旅人と吸血鬼と狼娘
「ふんふーん♪︎…お?」
チュンチュン、と朝を知らせる鳥が私の頭の上に止まった。
手で捕まえ、その小さな頭を撫でた。
「よーしよーし…ふわっふわだねぇ…あっ、食いついてる」
じたばたと暴れる鳥を離し、釣竿を引いた。
そこにはそれなりの大きさの川魚が釣り針に食いついていた。
これで4匹目。
アンナと2人で2匹ずつ分け合おう。
テントに戻り、昨夜の焚き火の灰の上に拾ってきた枝や葉っぱを乗せ、火をつける。
内臓を抜き、塩をまぶした魚を枝で串刺しにして、焚き火の周りに並べて焼いていく。
「うんうん…いい感じ」
近くの丸太に腰かけ、荷物から一冊の本を出した。
元々冒険者で結構な経歴はあるものの、実は落ち着いたことが大好きで、趣味は読書である。
最近はアンナがいるため、こういった早朝くらいしか本を読まないが、アンナと話している方が楽しいから不満はない。
魚が焼けるまで本を読んでいると、道の向こう側から何者かが近づいてくるのが見えた。
「あうう…お腹、すきました…お魚の、匂い…?」
どうやら狼の獣人のようだ。
しかも可愛い…
こちらに気がついた少女はふらふらと寄ってきた。
「そこのお姉さん…すみませぇん…ご飯、分けて貰えませんかぁ…?」
「大丈夫?今焼いてるの好きなだけ食べてもいいよ。もうそろそろ食べられる頃だと思うから」
「いいんですかっ!?」
「うん。どうせそこの川で釣れるからね」
「あ、ありがとうございます…!あなたは命の恩人ですぅ…!」
「あはは、大袈裟だなぁ」
狼の少女は魚をむしゃむしゃと食べ始めた。
あの勢いならすぐに4匹とも平らげてしまいそうだ。
私は再び、朝食を確保すべく川へ向かった…が、後ろからついてくる足音が聞こえる。
「もぐもぐもぐもぐ…」
「えっと…向こうで待っててもいいんだよ?」
「ごくん…いえ、少しお話がしたくて…」
川辺の大きな岩の上に座り、釣り針を放った。
「僕はアルベルトと申します。大好きなご主人様が突然居なくなってしまったので嗅覚を頼りに探してたんですけど…」
「食料が尽きて放浪してた?」
「はい…情けない限りです…」
耳をしゅん…と萎れさせ、俯いたアルベルト。
か、可愛い…
是非ともそのお耳と尻尾をモフらせて頂きたい…
「私はシトラス。もう1人の仲間と一緒に人助けの旅をしてるの」
「見ず知らずの僕を助けてくれたし、人助けのために旅をしているなんて…!ご主人様がいなければ既に堕ちてます…!」
「…その、今のご主人様ってあなたにとってどんな人なの?」
「えっと…僕を救ってくれたお方です。元孤児の身寄りのない僕を拾って、メイドとして雇ってくれたんです…だからお嬢様がいなくなったと知って、お仕事をほったらかして探しに来たんです…あのお方がいないと、僕は…」
そう言ってまたしょんぼりと顔を下げたアルベルト。
その頭に手を置いて、柔らかいお耳を堪能しながら撫でる。
「ご主人様、見つかるといいね」
「はい…早く会いたいです…」
「よーし、それじゃあ私が占ってあげましょう。こう見えても魔法学校では占術も学んでたからね。私の手、握ってくれる?」
「こう、ですか?」
「それでいいよ。うーん…お、明るい未来が見えるね。今週中…いや、今日とか明日には会えるかも…?」
「ほ、本当ですか!?それなら早く探しに…!」
ぐぅ〜…
「…あんなに食べたのにまだお腹すいてるの?」
「うぅ…はい…僕、大食いなので…」
アルベルトは顔を真っ赤にして俯いた。
***
ぱちぱちと燃える焚き火の周りに立てられた大量の魚たち。
それをヨダレを垂らしながら見つめるアルベルト。
ご主人様のことは心配だが、それはそうとして腹は減った。と言う顔だ。
「そうだ、さっき言ってたもう1人の仲間、紹介しとくね」
テントに近寄り、声をかける。
「朝だよ起きてー!今日のご飯は焼き魚だよー!」
「うぅ…」
テントから出てきたのは、寝癖で髪がもさっとなっているアンナだ。
「この子が私の旅仲間のアンナ。可愛いでしょ!」
「あ、あ…」
「んー…誰と話してんのよ…あれ?アルト?」
向き合った2人が固まった。
あれ?知り合い…?
