きっかけ
「あー食った食った」
一人の男が、ご飯によって膨れたお腹を手で叩きながら満足げな顔をしている。
ロボットから出された食事をいち早く食べたのは7番だった。
7番は運動神経が良い。
いつも俺に運動の勝負やご飯の早食い対決を申し込んでくる。
とにかく7番は勝負が好きな男だ。
「おい13番、後で外に来いよ!」
7番が食堂のドアを開きながら俺に言った。
「な、7番。まだ俺食べ切ってないよ!」
いつも7番は俺を急かして遊ぼうとする。
「早くこいよな!」
そう言うと、7番は笑顔で走り去っていった。
「本当に自分勝手なやつだな...」
ご飯をゆっくり食べる暇はいつもない。
「まあ、そう言うなって13番。7番は寂しがり屋なんだよ。私たちはいつもあの雰囲気に助けられているじゃん」
そう言ってきたのは、10番だった。
10番はいつも周りを見ていて、仲間のことをよく知っているしっかり者だ。
いつも正論を言ってくるので言い返すことができない。
「わ、分かったよ10番」
俺は急いでご飯を食べて外へと向かった。
孤児院の外にはちょっとした公園のようなサイズのスペースがある。
「お、やっときたか13番!」
7番は俺がくるのをものすごく楽しみにしていたようだ。
その証拠に今にでもボールを投げたそうな顔をしている。
「ごめん、遅くなっちまった」
「大丈夫だって、キャッチボールをするぞ!」
7番は目をキラキラに光らせながらグローブをはめた。
「いくぞー!」
とても緩やかなボールだ。
キャッチしやすい。
何回かボールを投げ合っていると、
「そういえば13番、覚えているか?」
7番がキャッチボール中に話しかけてきた。
「何を?」
「昔13番がこの街のマラソンのイベントに出たときにさ、ゴールするときに孤児院の2番から12番が一列になって手を出してタッチしただろ。俺が一番先頭で。バンさんは仕事でいなかったけど」
「あー、あったなそんなこと」
オルタネイトではマラソンのイベントが行われることがある。
この孤児院ではジャンケンで負けた俺が出ることになった。
「あの時どう感じた?」
7番は楽しそうに質問してきた。
「どう感じたって...、とても嬉しかった」
確かにあの感じは一生残るだろう。
あんな体験は滅多にできない。
「なんでこんなこと質問するんだ?」
「いつ開かれるか分からないけど、次は俺が出たいんだ! それで13番がやってたようにみんなとタッチがしたい!」
「そうか、早く開かれるといいな」
キャッチボールをしていたらもう昼ごはんの時間になっていた。
俺たちはキャッチボールをやめて、座りながら一休みをした。
「なんで7番は運動神経が良いんだ?」
俺が質問をすると7番は青空を見ながら話だした。
「俺が13歳の時に川で溺れている子を見かけて、飛び込んで助けようとしたんだ。けどあの子を助ける自信がなくて一歩止まってしまったんだ。その時に一人の男の人が川に飛び込んで助けたんだ。それから人の役に立つように運動神経を鍛えようと頑張ったんだよ」
7番が言ったことは、自分の予想を遥かに超えた。
一つの出来事で自分を変えようとするなんて凄いやつだ。
「さ、13番昼ご飯を食べに食堂に向かおう」
俺たちは座るのをやめて食堂へと向かった。