結末。
「しかし、なぜだい? まわりの人からは幸せそうに見えていた小木家。それなのに、いったい何がきみをそんなふうにさせてしまったんだい?」
刑事の言葉に少年はだんまりを決め込んだ。
話しても理解されないとでも考えたのだろう。
刑事も弁護士もしばらくそのことについて尋ね、少年の言葉を引き出そうとした。
父親をジジイと呼び、母親をババアと呼ぶ少年の姿は、両親への軽蔑と憎しみだけが渦巻いているように彼らの目には映っただろう。
ワイドショーでもこの事件のことが何度か報道され、学校で少年と親しかったという同級生から「慎二はよく両親への不満を口にしていた」といったことが語られた。
どうやら父も母も慎二に過度な期待をし、勉強にも生活態度にもかなり口うるさく言ってきたらしい。
少年はその言葉にストレスを感じ、それが何度もくり返されたために、犯行におよんだと考えられていた。
刑事もそうしたことに気づきはじめ、なんとか少年から殺害の動機となった両親からのプレッシャーについて尋ね、慎二の抱いていた将来への不安や、そうした少年の気持ちをまったく無視した両親の想いを重く感じていたことを知った。
しかしそれらは本当に両親の勝手な、息子への期待に過ぎなかったのだろうか。
ある日ワイドショーで、少年の父親である洋次の会社の同僚の話が流された。
それによると洋次は息子の慎二を心配し、何度かカウンセリングを受けるように説得するようなことがあったらしい。
洋次も咲恵も実際は息子の心身を心配して、鬱状態と思われる息子の様子をいつも気にかけていたのだ。
「きみは鬱病だったんじゃないか」
その日、いつもの弁護士ではなく若い弁護士がやってきて、慎二についてそうした話が報道で出ていることを説明した。
ある週刊誌を見せながら、両親がカウンセリングを少年A(慎二)に受けさせようと、心理カウンセラーのもとを尋ねたときのことが書かれていた。
「ご両親は本当は、きみのことを心配していたんだよ」
若い弁護士にそう諭された慎二は、突然怒りの声をあげると若い弁護士に殴りかかり、警察官に取り押さえられた。
* * * * *
それから数日後。
慎二はズボンを首に巻きつけて自殺した。
少年が若い弁護士が見せた週刊誌の記事を読み、何を思ったかはわからずじまいだが、少年はすさまじい力で首を絞め、ドアノブからぶら下がったその形相はまるで鬼を思わせるような、恐ろしい顔になっていたという。
推理よりも、いわゆる動機をテーマにした「ホワイダニット」をメインにしたミステリものを目指しました。
ただそれもわりと変則的なものになったかもしれません。
動機が犯人側と被害者側(の同僚や友人)の言葉から推測するような形も含めて。
子供は親の心がわからない、などと言われますが。親もまた子供の心を理解できないものだったり。
それは互いに理解し合おうという気持ちがなければ成立しない、というお話。
死亡推定時刻や返り血のトリックめいた話もありましたが、まあそこは素人考えなので大目に見ていただければ。
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