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女の子が好きだと言えなかった

サッチとは、気軽に話せる関係になった。


でも、私の心はまだ重いままだった。


女の子が好きだということは、言えなかった。


もし受け入れてくれたら。


もし、そのせいで私がサッチを好きになったら。


それも怖い。


でも――


気持ち悪いと思われたら。


そう思うと、もっと怖かった。


だから、言えなかった。


とうとう、担任に呼び出された。


「花音、ちょっと話せる?」


職員室の隣の小さな部屋。


椅子に座ると、先生は静かに聞いた。


「何があったの?」


先生の声はやさしかった。


でも、私はうつむいたまま言った。


「何も……」


私がそう言うと、

先生は少しだけ困った顔をした。


それから、静かに言った。


「みんな心配してるよ。

花音のこと」


先生の言葉を聞きながら、

私は少しだけ目を伏せた。


心配しているというより――


みんな、

自分たちに都合よく動いてほしいだけなんじゃないか。


そんなふうに思ってしまっていた。


「ハスネちゃんとか……

ユキコちゃんとか」


同じグループの子の名前。


「花音が一人でいるから心配だって」


また、普通になれ。


普通が正しい。


そんなこと、分かってる。


分かってるのに。


できないから、苦しいのに。


気づいたら、口が動いていた。


「……結衣のこと」


先生が少し首を傾げる。


「好きになっちゃって」


言葉が止まらなかった。


「フラれたから、仲良くできないんです」


一瞬だけ、担任が止まる。


「……そうなんだ」


「気持ち悪いですよね……」


涙が浮かぶ。


「なんで?」


先生が、少しだけ首を傾げる。


「だって……」


言葉が詰まる。


「女なのに、女の子好きになって……」


先生は静かに言った。


「好きになる気持ちは、男でも女でも同じでしょ」


当然のように言われて、びっくりする。


もっと困った顔をされると思っていた。


でも、先生は普通だった。


なんで、引かないんだろう。


それでも――

先生だから言ってくれているのかな、と思ってしまった。


もし本当に、誰かに好かれたら。

そのときも同じことを言うんだろうか。


きっと、嫌なんだろうな。


そんなふうに考えてしまう。


母親に否定されたのも大きかった。


「お母さんも学生の頃、女の先輩に憧れたことあるよ」


「よくあること」


そう言われた。


でも、私の気持ちは

“憧れ”じゃなかった。


「花音の気持ち、話してみない?

ハスネちゃんと、ユキコちゃんに」


「わかってもらえないと思います。それに……」


「それに?」


少し迷ってから、言った。


「私、友達いないから」


「ハスネちゃんとユキコちゃんは、友達じゃないの?」


「本当に思ってることは言えないし、

言ったら……

きっと、離れていく」


先生は少し考えてから言った。


「言ってみなきゃ、わからないじゃない?」


「……」


私は答えなかった。


他人事だから言えるんだよ。


自分が同じ立場だったら、

きっとそんなこと言えない。


そう思っていた。


教科書にも、年頃になると異性に惹かれるようになるとしか書いてなかった。


今の教科書はわからないけど、

当時の教科書はそうだった。


だから私は、

自分がどこか間違っているんだと思っていた。


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