私は希少なスキル持ちでした。そしてお父様も・・・
私は口元を隠していた扇子をピシリと閉じると、私の目の前にいるレオンハルト殿下とルナティア嬢に向かってニッコリと微笑んだ。
私のその態度に、二人とその後ろの側近候補たちも一瞬たじろいだけれど、もう気にしない。
あぁ。そういえば自称王家の影ことサントス様は、この場からいつの間にか退場されていますわね。
同僚の方々に連れて行かれたのではない事を祈っておきますわ。
「レオンハルト殿下、最初にわたくしのことを『スキル無し』と叫んでおられましたが、それは間違いです。実はわたくしもスキル持ちなのです」
私の唐突な言葉に、途端に会場中がザワザワと騒がしくなる。
それはそうでしょう。公爵家自らも私を『スキル無し』だと認めていたのですもの。
今更何を言っているのか?とお思いになった方もたくさんいらっしゃることでしょう。
『第一王子の婚約者はスキル無し』というのは有名な話でしたし、だからこそ私を婚約者の座から引きずり下そうとする貴族たちや陰で蔑み嘲笑する令息令嬢もうんざりするほどいましたものね。
正直、それも本当に鬱陶しくて仕方がなかったのですわ。
だってなりたくて第一王子の婚約者になった訳ではありませんのよ?
それなのに学園では、聞こえよがしに悪口や嫌味を言ってくる令嬢たちの相手をするのも地味にストレスだったのよ。
王妃様や王族の方々は、私がスキル判定を受けた翌日に、国王陛下が独断で王命を出してまでレオンハルト殿下と婚約させた裏には何かあると感じ取っていらっしゃったようで、いつも殿下の非礼を詫びてくれていました。残念ながら国王陛下にはその気遣いはありませんでしたが。こういうところがレオンハルト殿下に受け継がれているのじゃないかしら?
それにしても肝心のレオンハルト殿下がねぇ・・・。初恋の少女に夢中になり過ぎた挙句に、殿下の勘違いを利用されて性悪女に騙されるなんて。さすがに呆れを通り越して怒りも湧かなかったほどです。
「はっ!?いきなり何を言い出すのだ、お前は!
お前が神殿で『スキル無し』と判定されたのは周知の事実ではないか。しかも生活魔法しか使えない役立たずだということは学園の皆が知るところだ。
それをお前は公爵家の力を使って、魔法の実技の授業を不正に免除させていたのだろうが!」
あ~、まだ言いますか。
そこまで言っちゃいますか。
私のことは嫌いでも、物事を見極める目と考える頭を少しでも持っていて欲しかった。レオンハルト殿下はこの国の第一王子で、多少は頼りなくても、やがて王太子となり国王となるはずだった人なのだから。
残念王子が更に愚かな王子に仕上がってしまった今、果たして本当の初恋の人を前にしてもルナティア嬢を選ぶのかしら?それとも・・・。
「わたくしが女神様より授かったスキルは、特殊スキルだった為に秘匿扱いとなっていたのです。
希少スキルは国への報告が必要ですが、私の場合は更に特殊なスキル故に、国への報告も限定され、王家では国王陛下しか知らぬスキルなのです」
そう言って国王陛下へと視線を向ければ、もう全てを諦めてしまったのか?陛下は鎮痛な面持ちでゆっくりと頷いただけでした。
「なっ、父上、本当のことなのですかっ!?
マリエッタが特殊スキル持ちだと何故、私に教えてくれなかったのです!
教えてくれたなら、愛せずとも『スキル無し』と蔑む事まではしなかったのに・・・」
・・・・殿下はブレませんわね。
いや、別に愛されたいとは思ってはいませんのよ?ですが、息子の為に、と父親が王命を使ってまで結んだ縁談相手に、ここまで配慮の出来ない人はそうはいないのでは?
「そういう誓約だったのですよ、レオンハルト殿下。
あぁ、娘が特殊スキルを使うというのならば、私もスキルを使う必要がありますね。
そういえば、娘がスキル判定を受けた時、その場に立ち会った者、国へと報告する際に携わった者、報告を受けた者全てに私が誓約魔法をかけたのですよ。
実は私も希少スキル持ちでしてね。マリエッタのスキルを秘匿する事は、彼女を守る為に必要な措置だったのですよ」
お父様が素晴らしい、いえ、恐ろしい笑顔を浮かべながら私の方へと歩いてくると、そっと私の肩に手を置きました。
「はっ、誓約魔法をかけるだと?魔道具も使わずに人が誓約魔法をかけるなど聞いた事もないぞ!
