(元々の)晴嵐の神子 あらすじ
高校(一年)生の木崎陶冶は窓際の机に突っ伏しつつ授業に半分耳を傾け、半分は外に意識が向いている。
彼は右斜め上の大名美冬を見つめる。
彼は外の景色を見て、そこにはないが城がある光景に思いを馳せる。また魔法使いという存在に対する憧れを持つ。この世界には現実に存在する。
その日の授業が終わると木崎は一人で教室にいた。そこに大名が来て、
「木崎くん、私のこと見てたけど私のことどう思っているの?」
と尋ねる。彼は思いついたことを流暢に述べていったのだが、要約すれば「大名美冬は目の保養になる」ということだった。
彼女はその言葉に微笑んで彼の元を離れる。
次の日大名は学校に来なかった。彼は親友の男に「元気がないな」といった声をかけられる。木崎は大名のことが気になるという。
「喫緊の問題としては今夜は考えすぎないように気をつけろよ」
親友はこのようなことを言って、思春期の少年を揶揄う。
そこに眼鏡をかけた刈山茂樹が来て、彼らの話に割り込んでくる。
その次の日も次の日も大名美冬は学校に来ない。
浅野綾は木崎に「おはよう」と言い、彼は「おはようと返す」(彼女は彼に好意を持っていた)
ある雨の日木崎が帰路を歩いていると傘を差していた大名が来て、「木崎くんどうしたの?」と聞く。彼らは並んでいたが、彼女の方が身長は高かった。
すると突然遠くから晴れ間が現れ全天が晴れ渡っていく。木崎は「大名さんちょっと歩かない?」と言う。彼女は「デート?」と聞くが、木崎は何も答えない。
しかし大名美冬は学校に来ない。
木崎が親友に話すと、彼は「直接連絡するしかないだろ」と励ます。木崎は学級の連絡の集まりから大名のアカウントを見出す。
「何と言えばいいかな?」
「『今から会える』以外にないだろ」
彼が電話をかけると彼女が出た。彼女は少々困惑している様子だったが、彼は近くの丘の上で会う約束を取り付ける。
彼らはその日の夕時丘の上の長椅子に腰掛けて話す。晴嵐が吹き渡っていた。
「大名さんどうしたの」
「言えないし、もう会えないの。さようなら」
大名は帰り、木崎は親友と刈山の元へ戻っていった。彼らは木崎を励ます。
大名美冬は消失した。いなくなったということを木崎陶冶は担任の教師から聞く。
彼は大名への思いを忘れられず彼女のことを探すことにする。
刈山は一人で部屋を借りていた。木崎とその親友はそこで作戦会議をするために集まることになった。
彼らは魔法使いに探してもらおうということになった。「本屋に行こう(そこに魔法使いがいるかもしれない)」電車での帰り、親友は「木崎の母ちゃん美人だよな」という。刈山は同意し、木崎は「やめろ」という。
木崎は母に「俺はお母さんのこと大好きだよ」と伝える。
三人は電車で都市に行き、天幕が繋げられて延々と天を覆っている本屋に行くことになった。都市なので高い建物はなかった。
駅で降りて、彼らはそこから歩いて食事をとることになり、木崎は「カレーライス」のようなものを食べた。彼はグラスの水を飲んで大名美冬への誓いを立てていた。
木崎は建物の屋上で遠く風船が飛んでいくのを目撃する。
天幕の本屋に行き、あらゆる人を見ながら魔法使いらしい人を探していく。中々見つからない。
そんな中で木崎がある本に目を止めてそれに手を伸ばすと、ある人が後ろから声を掛けた。
彼は魔法使いのような雰囲気を纏っていた。また何とかという漢字の組み合わせで表現された記念日か祭りのようなものが近いということを仄めかす。木崎はこれを心に留める。
「あなたは魔法使いですか」
「僕は佐藤文、その通り」
と言うことを明かし、木崎は大名美冬を探してほしいということを伝える。しかし佐藤の反応は連れない。
残りの木崎の友人二人が集まった時、彼らの目の前で佐藤は「じゃあ僕はそろそろ行くね」と言って、光に包まれてその場所から消失した。
木崎は失望の最中帰宅することになったが、彼の親友は「木崎、お前が魔法使いになった方が早いんじゃないか」という。
木崎は魔法使いが言っていた単語について調べたが検索結果は一つも見つからなかった。彼はそこに何かあると確信する。
木崎は自分が魔法使いになって大名美冬を探し出すことを決意する。
彼は川原で競技用の球を握って寝転びつつ、それを上に軽く投げては取り直すということを繰り返していた。そこには子供たちが遊んでいた。
彼は精霊湖が枯渇しつつあるということに思いを馳せながら、魔法使いとしての適性が自分にあるか考えていた。
彼は目を閉じて集中した。するとその場所の様子が浮かんできたのだが、誰もいない。彼はそこから歩いていく。すなわち彼の精神世界の様相を呈していながら、その場所の構成は適切になされているようだった。
