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ハイオク満タン
気がつくと、てつや――いや、今やアルトワークスとなった彼は、自動車整備工場の片隅に停められていた。ボンネットの下で目を覚ましたとき、自分が車になっていることにまだ慣れないでいた。
「おい、今日からお前が新しい通勤車な!」
メカニックのおじさんが、そう言ってキーを回す。エンジンがブルルンと震え、胸の奥(エンジンルーム?)が熱くなる。
「えっ、俺、動けるの!? ……てか、給油とかどうすんの?」
考えていると、ガソリンスタンドに連れて行かれた。給油口にノズルが差し込まれると、不思議な感覚が全身に広がる。
「ハイオク満タンで!」
高級燃料が体内を駆け巡る。なんだか、すごく元気が出てきた。
――これが……ハイオクの力……!
今までのニート生活では味わえなかった謎の活力に満ちあふれるてつや。
「これなら、どこへでも走っていけそうな気がする……!」
新しい人生(車生?)の幕が、今、上がった。