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リトライ;リバース;リサイクル  作者: 四十九院紙縞
最終話 再試行;再生;再利用

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(4)――「貴方は死なせません。なにがあっても、絶対に」

【語り部:五味空気】


「あ。お疲れさまです」

 考えなしに歩いていくと、エレベーターホールに突き当たった。

 そしてそこには、清風ちゃんが壁にもたれている姿があったのである。

「……待っててくれたの?」

 あれだけ激昂して出て行ったのだから、とっくに帰っているとばかり思っていた。

 きっとこのとき、俺はよほど意外そうな顔をしていたのだろう。清風ちゃんは、そんなに驚かなくても良いじゃないですか、と頬を膨らませた。

「今日からシェアハウスに住むんでしょう? 道案内しなきゃかと思って」

「……迷原課長から地図を貰ってるとは思わなかったんだ?」

 一瞬、ぎくりと肩を震わせる清風ちゃん。どうやら、その可能性は考えていなかったらしい。

「そ、それ以外にも、いろいろと買わなきゃいけないものとかあるかなって思ったんですけど……お店の場所も、課長から聞きました、よね?」

「……ぶはっ」

 わかりやすく落ち込む清風ちゃんを見て、思わず噴き出した。どうして笑うんですか、と抗議する清風ちゃんに、俺は、ごめんごめん、と溢れてくる笑いを押し込んで謝る。

「迷原課長からはなにも聞いてないんだ。悪いんだけど、道案内と買い出しの手伝い、お願いしても良いかな?」

「そ……それなら仕方ないですね」

 まんざらでもないように頷くと、清風ちゃんはエレベーターの下向きのパネルを押した。

「どうかした?」

 明滅しながら上昇してくるエレベーターの階数を眺めていると、隣から刺すような視線を感じた。

「なんだか、まだ実感が沸かなくって」

「うん?」

 清風ちゃんの言葉は主語が抜けていて、彼女がなにに対してそう思っているのかが判断できず、俺は小首を傾げた。それに気づいたらしい清風ちゃんは、ええと、と自分の中で言葉を探すように思案顔を浮かべる。

「貴方が戻ってきてくれたことと、両親を殺した犯人がわかったこと……です」

 まだ上手くまとめきれていないのか、清風ちゃんは躊躇いがちに言葉を紡いだ。

「へぇ……ええ?!」

 それは良かった、とあまり考えずに頷いたあとで、その言葉の重要性に気がついた。そんな世間話でもするようなテンションで言えることじゃないだろ。特に後半部分!

「え、え、え、わかったって、いつ」

「先週です。貴方が倒れた、そのあとくらいでしょうか」

 動揺を隠しきれない俺とは裏腹に、清風ちゃんはいたって冷静に言った。

「天神絶途がそうだったってこと?」

「いいえ。天神絶途は犯人ではありません。彼はあくまでも、私の大鎌を狙って襲ってきただけに過ぎません。ですが、天神絶途に疑いの目が向けられるように、初めから犯人が仕組んでいた可能性は高いです」

「なんの為に?」

「恐らくは目くらましと、責任を押しつける為。貴方だってそれに利用されていたんですよ」

 今思い出しても腹立たしいと言わんばかりに、盛大な舌打ちを鳴らす清風ちゃん。

「……まるで、実際に会ったみたいに話すね」

「会いましたし、殺し合いにもなりました。とはいえ、あのときの私は相当にダメージを負っていて、とてもじゃないですが、互角の勝負にはなりませんでした。あいつは無抵抗で殺されてくれましたよ」

 俺が死にかけている間に、そんな急展開が巻き起こっていたのか。気絶さえしていなければ、少しは清風ちゃんの助けになれたかもしれないと思うと、非常に悔やまれる。が、そんな状況下でも殺せてしまっている辺り、清風ちゃんの実力には驚かされるものがあった。

「……ん? でも、あそこにあった死体って天神絶途だけだったよね。その犯人は清風ちゃんに()()()()()()()()()()、死体がそこにないってのはおかしくない?」

 純粋な疑問に、清風ちゃんは何故か一瞬だけぎょっとしたように俺を見た。しかし次の瞬間にはいつもの無表情に戻って、それは当然ですよ、と言う。

「その犯人も回復型の四鬼だったんです。殺し尽くす前に逃げられてしまいました」

 なるほど、俺が意識を取り戻したのは、犯人が逃げ出したあとだったということか。そりゃあ、死体の数が合わないわけである。

「それで、清風ちゃんは復讐を諦めるの?」

「諦めませんよ。諦めるわけがありません」

 相手がほとんど不死身の四鬼となれば、殺すことは容易ではない。そう思って投げかけた問いかけは、食い気味に返答された。しかも、俺の予想とは相反するものを。

 清風ちゃんはずいっと俺に近寄り、じっと俺の目を見つめる。

「私はあいつが死ぬまで殺します。それがあいつの思惑通りだったとしても、最期は『もう死にたい』って思わせるくらい、徹底的に殺してやるんです」

 その的外れな宣戦布告に、しかし不思議にも喜んでいる俺がいた。頭の隅っこのほうでお祭り騒ぎが始まったような、そんな近いようで遠い感覚である。

「それは――俺は犯人じゃないって確定したってこと?」

「そうです」

 首肯しつつ、清風ちゃんは俺から目を逸らさない。むしろ一層強く、いっそ睨んでいると言っても過言ではないほどの目力で俺を射抜くのだった。それほど強い意志を絡めて、その漆黒の瞳に俺を映し出す。気を抜けば自殺してしまいそうになるほどに、魅惑的で蠱惑的な瞳だ。

「貴方は死なせません。なにがあっても、絶対に」

 私の大事な班員ですから、とつけ足すように言うと、清風ちゃんは顔をぷいっと背けてしまった。照れているらしい。

 しかしながら、その言はなんとも頼もしい限りで、これから清風ちゃんと同じ班で働くにおいて、この上ない信頼関係を築けていると言えよう。けれど奇妙なことに、俺の心の内は喜びよりも哀しみが占めていた。

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