じじゃなかった。


 好きな人がいるわけじゃない。


 誰かと付き合っているわけでもない。


 まだ、誰のものでもない。


 それが分かって、

 少しだけ安心する。


 同時に、


 私との時間が特別なわけでもないんだと、

 なんとなく分かった。


 結衣は、いつも通り笑っている。


 ただ、好きなことをしているだけで。


 私はその横顔を見ながら、


(……まあ、いっか)


 と思うことにした。


 まだ、

 隣の席は空いているんだから。


ーー


その日の放課後、美術室へ向かおうとして廊下を歩いていると、前の方に結衣の姿が見えた。


 声をかけようとして、足が止まる。


 隣に、同じクラスの女子がいた。

 昼休みにゲームの話で盛り上がっていた子だ。


「昨日さ、あのダンジョン行ったんだけど」


「え、ソロで?」


「うん。でも途中で死んだ」


 結衣が小さく笑う。


「だから言ったじゃん、あそこ難しいって」


 二人は並んで歩きながら、当たり前みたいに話している。


 距離が近い。


 時々肩がぶつかっても気にしない。


 そのまま、二人で階段を下りていく。


(……あれ)


 私は廊下に立ち尽くした。


 声をかけるタイミングを逃した、というより。


 そこに自分が入る場所がない気がした。


 ゲームの話は分からない。


 話しかけても、たぶん会話は止まる。


 そう思うと、足が動かなかった。


 結局、美術室に着いたのは二人より少し遅かった。


 ドアを開けると、結衣とその子が机を挟んで座っていた。


「花音ちゃん」


 結衣が気づいて手を上げる。


「さっき一緒に来ればよかったのに」


 悪気なく言う。


「……気づかなかった」


 適当に答える。


「今度さ、みんなで協力プレイやろうって話してて」


 隣の子が言う。


「花音ちゃんもやる?」


 私は少しだけ笑った。


「ゲーム得意じゃないから」


「そっかー」


 あっさり引き下がる。


 会話はまた二人のものになる。


 私は自分の席に座り、スケッチブックを開く。


 鉛筆を持つ。


 でも、線がまっすぐ引けない。


(……なんで)


 胸の奥が落ち着かない。


 結衣は誰のものでもない。


 誰と話してもいい。


 分かっている。


 それでも。


 他の誰かと並んで歩くのを見るだけで、


 自分の場所がなくなる気がした。


 私は、鉛筆を強く握った。


 結衣は何も変わっていない。


 変わっているのは、


 たぶん、


 私の方だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