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第17話

 六畳一間のアパートにて。 俺は問いかけた。 神棚に漂う光の存在――ヒヒイロカネに向かって、静かに、だが強く。


「先生……あれは、本当に俺の“コピー”なのか?」


 しばしの沈黙ののち、ヒヒイロカネが呟いた。


『……正確にはコピーではない。あれは“もう一人のおぬし”じゃ』


「……は?」


 思わず聞き返す。けれど、ヒヒイロカネの声には一切の冗談がなかった。


『並行世界に存在していた“別の長屋総一郎”……同じ名を持ちながら、違う選択をし、違う未来を歩んだ男だ』


「まさか……」


『その男は、我が半身――蛇行剣に、力を求めた。超越する力を、欲した。 制約も犠牲も厭わず、ただ強く、深く、激しく』


 俺は言葉を失った。


『願いは通じた。あまりにも強いその欲望が、蛇行剣に火を入れたのだ。 そして奴は――力を得た』


「じゃあ……あいつは、本当に“俺”なんだな」


『違う。だが、同じだ』


「なぜ、向こうの俺は力を求めたんだ?」


『あやつはアルシアを欲した。 同じように。 だが方法を誤った。』


『楼蘭の美女、そのミイラから肉体だけを蘇らせた。 ゆえにあのアルシアに魂はない』


『欲しかったのであろう。 本物のアルシアを側に置き、権力・富・支配を思うがままにする自分が』


 ヒヒイロカネは静かに言った。


『業の深さでいえば、あれは最悪の“おぬし”だ。 そして奴はこう願った。 “この世界の長屋総一郎”を消し去り、完全に取って代わると』


 戦慄する。


「つまり、俺を……殺しに来る」


『そうじゃ。この世界の“本物”になるために。 影が光を飲み込むように――並行世界をも束ね――奴は、“大ハーン・長屋総一郎”として、すべてを奪いに来る』


 ヒヒイロカネの声には、かつてないほどの緊張と警戒が宿っていた。 


 ***


「……生きて戻れただけで、奇跡なのかもしれないな」


 ツバキの静かな声が、ファミレスの空気をぴたりと凍らせた。 深夜、人気のない店内。 水を持ってきたウェイトレスが、気配を察して足早に去っていく。 テーブルに並ぶのは、俺、アルシア、そして未来戦士の三人。 それぞれがドリンクに口をつけもせず、黙りこくっていた。 


 敵は、闇一郎。 (※偽総一郎から正式改名しました!) 俺と同じ顔を持ち、俺とは違い、すべてを手に入れてしまった存在。 銀河皇帝クラスのチート能力と、三姫の覚醒ブースト付き。 ──寵姫アルシア。生命力増幅装置のように、彼の力を何倍にも引き上げる。 ──愛姫結月。絶対防御バリアと、精神支配系の洗脳に近い影響力。 ──戦姫明日香。完全物理破壊クラスの剣撃による制圧力。 それに加えて、埴輪兵。 数も性能も未知数の兵器が、すでに彼の配下になっている。


「……正直言って、今のままじゃ勝ち目はないな」


 俺は口に出した。 それは現実であり、認めなきゃ始まらない。


「でもな、だからって、諦めるつもりもない」


 隣のアルシアが、驚いたようにこちらを見る。 俺は、彼女の手をしっかり握った。


「俺が変わる。力に頼るんじゃない。自分の意志で、目を逸らさずに進む」


「総一郎……」


 アルシアの瞳が、まっすぐ俺を見つめ返す。 その視線が、確かに俺の言葉を信じていると教えてくれた。 


 ツバキが、ゆっくりと頷いた。


「そうだ。変わるしかない。戦えるようになるしかないんだ」


「お前が“目覚める”なら、私たちはその支えになる。全力でな」


「でも、早くしないと全人類が奴の下僕になっちゃうんだけど〜〜!」


 この世界を守るために。 結月と明日香を取り戻すために。 そして、偽りの自分に“本物の俺”を見せるために。


「覚醒してやるよ、俺が」


 その言葉に、誰も笑わなかった。 皆、信じていた。 俺が、立ち上がると。 それが、深夜ファミレスで交わされた、最初の反撃の誓いだった。 


 ***


「よっしゃああああああっ!!」


 不安と絶望に染まった空気を、一喝でぶち壊しこわす。


「お前ら、全員ついてこい! 闇一郎だろうが埴輪だろうが三姫だろうが、まとめて面倒見てやるわ!!」


 テーブルの向こうで、未来戦士たちが一瞬目を見開く。 その後、ツバキがふっと息を漏らし、にやりと笑った。


「……ようやく目が覚めたか、ニューリーダーさんよ」


「総一郎……かっこいい……」


 アルシアが感極まったように手を握る。 目が潤んでるぞ、反則級に可愛い。


「闇一郎に出来て、俺に出来ねぇことなんてあるか! やってやるよ、俺が! 未来も、三姫も、この世界も、全部取り戻す!!」 


テンションMAXのまま、俺は拳を突き上げた。 そして、勢いに任せてレジへと向かう。 手には、地味に重たいファミレスの分厚い請求シート。 未来を救う熱血の裏で、現実の数字は容赦ない。 レジの表示が弾き出したのは―― 俺の財布よりも遥かに高額だった。


「え、マジで!? 足りん!?」


 俺はツバキの方に振り返り、即座に土下座!


「すまん! ツバキ! お金貸してくれ!!」


「……このニューリーダー、ホントに……もう……甲斐性ないわね」


 呆れながらも、ツバキは財布を取り出してくれた。 そう、それが未来を託された戦士の器。


「……返せよ、利子つけて」


「まかせろ、未来で倍にして返す!」(ドヤ顔)


「利息いらんから、世界を救えバカ」


 一同、笑いながら立ち上がる。 希望が、少しずつ戻ってきていた。

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