お見合い
「趣味は乗馬や花の手入れ、他にも料理や武芸を嗜んでおります。今並べてある料理も私が用意させて頂きました。良かったらお召し上がりください」
はぁ、退屈だわ。
乗馬が何よ。
花が何よ。
料理なんてどうでもいいわ…あ、結構美味しい。
相手は父上の知り合いの息子で、私よりも5歳くらい年上の男性だ。
顔はいいし、性格も良い。
まさに私の好みである…でも、違う。
「ここには私たちしかいないので、話したいことがあります。実は私、こっそりとお付き合いさせてもらっている女性がいるのです」
「…来週には結婚する相手に言うことかしら?」
「失礼なのは重々承知の上です…ただ、あまりにも退屈そうなお顔をしていらっしゃるので、もしかしたらあなたにも想い人がいるのではないかと思いまして…」
「顔に出てたのなら謝るわ…でも、そうね。好きな人、居るわ」
「そうでしょう…貴女もきっと父親に命令されて嫁がされようとしているのでしょう。私もそうです…貴女はとても素敵な方です。ですが…」
「私も同じことを思っていたわ。あなたに悪い印象はないけれど、あの人と話している時のような、心から沸きあがるような幸福感がないのよ」
「はい…私たちは似たもの同士のようです。かといって、今さらこの話を無かったものに出来ませんよね…」
「はぁ…誰か式の途中に全てをぶち壊してくれる人、居ないかしら…」
案外気が合うのかもしれないジョセフと一緒にため息をついた。
***
「ほ、本当に馬買っちゃうなんて…」
「ひゃっほーう!走れ走れー!」
どこからともなく現れた大量の現金で馬を買い、お嬢様がいるお屋敷に一直線で走っていく。
僕はシトラス様の腰にしがみついている。
それにしても、心配だ。
お嬢様の事もそうだが、シトラス様の事が特に心配だ。
確かにシトラス様は強い。
しかし、人間だ。
旦那様は吸血鬼の中でも有名な強者であり、吸血鬼を率いるリーダーのような立ち位置でもある。
もしも旦那様の怒りに触れてしまったら、人間なんて簡単に殺されてしまう。
どうして、そんなに自信満々の笑顔で向かっているのだろう。
恐怖は無いのだろうか。
「…安心して、アルト。あなたも含めて、アンナのことも幸せにしてあげるから」
「…わかりました。信じてますからね、シトラス様」




