10.人気者の宿命
空に薄くかかる雲越しに適度に降り注ぐ暖かな日射し。強過ぎず、弱過ぎず、ちょうど良い感じに髪を撫で付けるそよ風。眼下に見える広場からはほどよい喧騒が耳に届く。無駄に騒がしい俗世の雑音から解放され、さりとて孤独を感じるほど静けさに沈むわけでもない。
リーリヤは胸一杯に息を吸い込んで、心の底から湧き上がる気持ちを乗せて一気に吐き出した。
「んふーっ。ほんっとに最高ね」
ご機嫌に背伸びをしてから、テーブルに肘を付いただらけた姿勢でカップを口に付ける。
すっきりと爽やかなミントが香るハーブティーは人肌程度に温くなっているのも相まってついゴクゴクと飲んでしまう。
カップの中のハーブティーを飲み干して、ついでにクッキーを一摘まみ口に放り込んでからリーリヤは満足そうに椅子に背を預けた。
昨日に引き続きリーリヤはアーリコクッカ広場にあるパン屋『太陽の恵み亭』の2階のテラス席にいた。当然、モニカの話し相手という簡単なお仕事をするためだ。
因みにモニカは席を外している。パン屋の方で接客対応中なのだ。そういうわけでだだっ広いテラス席にリーリヤは一人でいた。
モニカが席を外している間、リーリヤは好きにして良いことになっている。あまり遠くなければ広場にある店や屋台を巡ってもいいそうだが、わざわざあんな人混みに行きたいとも思わないのでこうしてのんびりとした時間を過ごしていた。
「よくもまぁ、頑張るわよね。もっとゆっくりしててもいいのに」
半ば呆れたようにリーリヤは声を漏らす。
椅子に座ったままのリーリヤからも広場にいるモニカの姿が見えたのだ。今日も可愛らしい笑顔を振りまいて、たくさんの人に囲まれている。
話している内容までは聞き取れないが、どうやらモニカに向けて声援を送っているようだった。モニカに手を振る老齢の男性もいれば、笑顔で声をかける中年の女性もいる。ただし、必死に握手を求める若い青年はパン焼き職人らしきガタイのいい男性達によって残酷にも阻まれてしまっていた。
ちょっとした騒ぎになっているこの光景もリーリヤはもう慣れてしまった。なにせモニカが店頭に現れる度にこの有様なのだ。
「それはそれとして、なーんか違和感あるのよねぇ・・・?」
リーリヤは小魚の小骨でも喉につっかえたような感覚に頭を悩ませる。この感覚は昨日もあったのを覚えている。
しばらく考えても違和感の正体を掴めなかったリーリヤは素直に諦めることにする。そんなことよりも、束の間のこの快適な空間を味わう方が大切だったのもある。
モニカが再びテラスに顔を出したのは結構な時間が経ってからだった。昼を告げる鐘が鳴り響き、リーリヤが誤魔化しきれない空腹に耐えかね、人で賑わう1階に行きたくないけど降りるべきかと真剣に考え始めた時だった。
「待たせちゃってごめんねー?」
一人の時間が終わってしまったことを内心残念に思いつつもモニカを振り返れば、その手にはたくさんの美味しそうなパンが抱えられている。リーリヤはたった今思ったことをなかったことにしてモニカを歓迎する。視線はパンに釘付けである。
「さあ!好きな物を取っていいよっ」
その言葉を聞き終える前にリーリヤの手はパンを掴んでいた。今日のリーリヤの狙いは桃のシロップ漬けがたくさん載ったパイである。片手で持てるサイズの小さなパイにはこぼれ落ちそうなくらいの薄切りされた桃が山になっている。
モニカ特製のパイシリーズだよ、と胸を張るモニカを余所にリーリヤはパイにかぶり付く。蕩ける甘さに思わず頬が緩んでしまう。
リーリヤの反応に得意げな顔をしたモニカもまた席についてパンを食べ出す。
モニカの用意し直した熱々のハーブティーを啜りながら昼食をとっていると、ふとモニカがリーリヤに話しかけてきた。
「そうそう。そういえば話が途中だったんだよね」
