恋文
すでに目も見えなくなっていた
意識はあるが、考えるという事が出来ない
それでも鼓動は早鐘を打っている
表現する事の出来ないような期待が、僕の心を満たしていた
君は倒れた僕に覆い被さり、肩や腕や脇腹から流れ出るものを渇いた獣のように絶え間なく飲み続けていた
流れ出るそれはふたりを濡らしている
触れ合う僕たちの間には、さらさらとした液体の感触があった
僕は息を吸って、そして吐いた
高熱のときにするような弱々しく熱い息だった
僕も君の肩に歯を立てる
次第に口の中に血が広がりだした
僕にはそれは、陽光のように感じられた
視界が明らかになる
血と臓物の液にまみれた僕たちふたりの躰と、終わりなく広がる砂の夜が視えた
君は僕の肩を掴んで自分から無理に引き剥がすと、抗い難い程の力で僕を組み敷いて躰中を噛み千切り始めた
叫び出したい程の嬉しさと共に、僕は熱い風の流れる夜空を見上げていた
君は僕の肩を食い千切ると、咀嚼を始めた
僕は君の瞳をまっすぐに見つめながら微笑み、そして頷いた
本当は「ありがとう」と言いたかった
可能ならば言い続けたかった
こんなに伝えたいのに、それでも僕の唇が言葉を作ることは無かった
君はいつしか尖った石を手にしていた
そして、それで僕の喉は乱暴に引き裂かれた
僕は眼を見開いてそれを受け入れた
でも、そんな顔をしたかった訳ではなかった
君の頬に触れようと僕が手を伸ばすと、君はそれを意に介さずに僕に躰を重ね、喉から音を立てて血を啜った
君の喉がごくごくと音を立てる
僕はそれを恍惚と聴いていた
それからまた、僕の躰は食い千切られる
胴を喰い破られた時に僕は高揚のあまり終わってしまいそうになったが、熱い息を吐きながら目を閉じた
君は僕の臓物を噛み切ろうのと必死で、何度も何度も僕の中身を強く噛んだ
心地の良い、圧迫と暴力
自分の何処がどうされているのかが、目を閉じた暗闇の中から感覚として伝わってくる
熱い涙が僕の頬を流れた
ついに臓物を噛み千切った君は、それを呑み込んだ
君の躰と触れた部分から、僕は振動としてそれを感じた
僕は眼を開き、自分をこんな風にした君の事を見つめようとした
しかしそれは叶わなかった
君は石を、僕の眼に振り下ろしていた
それを僕はもう片方の眼で見ていたが、それすらすぐに見えなくなった
君は何度も、石で僕の顔を打ち続けていた
「ありがとう」
最後に僕が君に向けた声は、君に初めて届いた
僕にはそれが嬉しかった




