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リトライ;リバース;リサイクル  作者: 四十九院紙縞
最終話 再試行;再生;再利用

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(6)【完】――「コンビニ弁当を開けるのに包丁は使いませんよ?」

【語り部:五味空気】


「日用品の買い物が終わったら一旦帰って、それから夕飯の買い出しです。五味くんはどこのコンビニが良いとかありますか?」

「コンビニ?」

 夕飯の買い出しの話なのにコンビニとは、一体どういうことか。

「課長はいつも帰りが夜遅くだし、ドクターは昨日から〝J〟班が起こしたロケラン暴発事件の怪我人をつきっきりで診ているので、たぶん今日も帰ってきません」

「だから、コンビニ飯ってこと?」

 そうです、と頷く清風ちゃんの目に、一切の疑念は含まれていない。

「もしかして、一人のときはいつもコンビニ飯だったりする?」

「はい。コンビニによっていろいろ特色があるから、案外飽きませんよ。季節限定とかもありますし」

「そういう問題じゃないよ! 栄養バランス最悪だよっ?!」

「……でも、一人分だけ作るのって大変だって言いますし……」

「別に一人分に固執しなくても、作り置きとかすれば良いんじゃない? シェアハウスなんだから、二人が帰ってきたときに一緒に食べれば?」

「……」

 その指摘に、ぐっと息を呑む清風ちゃん。まるで弱点を突かれたかのような反応だ。

「まさかとは思うけど、清風ちゃんって……」

「……。そうですよ。料理ができないです。壊滅的に」

 苦虫を噛み潰したような顔をして、そんな告白をしなくても……。

「あまりの危険さに、課長から包丁を持つのを禁止されているんです」

「大鎌は使うのに?」

「料理をする度に大怪我してたら身が持たない、だそうです」

「……」

 それは本当に料理をした結果なのだろうか、と尋ねたくなったが、どうにか堪える。

 けれど、それで納得できる部分もあった。

 それは、清風ちゃんがわざわざ地下牢に来てまで俺と一緒に食事をしていた、例の謎行動についてである。

 あれは、自分の夕飯を買うついでに俺のぶんも買って、絶対に牢屋から移動しない俺と食事を共にすることで、無意識に寂しさを紛らわせていたのだろう。毎日のようにそんな生活を送っていれば、一人ぼっち同士で飯を食べたくなるのかもしれない。料理ができず、できあいのものばかり食べていればなおさらだ。

 どうしてそこまで懐かれたのかまでは推測が立たないけれど、なにか清風ちゃんの中で親近感を感じるようなものがあったのだろう。

 ともあれ、こうしてせっかく帰る家ができたというのに、メニューがコンビニ飯では味気ない。

「ねえ清風ちゃん、俺は包丁って使えるのかな?」

 これは天神絶途と対峙したときに判明したことだが、ナイフなんかの凶器でも、持つだけなら問題はないらしい。今も俺の首に嵌められている対四鬼用拘束具が発動するのは、それを悪意をもって使う瞬間だ。

 この理屈に則って考えれば、包丁程度は問題なさそうだったが、念の為の確認である。

「それは問題ないと思いますよ。実は昨夜、五味くんが寝ている隙に、課長が首輪の交換をしてましたから。ちょっとランクを下げたので、包丁と言わず、鉈でも斧でも、日常生活の範囲内であれば使えるようになってるはずです」

「鉈と斧は、今は良いかな……」

 敢えて突っ込まなかったが、昨日の夜に迷原課長が牢屋に来てたとか、初耳なんだけど。一切の気配も痕跡もなかったぞ。油断ならないったらない。

「だけど、どうしてそんなこと訊くんです? コンビニ弁当を開けるのに包丁は使いませんよ?」

「それくらいは俺も知ってる」

 ここまでヒントがあって正解を導き出せない清風ちゃんに、そうじゃなくて、と諭すように言う。

「夕飯、俺に作らせてもらえないかなーと思って。……清風ちゃん?」

「で、でも、でも……」

 ぱあっと明るい表情を見せたかと思えば、次の瞬間には申し訳なさそうに眉を下げて、今日は五味くんの歓迎会にするつもりだから、とかなんとか、口元でごにょごにょと呟く。どうやら清風ちゃんなりに気を遣ってくれていたらしいが、俺としても、そろそろ人の作った温かいご飯が食べたいというのが正直なところである。

「俺が作りたい気分だから、作らせてよ。ね?」

 なにが食べたい? と尋ねると、清風ちゃんはその大きな瞳を右へ左へ動かしながら考える。年頃の女の子だし、お洒落な食べ物をご所望か、と思っていたのだが。

「……ハンバーグ」

 清風ちゃんが出した答えは、そういう意味では予想外なものであった。

「作れますか?」

「それは、問題ないけど」

 ハンバーグと言われ、即座に材料と手順を思い出すことができたから、作業工程に問題はない。だけど何故だろうか、心の隅になにか引っかかるものを感じた。

「なんだか意外なリクエストだなって思って。ハンバーグ、好きなの?」

 その引っかかりを、清風ちゃんのイメージからは離れているものだと結論づけて、訊いてみる。すると清風ちゃんは、大好物ってわけではないんですけれど、と前置きしてこう続けた。

「ハンバーグなら、私も少しだけ手伝えます」

「ふうん?」

「包丁と火を使わなければ、五味くんにも怪我はさせないと思いますし。私にも手伝わせてください」

 料理の度に怪我人を出すという清風ちゃんのこと、料理には消極的でもおかしくないと思ったが、どうやら本人的には意欲的であるらしい。

「じゃあ清風ちゃんには、お肉を捏ねて、かたちを作るところをお願いしようかな。ちなみに、デミグラスと和風ならどっちが良い?」

「デミグラスが良いです」

「おっけ」

 そんな風に今晩の夕飯の話をしながら、俺達は街中の雑踏に紛れて歩いていく。

 そういえば宇田川社を出てからこっち、手を繋いだままだったといまさらのように気づいたが、清風ちゃんにはまだ言わないでおこうと思う。なにせ、隣を歩く彼女の足取りは、情報屋のところへ行ったときとは段違いに軽い。自然とそれにつられ、嘘みたいな幸せの中に、俺も確かに在るのだと実感させてもらえたのだから。

 清風ちゃん――清風風視ちゃん。

 本当は感情表現豊かなくせして、それを子ども扱いされないよう表に出すまいと無表情でいるような、そんな不器用な女の子を、俺は絶対に死なせてはいけない。

 清風ちゃんとの出会いがあったからこそ、俺は今、こうして居られるのだ。

 だから迷原課長の指示がなくとも、俺は彼女の盾となっていただろう。清風ちゃんは俺を死なせないと言ってくれたが、清風ちゃんを護ってこその五味空気だ。それが俺に課された使命であり、役割なのだ。

 なにがあろうと、この少女は護り抜く。

 俺が死なない限り、何度でも。

 そうしてこの幸せを護り続けたいと、そう思った。




 終

最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございました!

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