(彼は学校に通いながら魔法の特訓を続けていた。当然大名美冬は来ない。その頃浅野綾が話しかけ、「最近どうしたの?」と尋ねる。彼は現状を明かす)
川原で木崎が魔法の特訓をしていた頃、浅野綾が来て彼女の携帯を木崎に見せ、「この人が佐藤文じゃないかな」と彼に言い、連絡を取ってくれるという。
すると魔法使いの佐藤が現れて、彼らの目の前に来た。
「君の気持ちはよく分かった。もしかすると……」
大名美冬は選ばれて遠い地に連れて行かれることになってしまったかもしれないと仄めかす。
佐藤は木崎の左肩に右手を置いてすれ違うようにしながら、
「それと木崎くん、君は魔法の才能は少しあるけど、少しだけだから気負わない方がいいよ」
と言ってからその場から消失した。
木崎は親友と刈山にこれらのことを伝えた。
それから少しして親友は「なんかこいつも大名さんのこと好きなんだって」といって、体育会系の短髪の男性をその場に連れてきた。どうやら彼も大名を探そうとしているようだった。
それから少しして佐藤文が彼らの前に現れて、右手を肘を軸にしつつ回しながら、状況について説明を始める。木崎陶冶、その親友、刈山、体育会系の同級生がいた。
佐藤文は誰か一人を交換要員としてこの地域に残して、彼の妹と合わせて四人で旅をし大名美冬を見つけ、彼女と交換する魔法を使い、その後彼女のいる地から帰還することを提案する。
刈山茂樹が交換要員を担うことになった。(彼はしばらく郊外の一室に事実上監禁されて過ごすことになる)
数日後学校のグラウンドに佐藤文と十歳くらいの魔法少女の格好をした人物、四人の高校生が集まっていた。
「私の名前は佐藤才です。よろしくお願いします」
彼女は魔法使いの格好をして、厚く模様の入った外套と先の尖った帽子を被っていた。以下魔法少女とも表現する。
七人で手を繋いで円となり、佐藤文が魔法を使って彼らは遠い地に転移した。中国大陸に相当することが示唆されている。
廃墟となっている街に彼らはいた。(木崎と親友、体育会系の同級生、佐藤才の四人を残して浅野と刈山と佐藤文の三人は帰っていった)
そこから彼らは歩いていく。彼らは街を出て川を渡る。魔法少女は川の流れの上に出ていた石の上を転々として、軽やかに飛び越えた。他の人たちは苦戦した。
彼らは森に入り、その中で過ごした。体育会系の同級生は眠らなかったが、他はまちまちだった。魔法少女はすやすやだった。
三人は魔法少女の呼び寄せた灰色の大鳥に乗って、目的地と思われる場所に向かうことになる。(大鳥と乗り手の人は魔法で磁石のように張り付く。木崎は気怠さを感じてやや眠そうにする。)。後ろは森が広がり、目の前は崖で、その下には遠く一望する限り深い森が広がっていた。
灰色の大鳥の口を通して遠隔で会話が可能であり、魔法少女の指示に従って四人は陣形を成して飛んでいく。
度々彼らは大鳥を休憩させながら進路を先に行っていた。
目の前に川の流れのあるある森の中で過ごしている時、魔法少女は彼らの服を少し高いところに造った水の球体の中に入れて洗濯をした。
他のところで休んでいる時、木崎はその夜にその森の開けたところから茂みの方へ進んで行った。親友に声をかけられ彼は我に帰った。
「大名さんのこと考えていたのか?」
「まあそんなところかな」
大鳥に乗り飛んでいる時起伏が激しい荒野を見下ろした先には巨大な竜がその場所を占めていた。
「大漢竜です。あれだけ大きな個体は飛べないんですけどね」と魔法少女
四人は湖の畔に鳥を下ろして、魔法少女は鳥たちに巨大な芋虫のようなものを出現させて与えた。
「木崎起きろ」と親友は言う。木崎陶冶は我に帰った。
都市の近くに到着する。その都市は大大都と言い、人工的な直線の城壁に囲まれていた。佐藤才が天女という存在について仄めかす
「天女って何?」
「天子様にお目かけされている人たちのことです」
(大名美冬は天女として選ばれたのではないかとのことだった)
四人は宿屋に泊まった。そこで食事を摂った。
彼らは大名美冬を探すために城壁の中の街を歩いた。しかし見つからない。
「さえちゃんにとって一番悪いことってどんなこと?」と体育会系の同級生。
「裏切ること」と魔法少女。
木崎は胸を叩いて彼らを見る。
「心だよ」
宿屋において佐藤才は地図を見せる。それは天子という支配者とその関係者が住んでいるところであり、漢字でその場所の幾つかの施設の名前を伝えた。
木崎は目を閉じて意識を集中し、誰もいない空間へその意識を移し、そこを歩いていく(精神的な働きである)。彼は天女と言われる人々が住んでいるところを歩いているが、大名美冬らしき人の居場所は見当たらない。
そんな中彼は取手のない櫛を見つける。彼はそこについていた髪の毛を見てそれが大名美冬のものであると確信する。
