宿屋
今日初めて感想というものをいただきました。
逆ネット弁慶過ぎて返信は出来ませんが、めちゃくちゃ嬉しいです!
ありがとうございます!
「ねー、まだつかないの?」
「我慢して、もう少しで街だから」
「うー…眩しい…」
「…街に着いたら日傘も買おうね」
彼女は吸血鬼の中でも上位種、つまり貴族の娘であり、太陽の光による消滅はしない(が、苦手ではあるらしい)。
次期当主に相応しい吸血鬼になるための習い事や礼儀作法など、親から押し付けられるものに嫌気がさして家を抜け出したという。
気持ちはとてもわかる。
ああいうのを強制されるのってめっちゃヤだよね。
食料や寝具等を買うために近くの村にやってきた。
特にテントは狭いし冒険者時代から使っていてボロボロだったので、買い換えることにした。
「…これが街…?結構賑わってるのね」
「うん、これくらい普通だと思うけど…」
「私はあまり屋敷から出してもらえなかったのよ。だから、こうやって自分で街に入るのは初めてなの」
「そ、そう…なんかごめんね」
「謝んないでよ、なんか惨めな気持ちになるから」
「…」
少し怒らせてしまっただろうか。
でも、そんな怒った顔もかわ…いや違う、何とかして機嫌を直してもらわないと。
血を吸ってもらう…いや、こんな大衆の前でそんなことはできない。
他に好きなものを…アンナは何が好きなんだろう…?
今それを聞くのは物で釣ろうとしている感じが見え見えだって怒られそうだし…
うー…どうしよう…
そうやって内心頭を抱えていると、アンナの足が止まった。
「どうしたの?」
「…いえ、何でもないわ。行きましょ」
アンナが見ていたのは、お菓子屋さんの店頭に並べてあるクッキーだ。
もしかして…
「あれ、食べたいの?」
「そ、そんなことないわ。子供じゃあるまいし」
「ふーん…」
そう言いながらも、ちらりとクッキーを見たのを見逃さなかった。
私は店頭にいるおばちゃんの元に駆け寄った。
「すみませーん、この、クッキーの詰め合わせをひとつ下さい」
「はいよ。ちょっと待ってね」
下からガサガサと音を立てて出てきたのは、頼んだのよりもひとつ大きなサイズの詰め合わせだ。
「え、私が頼んだのこっちなんですが…」
「いいのいいの。今日はいつもより多く作っちゃったからね。値段はそのままでいいよ」
「ありがとうございます!」
大きいのになったということは尚更都合がいい。
お金を手渡し、クッキーが入った少し大きめの袋を持ってアンナの元へ戻った。
「欲しかったのよりも大きいサイズをサービスしてもらったんだけど、この量を一人で食べたら太っちゃうからさ、一緒に食べない?」
「…ふん、仕方ないわね!」
そう言って、二人で一緒にクッキーを食べた。
甘くてサクサクで、とても美味しい。
アンナも上機嫌でパクパクと食べている。
可愛いな、この子。
***
買い物を済ませ、宿屋に入った。
久しぶりに暖かいベッドで寝れるからワクワクしている。
「食料よし、新しいテントよし、石鹸等日用品もよし…買い忘れはないかな」
「ねー、シトラスー。これどうやって使うのー?」
シャワールームからアンナの声が聞こえる。
お嬢様だったアンナには一般的なシャワーの使い方が分からないようだ。
教えるためにシャワールームに入ろうと、扉に手をかけて立ち止まった。
シャワールーム=全裸。
つまり、アンナ=全裸…!?
違う違う、シャワーの使い方を教えるだけだ。
アンナの裸が目的なのではない。
そう、これは仕方ないことなのだ。
あくまでも私の目的はアンナにシャワーの使い方を教えることなのだ。
扉を開くと…
「あ、シトラス。これを回しても冷たい水しか出ないのよ」
「…あぁ、これとこれを一緒に回すの。自分の好きな温度に調節するんだよ」
「なるほどね…うん、分かったわ。ありがとね、シトラス」
バタン…
扉を閉め、部屋まで戻り、ベッドに飛び込む。
そして、枕に顔を押し付け…
「(ああああああああ!!!!めちゃめちゃ綺麗だったああああああ!!)」
未だにドクドクと音を鳴らす心臓を押さえ、ベッドの上で悶絶する。
最後の「ありがとね、シトラス」の時の笑顔なんて最高すぎだよおおおおお!!!
「ふぅ、ふぅ…あ、やばいやばい、鼻血が…!」
ベッドに付いたらクリーニング代請求されちゃう…!
***
「ふぅ、シャワーだけってのも結構いいわね…ん、血の匂い…どこか怪我したの?」
「う、うん、ちょっとね…」
「?まぁいいわ。とりあえず今日の吸血、いいかしら」
「うん、いいよ。はい」
昨日噛み付かれた場所をさらけ出した。
鏡で見たら、首に2つの穴が空いていた。
不思議なことにそこから血が出てくることは無かった。
そして、穴の付近に触れて気がついたのだが、少し敏感になっているようだ。
「それじゃあ、いただくわ…」
吸血鬼は吸血する時に恍惚な表情をする。
ご馳走を目の前にした動物のように少し舌を出し、首をねぶられる。
穴付近を舐められて、思わず身震いをした。
くすぐったくて、それでいて暖かくて、少し気持ちがいい。
ゆっくりと牙が挿入される。
奥の方までくると、ぷちゅり、と音が鳴り、血が溢れ出した。
「う、ぁ…んっ…」
「んく、んくっ…」
力が抜けていく。
しかし、それに反して体の感覚は鋭くなっていく。
敏感になっていた首の穴を刺激され、少し感じているのである。
甘くて優しい快感が脳をくすぐる。
「ふっ…んぅっ…!」
「ぷはっ…」
なにかに達しそうになった瞬間、アンナが口を離した。
「ぁ…」
「ぺろ、ぺろ…ん、ご馳走様、美味しかったわ。なんでシトラスの血ってこんなに美味しいのかしら…?」
お預けをくらった犬のような気分だ…
「お腹いっぱいになったら眠くなってきたわ…明かり消してもいいかしら?」
「いい、けど…ちょっと私をベッドに運んでくれないかな…?」
「なんでよ。めんどく…あぁ、そういえば動けないのよね…悪かったわ」
痺れて動けない私をアンナが抱え、ベッドに寝かせて、さらに布団までかけてくれた。
あまり表に出さないだけで、実は結構優しいのはアンナのいいところだ。
「じゃあ、おやすみ、シトラス」
「うん、おやすみ」