エンカウント
「ねー。シトラスってなんで旅なんかしてるの?」
「うーん…なんで、かぁ…」
私が旅を始めたのは2年前くらいからだ。
魔王が討伐され、世界が平和になったと騒がれていた頃だった。
ただ、平和と言っても、魔王によって残された爪痕は世界各地に残されている。
例えば、凶暴化したモンスターによる獣害、魔法爆弾によって吹き飛ばされた村、行き場を無くした魔王軍側の魔族たち。
私は、そんな人たちを助けるためにボランティアで各地を回って手伝いをしている。
「それと…」
「それと?」
「…いや、なんでもないや」
「なによ…でも、意外と立派なのね…私だったら絶対にしないわね。めんどくさそうだし」
「ふふっ、やってみたら意外と楽しいもんだよ」
「本当かしら?まぁ、あなたの旅に同行したわけだし、村とかにもついて行くくらいはするわよ」
もちろんボランティアだからお金は貰っていない。
まぁ、言ってしまえば自己満足である。
「それで、次はどこに向かってるのかしら?」
「ここから2、3日くらい歩いたところにあるリム村だね。魔王軍が放ったモンスターが村の周りをうろついてて、迂闊に森に入れないから困ってるらしいの」
「モンスターかぁ…待って、あなた戦えるの?」
「当たり前でしょ。私、1人で旅してたんだよ?戦えるに決まってるじゃん」
そう話していると、道を囲む森の方から音が聞こえた。
「ゴルルルルル…」
声の聞こえた方向を見ると、大きな獅子と目が合った。
しかも胴体には大きな羽が生えている。
「きゃあっ!?これ、鷹獅子じゃないの!に、逃げ…」
「ふふん、少し離れてて」
私は荷物をおろし、拳を握って構えた。
「速度上昇…筋力増強…肉体改造、腕を硬化…」
一度に3つの術式を発動し、こちらを睨む鷹獅子を見る。
目は…赤くない。
つまり、魔王軍が放ったモンスターではないらしい。
それでも、人を襲うような気性の荒いモンスターなのであれば討伐せねばならない。
飛びかかってきた鷹獅子の牙が体に刺さる前に避け、右拳で顎下へのアッパーカット。
鷹獅子は森の奥に吹き飛んで行った。
流石は鷹獅子、あの感触では気絶くらいで済んだのだろう。
トドメを刺そうと近づこうとしたら…
「キャウ!キャウ!」
「グルルルル!」
茂みから出てきたのは小さな鷹獅子の子供達だ。
なるほど…子供を守るための威嚇だったのか…
2匹の子供を抱き、先程吹き飛ばした親の鷹獅子のところまで連れていった。
「ごめんね、勘違いしちゃった」
荷物を漁り、焼いて食べよう思って買っていた、保存魔法をかけた大きな肉を親子の近くに置き、アンナのところまで戻った。
「た、倒したの?」
「うん、とりあえず気絶させといた。さ、行こ」
「そうね…ってそうじゃない!あなた三重術者なの!?しかも付加魔法まで使えるなんて…上級術者じゃないの!」
三重術者というのは称号のようなものだ。
魔法というのは勉強したら誰でも使うことが出来るが、九割以上の人間が魔法の同時発動ができない。
しかし、私は生まれつき備わっている膨大な魔力量と器用さで3つの魔法を同時に行使することができ、三重術者という称号を与えられた。
「にひひ、これでも国立魔法学校は首席で卒業してるんだよ」
「首席って…ね、ねえ…私にも魔法教えてくれないかしら?ちょっと興味あるの」
「いいよ。先生が手取り足取りじっくりねっとり教えてあげようじゃないか、ぬふふ」
「…やっぱりやめとくわ」
「冗談だって。初歩的な魔法から教えたげるからさ」