彼が気付くと夜だった。佐藤才が薬草を煎じて彼に飲まそうとしていた。彼は自分が見たことを魔法少女に証言し、明日の朝大名捜索に出ることを提案する。
佐藤才はそれを受け入れて、他の二人にも希望が見えた。彼らは翌朝走り出るように天女の住まう場所に向かっていった。
木崎が覚えていた場所に押し入ると(或いは魔法で鍵を開けて入ると)女中が慌てていた。奥の部屋には長い着物を着た大名美冬が向こうを向いて座っていた。
彼女が振り向くと木崎と目が合った。彼は、
「大名さん、今は詳しくは言えないけど、また会おうね」
と言った。魔法少女が魔法の杖を彼女に向け、魔法を発動させると彼女はその場から消失した。
場面は変わり水がついて曇った窓の外に夜の暗闇が漂う狭い一室に佐藤文と大名美冬がいた。彼は座っている彼女を見下ろしつつ、
「ここは君の通っていた学校から少し離れた年の郊外だ。着替えたくなければそのままでもいいが、そのままで外を歩くと不審に思われる」
と言って、彼女に着替えを渡した。彼女を促して、浴室の中でそれを済ませるようにさせた。
それから彼らは外に出た。外には雪が降っていた。大降りではなかったが、かなりの量の積雪だった。彼は「君は木崎君のことどう思っているの? 彼は君のことが大切みたい」と言う。彼女は「私も同じです」と答える。
場面は変わり、浅野綾の家で彼女が自分の部屋で勉強道具を片付けている時にスマホの通知が来る。佐藤文からの連絡だった。彼女はその部屋で急いで身支度をして、一階へ降りていく。
急いで、玄関から出ようとしているところ、彼女の母親が「門限はとっくに過ぎてる」と言うと、彼女は「無効」とだけ言って、家を飛び出した。彼女の弟が「お姉ちゃんは?」と母親に訊くと彼女は首を振ってその子の背中に左手を当てて二人で扉に背を向けて廊下の奥の空間へ向かった。
彼女は少し雪の降っている街を街灯沿いに走っていく。彼女は近くの駅に着いて、そこで列車が来るのを待っていた。積雪はそれほどなかった。
場面は変わり、大雪の駅で橙色の光が照らす夜の駅のホームに佐藤文と大名美冬がいた。
すると列車が近づいてきて止まった。彼らが列車の扉の前に立っていると、それが開き、中に浅野綾がいた(彼がその場所を予見していた)。佐藤文は大名美冬の左側にいて彼女の左肩をその右手で押して、列車の中に入る。列車はほとんどすいていた。
「後はよろしくね」
彼はそう言うと、列車から出て、すぐに扉が閉まった。浅野は大名と列車の長い席の端の方に座って、「美冬ちゃん大丈夫だった?」と心配そうに訊く。彼女は「うん、大丈夫」と少し弱い調子で返した。
彼女らは自分の街に降り、浅野と大名はそれぞれ帰路に着き、大名は扉を開けて家の中に入っていった。その背後の高いところで佐藤文は彼女を見下ろしていて、一連の光景を見た後姿を消した。
それから彼女の日常は帰ってきて、学校生活が始まった。
彼女は佐藤文から借りていた服をクリーニングに出していて、それを取りに行った(それをどうやって返したのかは定かではないし、彼女が保管していたともとれる)。
彼女は学校での日常を過ごしているのだが、一年が過ぎ、二年が過ぎていった。彼女は三年生になっていった。彼女は学業では優れた結果を残していたが、机に突っ伏して過ごしていた。勉強のことを聞かれても生返事だった。
彼女は学校近くの丘を登っていた。家族連れがいて、親子の間に大名はいた。彼女は家族連れの様子を眺めた後、自分の境遇に思いを馳せた。
それらのことの前後か間にリビングのテレビでテーブル越しに佐藤愛という女性の魔法使い(すなわち佐藤兄妹の母)が戒厳令を発表するのを見た。
彼女は佐藤文から携帯に直接連絡が来て、「しばらく遠出などせず外出を控えてほしい」とのことだった。その頃までに軍が出動していて、街を生き巡っていた。
その時期も過ぎ去り、三年生の秋になった頃彼女は学校の放課後に携帯で天気予報を見た。それまでしばらくの間晴れとの予報だったのに、全て雨マークに変わっていた。彼女は曇りつつあった空を教室の窓越しに見つめて、帰る支度をした。
彼女が学校を出る頃には雨だった。彼女は傘を持っておらず雨の中を気持ちが塞がりながら歩いていく。水溜まりを越え、時に立ち止まりながら進んでいく。
「大名さん濡れちゃうよ」
雨が遮られ、彼女が振り向くと彼女より背が高くなっていた木崎陶冶がいた。彼は彼女の右に立ち、その顔彼女ではなくはやや空に向かっていた。
彼が天に手を伸ばし何かの言葉を言うと、丁度彼らの真上から晴れ間が現れ、円形に雲がなくなっていき、全く快晴となった。(彼は魔法使いになっていたようだった)
「大名さん、しばらく歩かない?」
「デート?」
「そうだよ」
それから二人は雨止みの街をしばらく二人で並んで歩いた。