さおり様再び
とあるファミレス。
「たまにはこういう店もいいわね。制服で入れるし」
「オレたちだけで料亭入るわけにはいかないもんなあ」
「別に料亭なんて入りたくもないけどね。中学生が精進料理食べたってしょうがないと思わない?」
おお、そこにおられるのはさおりお嬢様ではないか!
すると、向かいに座ってる詰襟美男子学生様(名前はまだない)はどなた様なんだ?
お嬢様のボーイフレンド様なのか??
それにしては執事様(?名前はまだない)も同席しているが??
「とりあえず、ヨシザワさんはビールですか?」
と、美男学生がうす笑いする。
「かわいそうでしょ。今日は運転手なんだから」
執事様はヨシザワさんになったのか
名前がついてよかったな
「だったのか、でしょ!何度も言わせないでよ!」
「あの男のコは誰なんだろう?」
「ボーイフレンドじゃないの?あんなに美人なんだから、いない方がおかしいよ」
「でも、ヨシザワさんも一緒じゃん」
「お目付役じゃないの?二人きりでおかしなことになったら困るから」
「そーゆー読者様ご期待の展開はないって断わったじゃん。わっ、目が合ってしまった!」
さおりお嬢様がこちらの席に気がついたようだ
こちらの席というのは
私と女神様とユウキ先輩と
そしてもちろんミホちゃんである
またか!
でなく
待ってました!
と言ってくれ
さおりお嬢様はこちらの顔ぶれを確かめたのか
自席に目を戻し
美男学生の顔をのぞき込むようにじっと見つめながら
「ねえ、トモカズさん。アタシ、ビールが飲みたいなあ」
「ええーっ!」
トモカズ君になったのか
「だったのか、でしょ!」
というツッコみはさておき
この頃コンプライアンスうるさいんだからこのシーンで女子中学生にビールなんか飲ませたら万一人気出ても出版してもらえないぞ
などと手前勝手な心配する私をよそに
「オトナがいるから大丈夫だよ。ねえ、ヨシザワさん」
「わかりました。それでは、ビールとノンアルコールビールを一本ずつ頼んでおきましょう」
我々の席のオトナ三人はすでについだりつがれたり
ビールを飲んでいる
「この間は変なこと言っちゃってすみませんでした。プロの方に失礼でしたよね」
ミホちゃんがユウキにあやまっている
「いや、別に。この頃ガールズケイリンも人気あるし、キミの素質なら選手になれてもおかしくないと思うけど」
「あの時はつい、カッとなっちゃって」
そんなに正直に言わなくてもいいのに
告白してるようなもんじゃん
でも、ジャガイモユウキにそのキモチ伝わったかな?ギモンだ。
それよりお嬢様の耳が気になる
今の会話、聞こえたかな?
ネコちゃんロボットがビールとノンアル、それにグラスを三つ運んで来た
ヨシザワさんが無表情で三つのグラスを並べ
コドモ二人のグラスを満たしていく
トモカズ君が瓶を引き取り
ヨシザワさんのグラスにお酌する
ビールなのかノンアルなのか
同じような瓶だからこちらの席からは見分けがつかない
「カンパイ」
それぞれがそれぞれのグラスに口をつける
本当のカンパイはグラスをカチ合わせたりしない
と何かで読んだような気がするが
それはともかく
お嬢様の横目だか流し目だかが気になる
ミホちゃんの前にあるのは
チョコパフェとチーズハンバーグなのだ
ミホちゃん、気にしなくていいんだからね
よけいなこと考えてると消化によくないぞ
「ミホちゃんはビール飲んだことあるの?」
ユウキの合いの手は気がきいてるとは言えないなあ
「お父さんに飲まされたことありますけど、苦いだけでした。お父さんは、なんかうれしそうにしてましたけど」
日本のお父さんて、ムスメにビール飲ませたがるよなあ
ですよね?
「けっこう緊迫した場面なんだから、変な合いの手入れないでよ!」
ツッコむ女神様をよそに
「ヨシザワさん、これ、ビールですか?ノンアル?」
知らずに飲んでたのかよ、トモカズ君よ!
「ビールです。ホンモノの。いかがでしたか、さおりお嬢様?」
「国産ビールはどれも同じ味に感じちゃうわ」
「なんだ、初めてじゃなかったの?」
「父のパーティーでしょっちゅう注がれるから。最初は建前でジュースとかウーロン茶なんだけど、酔っ払ってくるとやたら注いでくるのよ。オジさんたちが。ビールでもワインでも日本酒でもおかまいなしなんだから。いちいち味覚えてるヒマもないのよ。女子中学生を酒豪にしてどうするつもりなのかしらねえ」
聞こえよがしというか
飲酒を自慢するのは
かえってコドモぽいと思うけどなあ
とか思ってたら
「ビールはもういいから、ワインでも頼んでよ。赤なら何でもいいわ」
「承知しました」
赤ワインと来たか
と思ってるそばから
「おふたりも、どうすか?赤ワインとか。白もあるし、ウイスキーとかもあるみたいすよ」
ユウキ君よ
それ、考えてしゃべってんの?
「ミホノソヨカゼ負けちゃったけど、あんまり人気なかったから、2着でもけっこうもうけた連中いるんすよ。無理に連れ出したし、お礼と罪滅ぼし兼ねて全部使って来いって言われたから。じゃんじゃん飲んでください」
強引というより下手な説明だな
「ミホちゃん、ワインは飲んだことあるの?」
女神様がミホちゃんを話の輪に入れてあげる
「えーっ、うち貧乏だから、ワインなんてとてもとてもです。お父さんが飲んでたのもホントのビールじゃなくて、第三のビールとかじゃないかなあ。値段で決めてたみたいですよ」
「ビールの違いって、けっきょく税金の違いなんでしょ?」
そうかもしらんが、
ユウキ君よ、
ミホちゃんがしゃべれる話題考えろよ!
ミホちゃんは女子中学生なんだぞ!
さおり様が
勝った
みたいな顔してんじゃんか!
「食べ物は?せっかくファミレスだから、唐揚げとか?ホントはトリカラ好きだよね?』
トモカズ君は茶化してるつもりなのかもしれんが
お嬢様は無言でメニューをめくっている
「ポテトにしよっかな」
「ポテト?」
「いつもステーキじゃ飽きちゃうもん。たまにはジャガイモも食べてみようかなって」
「ジャガイモ?」
ジャガイモ?
「ふーん、ジャガイモね」
なんだその変な間と薄笑いは
「ヨシザワさん、青リンゴサワーって、おいしいのかなあ?たぶん甘酸っぱくて、ボクでも飲めますよねえ?」
おい、変なこと言うな!
そーゆー方向には進行しないっつっただろ!
読者様が期待しちゃうだろ!続く!