結婚式
「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も…」
あぁ、退屈。
こんな茶番、全てを投げ出して逃げたい。
シトラスに抱きつきたい。
アルトを撫でてあげたい。
あの二人といつまでも一緒にいたかった。
実家で行われる結婚式。
人間たちが教会で行うように、ほかの特別な場所で式をあげたらこの退屈さ、少しはマシになったかしら。
…いや、そんなことは無いわね。
「誓いのキスを」
はぁ…
周りには私たちの親族や知り合い等、様々な吸血鬼がいる。
目を閉じ、ジョセフに口付けを…
「おっじゃましまーす!!」
扉を蹴破り、入ってきた場違いな女。
…この馬鹿みたいな声は、シトラスだ。
「どうして?」
「ん?」
「私はあなたのためにこの家に戻って来たのに、なんでそんなことをするの?なんで、私の覚悟を無駄に…っ!」
「なんでなんでって、あなたの恋人だもの。何処の馬の骨ともしれない男性にはあげないわよ」
そしてジョセフにドヤ顔を決めるシトラス。
「あなたのために、私は…!どうしてこんなことをしたのよ!」
「…」
「どうして、どうしてわざわざ死にに来たのよ!」
「…逆に聞くけど、どうしてそんなに笑顔なのさ」
「へ…?」
顔に触れる。
口の端が上がっている。
「アンナ、あなたのことが好きだから、あなたが幸せであって欲しいから、私はあなたのことを取り戻しに来たの」
「ぁ…」
その眩しい笑顔を見て、涙が零れた。
ああ、やっぱり私はシトラスのことが好きだ。大好きだ。
「ジョセフ、ごめんなさい。やっぱりあなたとは結婚できないわ」
「…あぁ、そのようだね、残念だ」
残念だ、という割には嬉しそうな顔をしてるじゃないの。
「…ッ!」
ゾッ、と怖気を感じ、周りを見る。
どうやら、親族はシトラスを無事に返すつもりは無いらしい。
「なんでそんなに怒ってんの?あぁ、結婚式にふさわしい服装じゃないからね!」
そう言って、魔法か何かによって一瞬で早着替えをしたシトラスは真っ赤なドレスを身にまとっていた。
人間が血液のような真っ赤なドレスを吸血鬼の前に見せる…つまり、「やれるもんなら殺ってみろ」という挑発行為だ。
それを見た父上が立ち上がった。
「アンナ様、ジョセフ様、こちらへ。シトラス様から離れていろ。と言われています」
背後から近づいてきたアルトが私たちの手を引いて物陰へと下がらせた。