なんのことかと思ったリーリヤは少しの沈黙の後に思い出す。
そうだった。モニカが客に呼ばれる前、リーリヤはモニカに質問をしていたのだった。
「確か『花飾り』について話してたよね?」
「え、ええ。そうね」
リーリヤが質問したのは大きく言うと花の乙女についてである。ぶっちゃけたところ、話題に困ったリーリヤが適当に言ってみただけなので、わざわざ蒸し返さなくても良いのにと思ってしまった。
もちろん常識の範疇くらいであればセルマやヘレナから教わっている。しかし、それはあくまで伝聞形式による知識でもある。一応はこのお茶会兼昼食会も花の乙女の修練の一環であるとも聞いたし、リーリヤとしても知っておいて損はないかと思い直す。
「ほら、これ見て。部屋に戻って持ってきたんだ」
そう言ってリーリヤの前に置かれたのは1つの木箱だ。
モニカに促されて開けてみると一枚の布が入っていた。青い花々の刺繍が散りばめられたハンカチだろうか。どこかで見たことがあると思ったリーリヤはすぐに思い出す。
「これ、ひょっとして噴水で使っていた・・・?」
「あれ?もしかして見てたの?といっても、噴水だけでもいろんな場所でやってるから、どこのかわかんないけど」
「緩やかな坂があって、近くにサーモンスープの美味しいお店のある広場だったわね」
リーリヤは記憶を遡る。あれはイレネと初めて買い物をした日だ。花の乙女を見たのもあの日が初めてだった。よくよく考えるとあの少女も赤髪で向日葵のカチューシャをしていた。というか、目の前のモニカ本人だった。
「あっ、わかったかも。噴水の見える坂で美味しいサーモンスープと言えば、ロヒイト坂下の噴水だね」
「多分、そうかも・・・?」
道の名前を言われてもリーリヤはわからないので曖昧に頷いておく。
「あそこの泉の精霊は定期的にお話しないと広場が水浸しになっちゃうんだよね。1回、大きな水溜まりみたいになったこともあるんだよ」
笑いながらモニカは箱からハンカチを取り出す。そこには花模様の刺繍とともに光り輝く花が咲いていた。
「花、の宝石?」
「あはは。見た目はそう。でも、宝石とは違うかな。これね、このお花の部分が『花飾り』なんだ」
「へぇ」
リーリヤは指で青く輝く花の結晶を撫でてみる。そして、指先から伝わる感覚に知らずと声が出ていた。
「これ・・・・・・」
間違いない。魔力の結晶だった。
なるほど、とリーリヤは内心で呟く。
花の乙女が精霊と相対するときに作り出すあの魔力の花はこれを使って出しているのか。魔力の扱いに長けたリーリヤですら難しいほどの繊細な波長だと思っていたが、この花飾りに渦巻く微弱ながらも複雑に絡まり合う魔力を見れば納得できる。
「これってあなたが作ったの?」
「そうだよ。さっきもちょっと話したことだけど、花の乙女の修練っていうのはね、主に2種類あるの。今やってるお茶会が正にそれ。お茶を飲み、お菓子を食べ、会話を弾ませ、花を慈しみ、何より心を震わせる。そうすることでやっと精霊と心を通わせることができるんだ。そして、もう一つは『花飾り』を作ること」
モニカの指がハンカチの花飾りに向けられる。
「花飾りは、謂わば花の乙女の『口』なの。この『口』を通して精霊に向けて『言葉』を紡ぐんだよ。見たことあるならわかるよね。あの光で出来た幻想的なお花のこと。一流の花の乙女は、良き花飾りを作り、良き心で精霊と交感する。これだけ覚えてくれてれば大丈夫だよ」
リーリヤはハンカチを眺めながら唸る。
魔力で花の結晶を作り出す。リーリヤだって魔力を生み出すことは出来るが、それを結晶化させるとなると話が違う。
その様子に何を思ったのかモニカはころころと可愛らしい笑い声を上げる。
