『忘れがたし』
『忘れがたし』
別れが、
近づいている。
じわり、じわりと、
突然ではないだけで。
寂しいな。
ほろと、言の葉。
何度も落ちては、
何度も、
何度も、
何度も。
慌てて手を伸ばし、
それらを拾い、
それらを胸にして、
ただ立ち尽くすだけ。
月を仰ぎ見、
過ぎゆく春夏秋冬、
特別ではない時間の流れのなか、
思い出されるものは、
ゆらゆらと浮いては沈み、
浮いては、
沈み。
もうねえ。
息もできないほどに、
うちひしがれているけどね。
その引き際の良さには、
感服するしかないけどね。
だから、
どこかで迷い迷って、
いつまで経っても、
届かないのかもしれないけれど、
ありがとうをただひとつ、
この地より、
ぶんと、放るよ。
ありがとうを、
ただひとつ。
『別れがたし』