表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇異ものがかり〜隼と雀蜂〜  作者: 空-KUu-


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

第八話 鬼宴(下)

1


三河がスマホを耳から離し、皆へ向き直った。

「警視庁の本間警部から連絡入りました。大江山の封鎖、完了したっす。斥候は二人に任せて、みなさんは少し休んでください。集合は零時、裏口で」


黒崎は欠伸まじりに片手を上げ、

「オレは寝るわ」

とだけ残し、背中を向ける。


美維が肩を回しながら、

「アタシらも体力残しとこ」

めぐと真太郎も無言で頷き、それぞれの部屋へ散っていった。


―――


深夜零時。

裏口には全員の姿が揃っていた。


三河が手を叩く。

「よし、揃いましたね。大江山の麓まで向かうっすよ!」


黒崎が眠たげに眉を寄せる。

「眠みぃ……」


――その頃、大江山。


月も星も沈んだ闇の山中。

二つの影が木々の間を音もなく滑っていく。


イーグル――鷹谷はヘッドセットを暗視・ズームへ切り替え、呼吸音すら殺して進む。

スコーピオン――佳奈は指先に符を挟み、周囲を満たす“気”を読み取っていた。


「……静かすぎる。死んだ山みたいだ」

鷹谷が呟くと、佳奈が首を振る。

「いえ……多いです。八十……いえ、それ以上」

「ほぉ。宴の準備中、ってとこかな」


ふたりは木陰から眼下を覗いた。

篝火の周りで、雑鬼たちが輪を描き――

足を踏み鳴らし、腕を振り、意味のない音を喉の奥で転がす。


地獄の盆踊り。


「……センス良すぎんだろ、あいつら」


鷹谷は通信を開いた。

「こちらイーグル。雑鬼百以上。動きは……停滞」


三河の緊張した声が返る。

『停滞って、どんな?』


「……踊ってるよ」


佐伯の声が割り込む。

『東京・大阪班、所定の位置へ着いたら報告。仙台班は待機』


鷹谷は小さく息を吸う。

「了解……スコーピオン、様子見のまま静止だ。

いいねぇ――鬼どもの地獄が始まる」


2


“鬼の宴”を中央に、西へ鷹谷と佳奈、南へ黒崎とめぐ、東へ美維と真太郎――

三方向から包むように配置へ滑り込む。


黒崎が木陰に溶けながら無線へ声を落とす。

「ファルコン・ホーネット、到着」


ほどなく美維の静かな声が返る。

「ヴァイパー・クロウ、こちらも着いた」


佐伯が続ける。

『――まだ動くなよ。鬼らは宴の最中や』


その瞬間、めぐの足元で太い枯れ枝が勢いよく折れた。


バキッ!!


