(7)――「いただきます」
【語り部:陜ィ�ィ雎趣ソス陜ィ�ィ陷�スヲ】
要らない情報ばかりが流れていく。
お前はそんなの、知らなくて良いってのに。
どうにも調子が出ない。
【語り部:五味空気】
次に目が覚めると、そこはもと居た地下牢であった。
一旦別の、いくらか快適な場所を知ってしまったからだろうが、改めてここは、空気が悪いと感じる。どことなくじめっとして、息苦しい。空調など知ったことかと言いたげだ。
「いってて……」
起き上がると、背中と頭がずきずきと痛んだ。医者猫男の言葉を信じるのであれば、背中の傷は抜糸直前まで治ってきているはず。だとすればこの痛みは、最後に背負い投げをされた際、手加減なしで床に叩きつけられたことによるものだろう。骨は折れていないようだが、間違いなく打撲傷にはなっている。
「おはようございます」
痛みに顔を歪めていた俺の耳に、透き通ったそよ風のような声が通り抜ける。
「とは言っても、もう夕方なんですけれど」
果たして、声の主は大鎌少女であった。
昨日と同じく制服に身を包んだ少女だが、眠たげな瞳はそこにない。今日はその漆黒の瞳が惜しげもなく見開かれ、この薄暗い場所でも美しく光っていた。どうやら寝不足は解消されたらしい。
「調子はどうですか?」
鉄格子の前に立つ少女は、こてんと首を傾げて尋ねた。
「背中の傷は塞がってきてるけど、投げ飛ばされた所為で背中が痛いかな。あと口の中も切っちゃって――」
「いえ、そうじゃなくて。私が訊いたのは、記憶のほうです」
「ああ、そっち……」
冷静に考えれば、当たり前のことだ。
どこの世界に、捕虜の傷の具合を尋ねる奴がいるというのだろう。
「新しく思い出したことは、残念だけどひとつもないよ」
「そうですか」
俺の答えに残念がるでもなく、淡々とした口ぶりの少女。どうやら寝不足は関係なく、この少女は常時このテンションであるらしい。だとするとこの少女、あまりコミュニケーション能力の高いほうではない。
「お腹、空いてますか?」
そうして次に出された質問がこれだ。文脈もなにもあったものじゃない。
「お腹は……空いてる、かも?」
寝起きに女子中学生と医者猫男からの検査を受け、気絶して、気がついたばかりだ。空腹を感じるほど、今日は活動していない。ただ、俺の記憶にある限りの食事が今のところおにぎりふたつのみという事実が、空腹を助長させている感はあった。
「それじゃあこれ、食べますか?」
そう言って少女が鞄から取り出したのは、昨日同様、ビニール袋である。そこには有名なコンビニ店のロゴが印刷されており、一目で食べ物が入っているとわかった。一気に期待に胸が膨らむ。なにせ、昨日よりもその袋の中身は多かったのだ。
「食べる!」
「それなら……はい、どうぞ」
すると少女は、ビニール袋からいくつか商品を取り出し、その残りをこちらに入れた。
「……」
少女の手元には、三百円前後の小柄な弁当とデザートのプリン。
一方、こちらに渡されたのは、おにぎりがふたつ。ツナマヨとおかかだ。
「それと、これは課長から『お茶』の差し入れです」
「……」
思わず、自分の手元にあるおにぎりと『お茶』と、少女の手元にある弁当とを見比べた。
「……? 嫌いなものでもありましたか?」
「いや、ないけど……おにぎり大好きだけども……」
捕まっている身で、贅沢は言うまい。食事が出るだけでも有り難いのだ。
そうやって自分で自分を納得させている間にも、少女はいそいそとパイプ椅子を持ってきて、そこに腰かけた。そうして弁当を開封し、割り箸を割る。
「いただきます」
礼儀正しく手を合わせると、少女は当然のように食べ始めた。
まさかとは思うが、ここで俺と一緒に食べるつもりなのだろうか。
「あの」
意図が読めずに考え込む俺に、少女は不意に声をかけてきた。
「嫌いなものだったのなら無理しないで、返してください。私の明日のお昼にしますから」
「いや、食べる! 食べるよっ?!」
どうやら今日は一緒に食べる気分らしいと結論づけて、おにぎりを頬張る。
よくよく考えれば、食事風景を一方的に見られていないぶん、昨日よりもいくらか気楽な食事じゃないか。
そう思い直し、一心におにぎりを貪ることにした。一口頬張り、咀嚼し嚥下する度、エネルギーとして変換されて行くのがわかる。俺は今、確かに生きているのだと実感できる。ああ、生きるとはこうも素晴らしいことだったか。
感想や評価等、お気軽にどうぞ!




