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リトライ;リバース;リサイクル  作者: 四十九院紙縞
第3話 約束

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28/63

(5)――「やっぱり、リードがあったほうが良いですか?」

【語り部:五味空気】


「……」

「どうかしましたか?」

「いや、なんか、落ち着かなくて」

 昨日まで地下で鉄格子越しにしか会話していない相手と、こうして白昼堂々、駅前で普通に会話しているというのは、改めて考えるまでもなく奇妙な光景だった。傍から見て、まさか俺が殺人鬼で、少女が大鎌を振り回す人間とは思うまい。

 そんな意味合いを込めた「落ち着かない」だったのだが、少女はすぐに意味が理解できなかったらしく、小首を傾げたのち、納得したように手を打つと、背負っていたケースを下した。

「やっぱり、リードがあったほうが良いですか?」

「違う! 俺はリードがなくて落ち着かないって言ったわけじゃないし、そもそもそういう性癖はないっ!! やっぱりってなんだよ?! ていうか、やめてっ?! 君がリードを常備してる子だと思いたくない! 早くそのケースから手を出してっ!」

「冗談です。……ふふっ」

 破顔一笑。

 少女が見せたほんの一瞬の隙に、俺の心臓は大きく脈打った。……いや、そんな風に心臓がどきりとしたのは、冗談と言いながらも、ケースから出しかけていたリードが見えてしまったからに違いない。きっと、たぶん恐らく絶対に、少女が率先して用意していたのではなく、狼女辺りに持たされたものだろう。その可能性に賭けたい。

「さて。それじゃあ行きましょうか」

「ああ、うん」

 ケースを背負い直した少女と一緒に切符を購入し、それを改札機に通して、電車に乗り込む。記憶喪失とは言っても、こういった類の記憶はあるようで、なんの問題も生じなかった。

「これから乗り換えなしで、二十分ほど乗車します」

 出入り口付近の二人掛けの席に座る。この場合はもちろんと言うべきか、少女が出入り口側だ。少女はその無暗にでかいケースは上の棚へはやらず、しっかと取っ手を握っていた。これが混雑する車内であれば迷惑行為となっていただろうが、世間は平日なのか、それともここが片田舎だからなのか、乗客は俺達だけだったので、別段口出しはしないでおく。

 発車した電車は、たたん、たたん、と小気味良いリズムを刻んで加速していく。見知らぬ土地の見覚えのない風景が、ぐんぐんと通り過ぎて行った。この風景のどこかに、記憶を失う前の俺の居場所はあったのだろうか――なんて、無益なことをぼんやりと考えていた、そんなときだった。

「――『死神』清風美景(みかげ)を、知ってますか?」

 数駅を通り過ぎた頃、少女がおもむろに口を開いたのである。相変わらず、脈絡なんてあったもんじゃない。

「或いは、『肉食カラス』清風楓夏(ふうか)

 横から覗き込むようにして問う少女に、俺は目が離せなくなった。

 無論、その仕草が非常に可愛かったというのもあるわけだが――なにより、少女から発せられる気迫が、これまでとは異なる類のものだったのである。緊張と懐疑が一緒くたになって新種の殺意であるかのような、やんわりとした敵意。

 そんな目つきで問われた、清風美景と清風楓夏を知っているかという質問。

 雑談にしては重そうな話題だが、尋問にしてはえらくざっくりとした訊きかただ。尋問寄りの雑談と言ったところだろうか。

 少女の意図がどちらにあるにせよ、俺は正直に答える以外の選択肢は与えられていない。だが、受け答え次第で導ける回答は数多に在るのも確かである。

「名字が君と一緒だけど、身内の人?」

 だからまず、挙げられたふたつの名前の共通項について尋ねてみることにした。『清風』なんて珍しい名字、そうごろごろいるわけでもあるまい。

 質問に質問で返された少女は、しかし怒るではなく俯いて、内から湧き上がる感情を抑えつけるようにして、言う。あくまでも、平静を装って。

「そうです。私の両親で――五年前、何者かに殺された人の名前です」

「ご両親が……?」

「……。十数年前まで、両親は宇田川社の特殊課に所属していました。依頼人を守る為には殺しも厭わないという特殊課の性質上、恨みを買うこともあったんだと思います。それに『死神』なんて通り名で恐れられていた清風美景の象徴――あの大鎌は、この世にふたつとない代物だったそうですから、それを狙っての強襲だったのかもわかりません」

 言われて思い出すのは、他でもない少女の言葉。

 ――貴方が犯人じゃないかって思ってるんです。

 彼女が言っていたのは、このことだったのだ。

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