「ひょっとして宝石を削り出して花を作ったとか思ってる?さすがにそんなことはしないって。これはね、想いの力の結晶なの。錬金術で作られた物なんだよ」
「錬金術?あなたも錬金術が使えるの?」
「違う、違う。錬金術師さんが作ってくれた特製の布とか糸を使って花の乙女が刺繍をするの。それを更に錬金術師さんがパパッと花飾りに変えてくれるってこと」
「刺繍が花に・・・・・・?なんで・・・・・・?」
「ふっふっふ。リーリヤちゃん。これもしっかり覚えていった方がいいかも。『想いを込めることこそ、最初の魔法なり』。あの伝説の『花の乙女』の言葉だよ」
「は、はぁ。そうなのね」
リーリヤはとりあえず頷いておいた。
細かい仕組みはわからずとも原理はなんとなく想像出来た。つまりは刺繍をするときに想いを込めるのと一緒に、魔力も込めているのだろう。それをどうにかこうにか錬金術で結晶化する、と。魔女もまた魔力を生み出すために感情の力を使うので、なんとなくモニカの言いたいことはわかった。
モニカは愛嬌のある仕草で自分のパンを小さく一口囓ると、とても残念そうな声を漏らした。
「あ~あ。それにしてもすごく残念。あたしもほんとはアルマス先生に専属になって貰いたかったのにな」
「アルマス?なんで?」
「なんでって・・・。リーリヤちゃん、もしかして理解してないの?あんなに親密なのに?」
「し、親密って?別に?あいつとは特に何でもないし。そんなに仲良いわけじゃないわよ?」
「うわぁ・・・。それ、本気で言ってるなら、リーリヤちゃん、友達無くすよ?」
「え・・・。と、友達・・・?」
友達がいるのかと問われれば素直に頷けないリーリヤだ。それでも、ヘレナはともかくセルマは友達と言ってもいいはず。きっと。
「じ、冗談よね」
「マジだよ。大マジ。まぁ、でも、安心してよ。このモニカちゃん、その程度のことでリーリヤちゃんの友達をやめたりなんかしないよっ」
「へ?私達って友達だったの・・・?」
モニカの友達宣言にリーリヤは目を瞬かせる。友達の碌にいないリーリヤからすると単純に友達の基準がわからないのだ。以前、アルマスはそういう関係性は自然とできるものだと言っていたが、もう既にリーリヤとモニカは友達と言えるのだろうか。
「酷いよ、リーリヤちゃんってば」
首を捻るリーリヤにモニカは大袈裟に傷ついた顔をする。慌てたリーリヤが何と声をかけようかとまごまごしているうちにモニカはけろっと立ち直る。やっと演技だと気付いたリーリヤを尻目にモニカは何事もなく話を進めた。
「あたし達、良い友達になれると思うんだよね。だって、折角共通点があるんだもの―――」
そこでモニカが不自然に話すのを止めた。
モニカの目線の先を追うと、広場の一画にリーリヤ達と同じくらいの年頃の少女達の集団がいるのがわかった。色も形状もバラバラなのにどこか統一感のある格好に見えるのは、誰もがケープを纏っているからだろうか。少女達はどんどんと『太陽の恵み亭』に近付いてくる。
「あっ」
リーリヤはそれで先ほどの違和感に思い当たる。
昨日も今日もモニカを囲む人々の中には若い女性がほとんどいなかったのだ。
「またあの子達。しつこいなぁ」
まるで別人のような低く冷たい声が聞こえてリーリヤは驚いて振り返る。モニカはリーリヤがたじろぐほどの圧を発していた。
「リーリヤちゃん。ごめんだけど、あの子達とお話ししてくるからちょっと待っててね」
可愛らしいのに可愛く思えないモニカの笑顔に、リーリヤは頷くことしか出来なかった。
テラスの柵の間から階下を盗み見ていたリーリヤは強張った顔で震えた声を漏らす。
「うわぁ。怖ぁ。もうバッチバッチじゃないの・・・・・・」
モニカと少女達の話し合いは遠目にも穏やかなものではないことが伝わってきた。
理由は単純だった。
