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第18話

 そこは、まさに地獄だった。 ヒヒイロカネによって作られた位相空間。 時の流れすら超越したこの“訓練場”には、ただ一つの明確なルールがあった。 ──「死なずに八大地獄を生き延びろ」 それが、俺がこの覚醒修行を終え、真の力を得るための唯一にして絶対の条件だった。 ……ただし、“死なない”という意味が、根本的に狂っていた。


「ぎゃあああああああああ!!」


 俺は(自主規制)から(自主規制)を(自主規制)されている。 そう、俺はいま“三途川虐殺地獄”の二丁目にいる。


「死ねないんだよなぁ、ここ……」


 死んでも、すぐ蘇る。 蘇ったらまた殺される。 何度殺されても、地獄の規律がそれを“無かったこと”にして、容赦なく繰り返してくる。 だからこそ、地獄。


「うぉぉぉぉぉ……ヒヒイロカネぇぇぇぇ!! 訴えるぞテメェ!!!」


『苦しみながら乗り越えた者にしか、真の力は授からん。頑張るのじゃ、総一郎よ……(どこか楽しげ)』


 八つの地獄、順不同。 業火、氷獄、穿刺、責め道、猛獣、飢餓、無間、永劫── このすべてを、“死なずに”生き延びて、初めて俺はこの修行を終えられる。 生き残るというのは、ただの生存じゃない。 自我を保ち、精神を折られず、諦めず、抗い続けること。 つまりは、肉体の修行ではない。 ──心の修羅だ。 俺は叫び、嘆き、泣き、笑い、罵り、吐いて、這って、それでも立ち上がり続けた。


「ふざけんなよ……俺は、俺は……この世界を守るんだよ……!」


 それが、俺の戦いだった。 誰かに与えられた運命じゃない。 “俺の未来”は、俺が取り返す。 ──そしていま、俺は七つ目の地獄を抜け、ついに最後の一門へと足を踏み入れた。 残り一つ──“無間地獄”。 果たして、俺の魂はこの最果ての地獄を超えられるのか。 


 *** 


 一方その頃、アルシアは── それは、まるで夢の中の風景だった。 青空のように澄んだ天蓋、雲のように柔らかな足場。 周囲には、微笑みながら語りかける仙人のような存在たち──如来、菩薩、羅漢。 どこか懐かしく、優しく、心の底から癒される空間。 彼女は、そこで“心”の修行を受けていた。


「あなたには、人の心を理解する素質があります。だからこそ、慎重に、深く考えて学びなさい」


 仏陀の言葉は、まるで水面に落ちた雫のように、心の奥まで染み渡った。 そして菩薩たちは、次々と彼女に試練を与えていく。 ──怒りに飲まれず慈悲を選ぶ場面。 ──絶望に屈せず希望を示す場面。 ──愛を疑われても、信じ続ける選択。 それらを、彼女はすべて受け止め、乗り越えていった。


「アルシアは……成長が早いねぇ」


「もう観音の域に達しておるよ」


「これぞ、未来を照らす光の器……」


 褒められるたび、アルシアは小さく首を横に振った。


「いいえ、私はまだまだ未熟です。……でも、総一郎と一緒に歩むために、私はもっと強くなります」


 その目に宿った輝きは、地上にいた頃とは比べ物にならない。 ──と、その時だった。 ふと、風が吹いた。 空間が微かに揺れたかと思うと── ピンッ アルシアの耳に、何かが触れた。

(今……総一郎の声が、聞こえた……?)


 錯覚ではない。確かに聞こえた。


「……っ! 総一郎もきっと、この天国のどこかで頑張ってる!」


 アルシアは両手をぎゅっと握りしめる。


「私も……頑張らないと……!」


 天上の修行場に、小さくも揺るがぬ決意が刻まれた。 


 ***


 そのころ地獄では、総一郎が絶賛ギブアップ宣言中。


「ギブ! ギブアップだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 だがヒヒイロカネ曰く──


『修行にギブはないのじゃ。頑張るのじゃ、総一郎よ』


 ***


 非情すぎる。 長かった。 そして、壮絶だった。 ヒヒイロカネが創り出した位相空間にて、俺は超能力覚醒のための“修行”を強いられていた。 そこは、八大地獄。 地獄の獄卒どもに追い回され、焼かれ、裂かれ、踏まれ、押し潰され、時には串刺し。 死ぬ? いや死ねない。死んでも蘇る。それが地獄。 気を失っても、目が覚めたらまた地獄。 無限ループ地獄版。 まさに精神的拷問そのものだった。


「大分しぶとくなったな、坊主……」


「次は“血の池”と“刀山”の複合ステージだ。期待してるぜぇ」


 おいやめろ。期待しないでくれ!! きらーん! 地獄の天井にアルシアの笑顔が一瞬浮かんだ気がした。 その微笑みに地獄の苦しみが少し癒される。


 ***


 ……そして、ようやく──


「うおおおおおおおッ! 俺は、俺はああああああああッ!!」


 爆発するように、俺の中で何かが目覚めた。 超能力、完全覚醒!! そのとき、俺の背後に、ひときわ柔らかい声が響いた。


「……総一郎さん、遅かったですね」


 アルシアだった。 すでに彼女は覚醒済み。ほのかな光をまとい、まるで天使のように微笑んでいた。


「え、まさか……君も、修行してたのか?」


「はい。天界で、仏陀さまや菩薩さまたちに導かれて。 とっても優しくて、丁寧に教えてくださって……お茶も出ました」


 ……なんだその修行天国。 俺の八大地獄とは何だったのか。


「ヒヒイロカネ先生……この格差、ひどすぎませんか?」


『ふむ? わしのアルシア推しぶりに、今さら文句か?』


「贔屓じゃねーか!! 修行環境が違いすぎる!!」


『アルシアには“慈愛”の力があるゆえじゃ。 お主には“根性”の資質がある……つまり、そういうことじゃな』


「なんだそのスパルタ型育成理論……!」


「ふふっ。でも、総一郎さんもちゃんと覚醒できたんですから、大丈夫ですよ。……一緒に戦えますね」


 その笑顔に、地獄でズタボロになった俺の心が、ふわっと救われた。


「──ああ。一緒に、未来を取り戻そう」


 地獄も天国も超えて、俺たちはいま、同じ“戦場”に立った。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


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