大好き
『もう、いつまで泣いてんのさ』
「だって…もう、フィールに会えない…」
『僕はここにいるよ?』
「あなたは夢の中のフィールでしょ…本物じゃない」
『ふふっ、確かにそうかもね…出会いは楽しいし、別れは寂しい。これは誰でもそうだよ』
「…うん、別れは寂しいし、悲しいよ」
『でもさ、僕が思うに、1番大事なのは出会いから別れまでの過程でしょ。いつまでも別ればかり思い出してめそめそしてるんじゃないよ』
「それでも…立ち直れない。フィールがいない世界なんて、私にとっては苦しいだけ…」
『はぁ、やっぱりシトラスは頭いいのに、お馬鹿だよね。ほら、思い返してみて。僕が死んだ後の記憶。自分の表情を思い出してみなよ。旅に出て、初めて村のお手伝いをした時、みんなに感謝されたシトラスの顔、こんなに嬉しそうだよ』
「…」
『魔王軍の残党に滅ぼされかけてた街を救った時、英雄だ!なんて言われて、照れてる君。助けてあげた村の1番の美女にお礼を言われた時の君。嬉しそうだ』
「…」
『そして、リアンナちゃんとアルベルトちゃんと話している時の、幸せそうに笑う君。僕と話していた時もこんな顔は滅多にしなかったから妬けちゃうなぁ…』
「…」
『僕だって悲しいよ。生身で君と会うことが出来なくなったんだから…それでもね、僕が君を思い出す時は笑ってる。馬鹿なことをした学生時代も、2人で王国の追っ手から逃げた時も。悲しかったひとつの記憶よりも、楽しかったたくさんの記憶だよ』
「楽しかった、記憶…」
『うん。僕と君の、とても楽しかったあの日々を辛い過去にしないでくれよ?』
「…ごめん…」
『分かってくれたならいいんだよ』
「あれ…フィール、体が薄くなって…」
『…時間が無くなってきたね。そろそろ目覚めの時だ』
「…フィール、ありがとう。ずっとずっと、大好きだよ」
『あぁ、僕もさ。いつでも君を見てる。愛しているよ。…夢の中のフィールは本物のフィールじゃないって言ってたのに、そんなこと言ってもいいのかい?』
「うん。だって、今話してるフィールは、きっと本物だから」
『…ふふん、それはどうだろうね。それじゃあ、お別れのちゅー』
「ん……また、会えるかな」
『うん。神様が許してくれたら、だけどね』
「わかった。それじゃあ、また今度」
『あぁ!それと約束!リアンナちゃんとアルベルトちゃんを幸せにしてあげなよ!シュトラウス!』
***
知らない天井だ…
「ん、う…ここ、は?」
「…はっ!シトラス様!シトラス様ああああ!!」
「わわっ、どうしたのさ」
私が意識を失った時に偶然近くにあったアンナの父親の別荘で看病していると存在を知られてしまい、私たち二人の命と引き換えにアンナはついて行った…と…
「ひっぐ、お、お嬢様にはっ、も、もうっ…!」
「…大丈夫、大丈夫だから落ち着いて」
抱きついてしゃくり泣くアルトを抱きしめる。
「シトラス、様…!ごめん、なさいっ!ひぐっ、僕、なにも、出来なくてっ…!」
「謝るのはこっちの方だよ…自分の体調管理を疎かにしたせいで、こうなっちゃったんだから」
私はフィールと、2人を幸せにすると約束した。
なら、もうやることは決まっている。
「ねえアルト。アンナの実家の場所、教えてくれる?」
「へ…?ま、まさか、助けに行くなんて言いませんよね!?吸血鬼たちが沢山いるお屋敷ですよ!?無理に決まってます!お嬢様の自己犠牲を無駄にする気ですか!?」
「無駄にするつもりなんてないよ…ただ、父親だかなんだか知らないけど、誰の恋人を奪ってしまったのかを教えてあげるだけだよ」
「っ!わ、わかり、ました…」
私は怒っている。
私も学生の頃まではお嬢様として、親から色んなことを押し付けられてきた。
そして我慢の限界で家を抜け出した。
フィールの助けもあり、そのまま冒険者として旅に出ることが出来た。
そんな経験をした私からするとアンナの気持ちはよくわかるし、私たちを守るために連れていかれた事の恩返しもしたい。
「それで、ここからどれくらいかかるの?」
「えっと、ここが別荘なので…馬車で行っても2日くらいはかかるかと…」
「げ…まじかぁ…近くの村で馬でも調達しようか」
「調達って…まさか馬一頭買うんですか!?」
「うん。だから言ったじゃん、私結構お金持ちなんだよ」