モニカ・レイポネンは同年代の少女達と壊滅的に仲が悪い。もっと直接的に言うと嫌われている。少なくともリーリヤにはそう見えた。
『太陽の恵み亭』の前で対峙したモニカと少女達は何事かを言い合っていた。だが、やがて会話は激しさを増していくと、少女の集団側からモニカを糾弾する声が噴出したのだ。それこそ広場中に響き渡るほどの甲高い合唱である。
数は力とよく言ったものだ。無関係のリーリヤですら身体が強張ってしまった。
最後はパン焼き職人達がぞろぞろと現れ、モニカを守る壁となって力付くで少女達を遮るまで騒ぎは続いた。
男達によって引き離された少女達の悔しそうで苦々しい表情はリーリヤに女の恐ろしさをこれでもかと感じさせた。
図らずともモニカの周囲に若い女性が少ない理由が垣間見えた気がした。
「確かにねー。そういう面はあるよ」
戻ってきたモニカは気にした様子もなくそう返す。
流石にリーリヤもモニカもこの騒動をなかったことには出来ずにどういう経緯だったのかと訊ねたところだった。
「ん~?彼女達の用件?そうだね、ただの難癖だよ。ほら。モニカちゃんってこんなに可愛くて、人気者でしょ?それに花の乙女としても超一流だもん。だからか、あたし、年頃の女の子からは嫌われてるんだよね。こんなのもしょっちゅう」
嫌われているという割にモニカは悲しそうに眉を動かすことすらなく、いつも周囲に振りまいている愛らしい笑顔のままだ。
それに少女達が押しかけてくるのもこれが初めてではないらしい。
「モニカちゃんってば親衛隊の皆がいるでしょ?それに他にもファンクラブだってあるの。知ってる?結構な規模みたいなんだけど。けど、そのせいで何か勘違いする娘が多くて。やっぱり親衛隊とかファンクラブって若い男の子が多いから」
「ああ。やっぱりそういう意味合いが強いのね」
若い男に囲まれてちやほやされる女に嫉妬する。それならリーリヤにも理屈はわかる。
そのせいでモニカには同年代の友達が極端にいないそうだ。
それと同時になぜリーリヤがこのお茶会にお呼ばれすることになったのかも腑に落ちた。単純にモニカには誘う友達がいなかったのだ。理由は違えど友達がいないモニカにリーリヤはなんだか親近感が湧いていた。
そう思っているとモニカが急にリーリヤの両手を包み込んできた。
「でも、良かった〜。これからはこういった問題を相談できる同じ境遇の仲間ができたからね」
「え?」
同じ境遇とはなんのことか。友達がいないことを指すのであれば間違ってはいないが、なぜリーリヤに友達がいないとモニカは思っているのだろうか。
アルマスか。やっぱりアルマスがいらないことを吹き込んだのか。
まぁ、友達はほとんどいないのは事実なのだが。
「その点、リーリヤちゃんは心配なさそうだよね。なんて言ったって、あのアルマスさんを見慣れているわけだからね」
「んん?アルマス?」
モニカと仲良くすること自体はやぶさかではない。
友達という存在にリーリヤは憧れを持っている。この街に来てからは、そういった人との繋がりに一層飢えるようになったとリーリヤは自覚している。
以前は否定しただろうが今なら認められる。リーリヤは街の人々が羨ましかったのだ。普通に暮らしている普通な人々が。
そんな気持ちでいたリーリヤは自身の思惑と違う話の流れに眉を顰める。
「嫉妬されている者同士、仲良くしようね!」
「はい?し、嫉妬?なんでそんな話になるの?」
「ありゃりゃ?さっきも思ったけど、リーリヤちゃんは自分がどんな立場にいるかわかってない感じ?」
ヘーゼル色の瞳を輝かせて、艷やかな赤い髪を払いながら今日一番の笑顔でモニカが告げた。
「あのイケメンで凄腕錬金術師で気さくで超優しいアルマス先生を独占してるんだから、嫌われまくってるに決まってるよね」
あまりの衝撃にリーリヤはその後の話がまったく頭に入ってこなかった。
