癒しの力
癒しの力とは・・・。
この国の守護神である女神ルナリス様に対して、不敬な物言いで呼び止めたのはルナティア嬢でした。
聖女に認定してから帰れ?
アナタ、ナニ、イッテルノ?
先程まで青い顔をしてペタリと座り込んでいた彼女は、立ち上がって胸の当たりで祈るように手を組み瞳をうるうるとさせています。
が、一体、何故、聖女に認定しろ、などという話になるのでしょう?
聖女の話なんてしていましたっけ?
「何を言っているのだ、あの阿婆擦れが」
私の隣でお父様が小さく呟いているけれど概ね同意。阿婆擦れ、の表現は置いといて、いきなり女神様に向かって『聖女にしろ』などと発言するのはあり得ない。第一、先ほどまでのルナリス様との会話に、ルナティア嬢は入ってなどいませんでしたよね?最後は空気のような存在になっていましたわよね?
「えーっと、ルナティアちゃん・・・よね?」
流石のルナリス様も戸惑い気味です。
「きゃあっ。ルナリス様は私の事を知っていてくださったのですね。
やっぱりそれは私が特別だということですよね!」
この子は空気のようになっていただけではなく、ルナリス様の話を全く聞いていなかったようですね。この国の民全てがルナリス様の愛しい子だとルナリス様が仰っていたのに、どうしてそんなに自分の都合の良いように受け取れるのかしら?
それにレオンハルト殿下が物凄い形相で貴女を見ていらしてよ?
もしかしたら特別という言葉に反応しただけかも知れませんが。
「ん~。何を言いたいのかよく分からないけれど、ルナティアちゃんは聖女にはなれないわよ?」
「えぇっ!何でですかぁ?
女神様に頂いた私のスキルは癒しですよ。それに回復魔法も使えます。
しかも見ての通り、私の髪と瞳はルナリス様にそっくり!!これは絶対に聖女でしょう!」
ルナリス様が、聖女にはなれない、と言い切っているのに、それでも聖女だと言い募る彼女の神経の図太さに、羨ましいとは思いませんがある意味感心してしまいます。この図太さは案外、陰謀渦巻く貴族社会で過ごすのに向いているかもしれませんね。
まあ、彼女もレオンハルト殿下の勘違いに便乗して彼らを騙し、こんな公の場で自分が殿下の初恋の相手だと言い切ってしまったのだから、この後の事を考えたら崖っぷちに立っているようなものですよね。
その崖から落ちない為には、王族と同等の地位と権力を与えられるという聖女になる可能性に賭けるしかない、とでも思ったのかしら?
「あのね?確かにルナティアちゃんは、ほんの少し回復魔法のようなものを使えるけど、あなたの魔法属性は水よ?覚えていないのかしら?」
ルナリス様が困った様な表情で首を傾げています。
あら?彼女の魔法属性は水属性でしたか。癒しのスキルを持っていると聞いていましたので、てっきり光属性なのかと思っておりましたわ。
「嘘っ!だって私のスキルは癒しですよ?それにスキルを使うと皆が『癒される』って言ってくれるものっ。確かに水属性ですけど、回復魔法だって使えるんだから絶対に聖女です!
あ!聖女じゃなくて、もしかしたら女神の生まれ変わりかも!?」
いやいやいやっ!女神様、亡くなっていませんからっ!
今、あなたの目の前に立っていますから!
国王陛下っ!そろそろ兵士を呼んでこの子をここから連れ出して?
初恋に執着して人生踏み外しかけた貴方の息子が、そろそろ犯罪に手を染めそうな形相になってきていますからぁ!!
本物の初恋の人に出会えてから、レオンハルト殿下のルナティア嬢を見る目がゴミ虫を見る目つきに変わっているような気がするのは気のせい・・・ではないですよね?
殿下の中ではご自分が、ルナティア嬢を『私の女神』と呼んでいた事も、記憶から消し去りたい過去の痛い過ちになっているのでしょう。というか、その記憶は完全に消去されているのかもしれません。
「ふふふ。ルナティアちゃんて本当に面白~い。あのね。ルナティアちゃんのスキルは癒しではあるけれど、あなたが考えている癒しではないの。あなたの癒しの力は温泉と同じものよ」
「はぁ~!?」
声に出したのはルナティア嬢だけでしたけれど、心の中でそう叫んでいたのは私を含め、ここに居る者全てだったと思いますわ。今日一番の驚きを更新したのじゃないかしら?
だって、癒し違いですよ?
誰だって、温泉と同じ癒しの力?何それ!と思いますもの。神経が図太いと思われるルナティア嬢も流石に固まってしまっていますわ。
「あのねぇ。温泉に入ると『癒される~』と思うじゃない?
たしかルナティアちゃんが生まれた頃に、温泉に行くのが日課になっていたのよ〜。温泉て山奥とかちょっと離れた場所にあることが多くて、誰もが気軽に行ける場所ではないでしょう?
だからそういう人の為にも、温泉気分を味わってもらいたいなぁ』と、思ってたのよね。
ほら!あなたに触れられると体がぽかぽかして癒される人って居たと思うのよ。それに温泉の効能って、腰痛とか体の疲れを取ったりみたいな、回復魔法に似たところがあるでしょう?
だから回復魔法を使えると思っちゃったのかしら?」
ルナリス様の発言に、口をあんぐりと開けて固まっている側近候補たちの姿が見えますけど、まさかルナティア嬢に触れられて体がぽかぽかしていたのを『ルナティア嬢の回復魔法は素晴らしい!』などと言っていたわけではありませんよね?
そんな馬鹿な!
そう思いましたが、気が抜けたように膝をつく側近候補たちの姿が。
・・・どうやらその通りだったようですね。
癒しのスキルの正体が、温泉由来のものだったなんて、この場で暴露されてしまったルナティア嬢には流石に同情致しますわ。
あらっ?でもまさか・・・。
この国の民は、ルナリス様のその日の気分でスキルを授けられていたわけではありませんよね?
そんなことを考えた時、ルナリス様と目が合いました。目が合ったはずなのにサッと目を逸らされたのは、そう考えたことにルナリス様が気付かれたということですよね?
そしてルナリス様が私から目を逸らすということは・・・まさかっ!?
マリエッタ、勘の良い子・・・。