娘可愛さに適当な事を抜かすな」
レオンハルト殿下がそう言ってしまうのも当然のことと思います。この国には誓約魔法というものが存在しますが、それは魔道具を使用して作られた特殊な紙を用いて行われるものだったからです。
正確に言えば、誓約魔法が掛けられている紙を使用した誓約書、という事になりますわね。
「ですが、私は使えるのですよ。その誓約魔法をね。だからこそ希少スキルと呼ばれるのであり、国へと報告を義務付けられスキルの一つなのです」
そう、お父様のスキルも私と同じようにとても希少なスキルだ。なんと言ってもーー。
「だがルーデンブルグ公爵、貴方は希少スキル持ちであっても『スキル無し』などと公表していないだろう?
ならばマリエッタを『スキル無し』と偽る必要だってなかったのではないか」
あら珍しい。レオンハルト殿下にしては、鋭いことを言いましたわね。ですが、発言中のお父様に対しては言ってはいけませんでしたわね。
「殿下、人の話を聞いています?
私のスキルは希少スキルであって、特殊スキルではないのですよ。
マリエッタは特殊スキルを持っているだけでなく、属性自体も希少な魔法属性持ちなのです。
そして極めて特殊なスキルな上に、使用する魔力量も桁違いに多く必要な為に、生活魔法以外の一切の魔法を覚えることが出来なかったのです」
昔は同じ属性の他の魔法を使えるようになりはしないかと、これでも努力をしたこともあるのです。
ですが、特殊スキルを先に覚えてしまっていた為に、他の魔法を習得することは出来なかったのです。
レオンハルト殿下の態度にそろそろ我慢の限界が近づいてきているのか?お父様は態とらしく大きなため息を吐きました。そして呆れた様子を隠すこともなく言いました。お父様も物分かりの悪い殿下に苛立ちを抑えられなくなっているようです。
その気持ち、よぉ~く分かりますわ。
「ふんっ。マリエッタよ。そんなに勿体つけるのならば、今ここでその特殊スキルとやらを使ってみせればいい。そうすれば『スキル無し』などという不名誉な言葉で蔑まれる事も無くなるのではないか?」
レオンハルト殿下は振り上げた拳をもうどうして良いのか分からなくなっている状態なのかしら?
それとも私が、ルナティア嬢は殿下の初恋の人ではない、と否定したことに苛立って我を忘れてしまっている?
まぁ、どちらでも良いですわ。私は殿下に言われずとも、もう特殊スキルを使うと決めたのですから。
「レオンハルト殿下、わたくしがここで特殊スキルを使えば、わたくしが『スキル無し』ではない事の証明になるだけでなく、殿下の初恋の人がルナティア嬢ではない事の証明にもなってしまいます。それでも宜しいのですね?」
レオンハルト殿下の隣で青褪めているルナティア嬢は、私が言ったお忍びの記録が残っている発言で、殿下の勘違いに便乗した嘘がバレてしまう事を恐れているのかもしれないわね。
けれどまだ謝罪も弁明もしないという事は、彼女を初恋の人と信じて疑わないレオンハルト殿下の態度に一縷の望みを懸けているのかしら。
ですが私の証明の仕方は、その程度のものではありませんのよ?
「お前の特殊スキルとやらがどんなものでも、ルナティアがあの時の少女だと私が断言している。そしてルナティアもそれを認めているのだ。間違いなどあるはずもない」
レオンハルト殿下の言葉にルナティア嬢の肩がビクリと小さく動いた事に、睨みつけるように私を見ていた殿下は気付かなかったようですわ。意外とまだ余裕があるようです。され、その余裕もいつまで持つのかしら?
私は隣に立つお父様の顔を見上げると、お父様は大きく頷いて会場全体に届くように大きな声を出しました。
「今、この会場に居る全ての者に誓約を!
マリエッタ・ルーデンブルグ並びにテオドール・ルーデンブルグの所持スキルについて。そして今、この場で起こる奇跡も含め、何人にも話すことを禁ずる!」
サントスくぅ〜ん!
ここまでお読みいただきありがとうございましした。明日もよろしくお願いします。