「お嬢様ああああ!!!」
「わわっ!ちょっとアルト!なんでこんな所にいるのよ!」
お嬢様…?
つまりアルベルトが探していた人物っていうのは…
「なんでこんな所にいるのか!?こっちのセリフですよ!探しましたよお嬢様!!突然家出なんかして!僕がどんな気持ちで過ごしたか分かってるんですかぁ!?」
「ごご、ごめん、ごめんって!」
「うあああああん!!お嬢様のおばかああああ!!」
………
珍しく狼狽えるアンナと、大泣きしながら崩れ落ちたアルベルト。
つ、ついていけない…
***
「それで?私を連れ戻しに来たのかしら?」
「…お嬢様は帰りたいですか?」
「嫌よ。どうせあんな所にいても、私に自由なんてないもの」
「それじゃあ連れ戻しません。僕もついて行きます!」
「え?」
「確かに旦那様のことをご主人様って呼んでますけど、あの方に忠誠を誓った覚えはありません。僕が忠誠を誓ったのは、お嬢様だけなのですよ」
「アルト…」
そういってアンナに抱きついたアルベルト。
そんなアルベルトを感極まった様子で抱きしめ返すアンナ。
「大好きよ、アルト。こんな私を探しに来てくれてありがとうね」
「えへへ、いいんですよ。初めてお嬢様に出会ったあの日から、僕の命はお嬢様のものです」
涙ぐんだ2人の女の子が抱き合っている姿を焼き魚を食べながら眺める。
はぁああっ…尊い…
焼き魚が八割増しで美味しく感じる…
「あ、そういえば。お嬢様とシトラス様はどんな関係なんですか?とても仲が良いように思いまして…」
「まぁ仲間っていうか新しい従者って感じかしら?」
「恋人かなぁ?」
「…ん?」
アルベルトがぽかーんと口を開け、アンナがこちらを睨む。
「ちょっと…別にまだ告白してないし、されてないと思うんだけど?」
「だって私の事好きって言ってくれたじゃん?」
「ぅ…そう、だけど…」
顔を赤くして俯いたアンナを見て、アルトがようやく動きだした。
「こここ、恋人、と申しましたか!?」
「うん」
「ま、まぁ…うん、そう、なのかな…」
あわわわ、と慌てだしたアルベルト。
「こ、婚姻の申し出を全て蹴り飛ばしていた、あのお嬢様が、まま、まさかシトラス様と…!」
「え?そうなの?」
「…そうよ。家出したのも、求婚してくる吸血鬼たちが面倒だったからってのもあるわ」
家にいた頃、金持ちのおじさんや顔はいいが悪い噂のある男など、たくさんの人から求婚されていた。
しかし、その全員が自分の見た目の良さだけで選んでいることに気がつき、全て断った。
父親も父親で、自身の地位が大事らしく、金持ちと結婚させようとしてきた。
「だから、父上に反発して、喧嘩したのよ…」
「それで家出したのですか…それでも、お嬢様に好きな人が出来たのなら、僕は応援します!」
「…それで、結局アルベルトちゃんもついてくるってことでいいんだね?」
「はい!…その、食費を払えるほどお金は持ってないのですが…」
「ああ、そこら辺は大丈夫だよ。私、これでもお金ならいっぱい持ってるから。歓迎するよ、アルベルトちゃん」
「ありがとうございます!その、アルトって呼んでもらってもいいですか?」
「うん、分かった。よろしくね、アルトちゃん」
「はいっ!」
狼の少女、アルベルトが仲間になった。