ついでにやってもいない悪事も暴かれました
よろしくお願いします。
さて、八歳の頃から婚約者に愛されていない私でしたが、公衆の面前で無能呼ばわりされた挙句に、晴れて?婚約破棄まで宣言されてしまいました。
この場合、どう対処するのが正解なのでしょうね?
どなたかにそう問いたくとも、私のことを長年の憂いとまで言い切ったレオンハルト殿下の言葉に、国王陛下は絶句し、またも固まってしまいました。
他の王族の方々に至っては、揃って顔面蒼白のまま、壇上で見目麗しい置き物と化しております。
逆にお父様は、それはそれは満面の笑みを浮かべて私を見ていますわね。けれど目が笑っていません。
そのようなお顔をなさるならば、お父様がこの場を収めて下さっても良いのでは?と思うのですが、その笑顔は『私に全てお任せ』という意味でしょうか?
私には非常に荷が重いと思うのですが、確かに当事者ですからね。名指しで婚約破棄を宣言されておりますし、ここは頑張って何とかするしかないのでしょう。
「おい!何を呆けている、マリエッタ。
お前はスキル無しの無能な上に、私と親しくしていたルナティアに嫉妬し虐めていたそうだな!
ちょうど良い機会だ。皆の前で私のルナティアに謝罪したらどうだ?」
また無能と言われてしまいましたわ。そのことはどうでも良いのですが、今、聞き捨てならない言葉を言われたような・・・。
「虐め、ですか?誰が、誰を虐めた、と?」
はて?と小首を傾げながら、改めてレオンハルト殿下に視線を戻せば・・・あら?物凄く真っ赤なお顔になっていらっしゃる。
「なっ!お前はそこまで性根の腐った女だったのか!?
お前が私のルナティアに対して、酷い暴言を浴びせた上に、彼女の持ち物を破壊するだけでは飽き足らず、水まで浴びせかけたそうだな。
更には彼女に手まで出したそうじゃないか。それなのに今も平然として彼女の前に立っている。お前には良心の呵責というものがないのか!」
あら?あら、あら、まあ!
これはいよいよ王都の下町でも上演されているような三流芝居のような展開になってきましたわね。
レオンハルト殿下の隣でぶるぶると震えて立つ女性は・・・あら、震えているように見せかけてこっそりと私に向けて不適な笑みを浮かべていますわ。
上目遣いでちらりと私を見てくるその愛らしい目が、勝ち誇った目をしているようにしか私には見えないのですが?
目の前の美少女、ルナティア・ロマン男爵令嬢は、噂ではロマン男爵の愛人だった平民の女性との間に出来た娘で、数年前に母親が亡くなったことで男爵家へと引き取られたと聞いています。
その愛らしい見た目と天真爛漫さで、学園の男子生徒たちを虜にしていると聞き及んでいましたが・・・。
同時に婚約者のいる男子生徒への振る舞いに、女子生徒たちからは非難の声が多数上がっていることでも有名な方でした。
その彼女を私が虐めた、と?
ここはキッパリと否定すべきところですわね。
「わたくしはルナティア様を虐めるようなことは決して致しておりません」
「白々しい!ルナティアは泣いて私に助けを求めてきていたのだぞ」
分かってはおりましたが、私の言葉は聞き入れてもらえませんのね。
一応、まだ私たちは婚約者同士だと思うのですけれど、十年かけても信頼関係は築けなかった、ということでよろしいでしょうか?
「ですが、わたくしは本当に虐めておりませんのよ?
それにレオンハルト殿下の婚約者であるわたくしには、王家の影がついております。なのでわたくしの素行に問題があれば全て王家の方へと報告が上がっているはずです」
私に王家の影がついたのは、学園に入学してからのこと。勿論、レオンハルト殿下にも王家の影がついているし、私にもついていることは殿下も最初に教えられたはずなんですけどね。
「お前に王家の影がついているのは知っている!」
あら?覚えていらしたのですか。それならば、何故?
「だが、その王家の影が国王陛下にではなく、私にお前の悪事を密告してきたのだ!
さあ!王家の影君。マリエッタの悪事を今、この場で証言してくれたまえ!」
はぃい?
レオンハルト殿下の突拍子もない発言に、危うく淑女の仮面が外れそうになりましたが、扇で顔を咄嗟に隠したから大丈夫ですわよね?
あ、お父様が俯いて肩を小刻みに震わせています。平静を装おうとしていても、笑いを堪えているのが丸わかりですわ。
隣に寄り添って立っているお母様は目が笑っていません。どうやら見逃してはもらえないようです。これは屋敷に帰ってから注意を受けそうですわね。
いえ。もしかしたら私を見ての反応ではなかったのかも?
だって、レオンハルト殿下の言葉とともに、全身黒ずくめの怪しい男性が会場の奥の方から人をかき分けて私たちの方へと歩いて来ていたのですもの。
「あ~、すみません。ちょっとそこを通してくれないっすか?あ、ありがとうっす。やあ、どうもどうも!」
何、この人!?
いえ、実は確かにこの男性、夜会の最初から居たのは存じておりましたわ。ええ、この全身黒ずくめの恰好でしたからね!
黒いヴェールのような何かで顔まで隠していたのに、それはまあ器用に、会場に置かれていた料理を食べておりましたの。
なぜ、このような不審者が夜会に!?
誰もがそう思っていたと思いますわ。だって彼の半径二メートル以内には誰も近付こうとはしておりませんでしたもの。
まさかこれが、王家の影?!
その疑問は、たぶんこの夜会に出席している皆様が、全員一致で思ったことでしょう。
しかし、これで一つ、謎が解けたのも事実。
こんな怪しい人物が会場にいるのに、壁際に立つ衛兵や騎士たちが捕縛しなかったのは、レオンハルト殿下に指示されていたからなのでしょう。
この場の異様な雰囲気をものともせずに、レオンハルト殿下の前までやってきた全身黒ずくめの男性は、私を指さすと声高らかに叫びました。
「マリエッタ嬢がルナティア様を虐めていたのを僕、いや、王家の影であるこの俺がこの目でしっかりと見ました!!」
あら?この声・・・。
『ルナティア様ぁ〜。数量限定のショコラケーキスペシャルを手に入れてきましたよぉ!』
ルナティア嬢のぱしり、と有名なサントス・アース男爵令息の声と目の前の彼の声が脳内で一致した気がするのですが・・・。
ねえ。大丈夫?
彼は本当の王家の影の方々に処されるんじゃないかしら?
王家の影の立場は・・・