モニカとの午後のお茶会が終わった後は教会でのお手伝いが待っている。『太陽の恵み亭』から教会へと向かう道すがらリーリヤは考え事に耽っていた。ガタゴトと音を立てて石畳を走る馬車をぼんやりと視界の端に捉えつつ、フラフラとした足取りで歩いているとぐいっと横に腕を引かれた。
「ちょっと。危ないですよ。しっかり歩いてください」
隣を歩いていたヘレナが馬車に接触しそうになったリーリヤを引っ張ったのだ。
「どうしたんですか。珍しく何かを悩んでるようですが」
「珍しくは余計だっての。私も悩むことくらいあるわよ」
ムッとしてリーリヤが言い返せば、ヘレナからは生暖かい視線が返ってくる。
「そうですね。リーリヤさんにはリーリヤさんなりの悩みがありますよね。すみません」
全然謝られた気がせず、リーリヤは憮然とする。
「それで何を悩んでるんですか。またおかしなことを言うんだろうな、なんて思ってませんから言ってみてください」
「思ってるじゃない。もうっ。私は真剣なのよ」
「はいはい。わかりましたから。では、どうぞ」
仕方がないからそういうことにしてやると言わんばかりの小生意気な態度をヘレナはとってくる。最近のヘレナは文句を言っても平然とリーリヤをいなしてくるので尚更腹が立つ。
それでも、リーリヤはヘレナに聞いてみることにした。自分で考えるだけでは答えが出ず、今は客観的な意見が欲しかったのだ。
「ねぇ、私って嫌われてるの?」
「はぁ。まーた変なことを。今度はいったい何があってそう思ったんですか」
「ほらぁ!やっぱり変だって言ったじゃない!」
リーリヤがヘレナに詰め寄れば、ヘレナは面倒くさそうに青い瞳を細めた。
「誰でも思いますよ、そんな悩み事なら。まったく。でも―――」
前を向いたままリーリヤの方を見ないようにしているヘレナがちょっぴり頬を赤くして付け足した。
「ま、まあ。わたしはそんなに嫌ってませんよ」
ヘレナの反応を意外に思いつつ、リーリヤは首を振る。
「そうじゃなくて」
「そうじゃなくてっ・・・!?」
唖然とするヘレナにリーリヤはモニカから言われたことを説明する。
「な、なるほど。周囲から見てリーリヤさんがどう思われているのか。そういう意味でしたか。・・・・・・ああ、もう!紛らわしい言い方をしないでくださいっ。てっきりわたしに嫌われてないかと心配してるんだと思っちゃったじゃないですかっ」
「あんたが勝手に勘違いしたんじゃない」
「それは、そう、ですけど・・・・・・。まぁ、いいです。さっきの話に戻りましょう。あくまでわたしの認識ですが―――」
「ご歓談中に失礼いたします」
そう言って突然話しかけてきたのは質素な黒いワンピースに白いエプロンを身に着けた若い女性だった。リーリヤはこの女性に見覚えがあった。確か、アルマスに連れて行かれた上街のお屋敷で働いていたメイドだ。
「えっと、あなた、ヘレニウス家にいた人?」
「ヘレニウス家っ!?・・・あそこの家の人間が何の用ですか」
リーリヤはヘレナの様子に驚いた。
普段は外面が良く、礼儀正しいヘレナが目の前のヘレニウス家のメイドを相手に珍しく警戒の色を隠していない。
「あんた、どうしたの?ちょっと様子が変よ。この人達はアルマスの知り合いみたいだから、ただのアルマスへの用事じゃないの?アルマスはここにいないから、多分伝言とかでしょ」
しかし、ヘレニウス家のメイドは静かに首を横に振った。
「いえ。ポルク様ではございません。リーリヤ・メッツァ様。貴女様を是非当家のお茶会へとお招きしたく存じます」
「は?わ、私っ!?」
慌てふためくリーリヤにメイドの女性は恭しく頭を下げると、背後に止められていた馬車の方に手を向けた。
「お嬢様がお待ちです。どうぞ、こちらへ」




