概要
警察署に知らせが届いたのは10月7日の午後5時ちょうどくらいの時間。
中学生の子供が学校から──帰り道にともだちと寄り道をして──帰ってくると、玄関が開きっぱなしになっていた。
開放された玄関から家の中に入って行くと、──小木洋次とその妻の咲恵がリビングに倒れて死んでいた。
どちらも腹部や背中をめった刺しにされ、あたりは血まみれで、壁にも血が飛び散っていた。
父親の顔には2ヶ所、殴られた跡がつけられていた。
死体のそばには凶器と思われる包丁が1本落ちていて、犯人の指の跡と思われる血の付いていない箇所があったのだ。
しかし包丁には指紋が付いておらず、手袋をして犯行におよんだと推測された。
犯人はすぐに捕まると思われた。
朝、中学生の子供が家を出て、帰宅するまでの時間。
犯行時間はその中のさらに早朝部分になると思われた。
なぜなら自宅に洋次と咲恵がいたからだ。
洋次は9時には仕事に向かうために家を出ているはずで、つまり犯行時間は午前8時から午前9時のあいだだろうと考えられた。
ところが──
犯人は目撃されることもなく、防犯カメラに怪しい人物が映っていることもなかった。
閑静な住宅街で防犯カメラを設置している場所は少なく、小木家にも防犯カメラは設置されていなかったのだ。
ただ近所の人の中には、小木さんの家の玄関が開きっぱなしになっているのを見たという人物がいた。
その人の記憶によると、午前8時30分から50分のあいだくらいには、すでにそうなっていたらしい。
肝心の凶器はキッチンにあった包丁を使ったようで、これは外部からきた人間による犯行であるよりも、はじめから自宅の中にいた者の手による犯行であると疑われた。
殺害現場が殺害された住人の自宅である場合。
外部からの侵入形跡が見当たらない場合。
内部にいる──つまり家族による犯行である確率が高い。これは世界共通の事実だ。
警察はもちろん小木慎二を疑った。
慎二は小木家唯一の子供であった。
だが少年はその日──犯行のあったその日に登校しているのだ。
あれだけ血が部屋に飛び散っている惨状で、返り血も浴びずにすぐ学校に登校できるものだろうか。
そこに検証する必要が生まれ、警察はその方法とはべつに、あらためて法医学的知見から殺害の推定時刻と、致命傷の割り出しを行った。
* * * *
数日後、警察は検死結果から慎二を容疑者として任意出頭を要請し、そのまま拘留することを決定した。
少年の犯行以外に考えられなかった。
数少ない防犯カメラの情報を総合的に見ても、外部から不審な人物がやってきて夫妻を殺害した、という結論はありえないと断定された。
小木家の周囲に住む住人のアリバイを確認しても、それは明らかだった。
死体の損壊状況。刃物と死体に残された傷口から犯人の身長体重が推測されたが、それも少年の犯行を裏付ける結果が出されたのである。