「えっ⁈」

めぐの顔が凍りつく。

山に響いた音へ、雑鬼たちの視線が一斉に集まった。


佐伯が怒鳴る。

『誰やー!』


黒崎がすぐさま返す。

「先生、ボクじゃありません。ホーネットさんがやりました」


めぐは縮こまりながら、

「す、すみません……」


鷹谷が西から状況を見て眉を上げる。

「雑鬼の群れ、ファルコン達へ移動開始」


佐伯、『しゃーない。戦闘開始や』


黒崎は符を構えるめぐへうなずく。

「どうせこうなる。行くぞ、ホーネット」

「はい…」


鷹谷が囁く。

「スコーピオン、行きますよ」

佳奈の目が吊り上がる。

「キャハハ!鬼狩りだぁ!」


真太郎が呟く。

「鬼退治は渡辺家の生業。任せてください」


雑鬼の群れが黒崎とめぐに殺到する。

めぐの符が連続で飛び、黒崎は“酒呑之牙”を携え、群れへ突入する。

次々と闇へ還していくが、多勢に押され黒崎はタコ殴りにされる。


「ファルコン!」

めぐの焦った声が上がる。


その瞬間、東から真太郎の影が駆け込み、一薙ぎで十体以上を切り伏せた。


「……三国無双かよ」

黒崎が呻く。


美維も追って現れる。

「……封」

雑鬼が飛ばした金棒を符で易々と弾く。


めぐが目を見開く。

「そんな使い方?」

美維が微笑む。

「封はね、守りにも使えるんだよ」


そこへ西の鷹谷と佳奈も合流。

「スコーピオン、援護」

「ハハハッ!!封!」


佳奈の符が命中するたび、

鷹谷の“牙”が華麗に一閃し、雑鬼たちを霧へ変えていく。


だが霧は消えず、篝火の向こうへ吸い寄せられていく。


三河の声が緊迫する。

『反応あり!人間です!コレはあの時と同じ、おそらく慶蔵さんです!』


「何っ⁈」

黒崎の顔が一変する。


木立の間から宙に浮かぶ慶蔵が現れ、篝火へゆらりと引き寄せられた。

口からこぼれた黒い息が霧へ混じり、巨大な影を形成していく。


――酒呑童子、復活。


ただその口に牙はない。

「……我、この穢土えどになぞ、戻りたき望みなど……持たぬ……」

ぽたり――血の涙が地へ落ちた。


三河『対象Sランク!削除対象っす!』


鷹谷が叫ぶ。

「解除申請!」


佐伯からの通信。

『――承認』


金剛銃のロックが外れる。


真太郎が一歩踏み出す。

「ボクにも、一撃入れさせてください!」


疾風のごとく駆け、一閃。

酒呑童子は回避したが、左腕が吹き飛んだ。


酒呑童子の金棒が真太郎を襲うが、“鬼切”がぎりぎりそれを受け止める。


鷹谷の声が鋭く飛ぶ。

「クロウ後退! 符使い達“滅”を!」


「滅ッ!!」

三人の符が刺さり、酒呑童子の動きが鈍る。


鷹谷が金剛銃を構え――

無言で引き金を絞った。


轟音が轟き、山を揺らす。

酒呑童子の胸に大穴が穿たれた。


鷹谷は肩を押さえながらよろめく。


その時、慶蔵が再び黒い息を吐き――

雑鬼が二体、痩せこけた躯を引きずり出すように現れた。


二体は黒崎と鷹谷にそれぞれ近づき、二人の“牙”を舌で絡め取る。


「かえせ……かえせ……」

「酒呑童子様へ……かえす……」


牙を舌に絡めたまま、篝火の向こうの闇に消える雑鬼。

次の瞬間、膨張した黒い霧が再び形を取った。


二回り巨大になった酒呑童子が立ちはだかった。

今度は牙がある。

ただし瞳は光を失っていた。


三河が叫ぶ。

『対象、計測不能……ヤバいです!』


真太郎が言う。

「符使いのみなさん、援護を!」


符が飛ぶ。

鷹谷が呟く。

「金剛弾、残弾一。二連射なんてしたことたいんですがね…」

金剛銃を静かに構える。


真太郎が酒呑童子に再び飛び込み斬りかかる。しかし金棒に弾かれ、地面へ転がり失神。


符使いたちは半円を取り直し、

その中心に――鷹谷がゆっくり一歩、前へ出る。


「滅ッ!!」

符が刺さる。それでも前進は止まらない。


鷹谷は二発目を撃ち放つ。

鷹谷の肩が外れた音が鈍く鳴る。


轟音。

酒呑童子の胸を貫く。

「二度と……この現し世へ……呼び戻すこと……なかれ……」


闇に溶けゆく中、

二本の大きな牙だけが地に残った。


―――


鷹谷は右肩を押さえ蹲り、

真太郎は気を失い、

符使い達も立っているのがやっとだった。


静寂を裂くように、

慶蔵が黒崎の方へ歩き出す。


黒崎はふらつきながら立ち上がり、拳を握ると紫のグローブに梵字が浮かんだ。


黒崎は一瞬で距離を詰め、打撃を連ねる。

慶蔵は拝蔵のように軽く受け流し、玄武流の型で鳩尾へ二本指を突き込む。


黒崎が地へ崩れる。

「うぐっ……その技も玄武流……慶ちゃん、オレだ……ハヤトだよ……!」


慶蔵の瞳が揺れた。

「ハ……ハヤト……? う、うう……」

両手で頭を押さえ、苦しげに膝を折る。


鷹谷の声が飛んだ。

「ファルコン! 撃て!」


黒崎は腹を押さえながら立ち、

揺れる瞳で慶蔵を見据え――

金剛銃の引き金へ指を添える。


しかし。


闇が翼の形をとり、慶蔵の背に貼りついた。

バサリ、と黒い翼が広がり、

慶蔵は東の闇へ飛び去る。


―――


酒呑童子の牙二本を拾い上げた鷹谷が、

怒りと悔しさを宿した目で黒崎へ歩み寄った。

「……ファルコン。撃てたはずだ。ロックも外れていた」


黒崎は血を拭いながら、

「……今日、確信した。慶ちゃんはまだ“空亡”に操られてるだけだ。

オレは、人間には……撃てない」


その言葉の直後、鷹谷の拳が黒崎の頬を殴りつけた。

「オラだづだって命懸けで戦ってんだべや!!

鬼に力を吹き込める人間なんて、何処にいんだよ!!」


黒崎は反論できず、ただ目を伏せる。


鷹谷は肩を震わせ、

「……次、奴が現れたら。

オラはためらわねぇ。撃つ。

……佳奈、行ぐべ」


佳奈と共に、闇へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