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指名制天使  作者: ぶらいんど
3/3

第三日:打ち合わせ


「俺が来た目的は、あんたの魂だ。」


天使と人間の邂逅。

物語最初の大きな決断が迫る。




――――――――――――――――――――――――――




「魂が目的?」


かなり驚いていたと思う。

聞く前に覚悟はしておいたつもりだったんだけどね。


「あぁ。実際にはてめぇの魂を俺に

預けて貰いたいってわけだ。」


こんなこと言われたら、思いつくのはひとつの存在だ。

僕もそれを聞かざるを得なかった。


「君は、悪魔?

天使ってのは悪魔でもあるって事かい?」


そうすると、天使はこう説明しだしたんだ。


「最初、世界の初めには"魂"は

天界と世界を回るだけだったんだ。

"器"が壊れたら"魂"は天界に行き、

時が経つとまた次の器に入るってな。」


「"最初"ってことは何かあったんだね。」


「そう。何回か世界を回った魂が言ったんだ。

その頃人間が生まれ始めたんだがな。

"器"で過ちを犯した奴と一緒にいるのは

気に食わんってな。

過ちってのは仲間を裏切ったり騙したり、

人間特有の文化の事だ。

そこで神様はもうひとつの場所を作ったんだ。」


ここまで説明されたら、

それが何かなんて簡単だった。


「地獄だね?」


「その通り。地獄って表現がいちばんわかりやすい

だろうな。冥界とか色々あるが。

そこでは色々罰を下すんだ。

自分がしたことを、相手の立場にして

疑似体験させる。

それからもう一度世界に戻すと、

その経験があるから善い事をするようになるはず

ってわけさ。

当初はかなり上手くいった。」


その時僕は思いついたんだ。

上手くいかない理由を。だから得意げに言った。


「地獄で罰を受けた反動で、

次の生でさらに悪いことをし始めたんじゃない?」


「まぁ、それもある。

でもそれだけならいいんだよ。

絶対数は減ってるし、少数そういう魂がいても、

それを含め人間的文化だからな。

だがそれが主じゃねぇ。

他に大きなものがあるんだ。

娯楽になっちまったんだ。」


得意気に言った割にかすっただけだったために、

かなりのダメージを受けながらも僕は話を続けた。


「娯楽って、地獄がかい?」


「あぁそうだ。

もともとなんで魂が天界に戻らなくちゃあいけねえ

のかっていうと、魂を充填するためなんだ。

魂を許容値まで充填して、世界に戻る。

んで必要最低限以上の余剰分を

分割することで新しい魂、つまり子供を産むわけだ。

んで天界にいる間に界に満ちたエネルギーを

魂に充填する訳だが。

その間暇なんだな。

何回も何回も繰り返すと、天界の平穏平和が

煩わしくなってきやがるようだ。

そこで暇つぶしに来るようになっちまった。

地獄にだよ。

いつの間にかな。

1人が行くと2人が行く。バイバイゲームだ。

苦痛も罰も、アトラクションになっちまった。

おかげで天界はすっからかんだ。

ほとんど残っちゃいねぇ。

しかも地獄は苦痛が与えられる分、

エネルギーが溜まるのが速ええんだ。

別に全部溜まらなくても生まれ変わりは

好きな時に始められるが、

子供を欲しがるやつは多い。

溜まるなら速ええほうがいいわな。

加えて魂の余剰エネルギーが多いと、

長生きするんだよ。

ってことで天界は閑散としてらァ。

商売上がったりなんだよ。」


彼は鬱憤を吐き出すように長々と説明した。

人の目にも困ってることは明らかだ。

だからまずは全ての事情を聞くことにした。


「商売しているのかい?」


「てめぇら天使に家庭がないとでも?

天使に欲がないとでも?

土木工事と管理だけのためなら、

このよく喋る口はいらねぇわな。

天使も生活し、金を使うんだよ。」


金使うの!?って結構びっくりした。


「金使うの!?」


「はぁ?てめぇら人間が3000年も通貨制度を

使い続けてきた理由はなんだと思ってんだ?

便利だからだろう?

便利なものを、上位存在が使ってないわけ

ねぇだろうよ。

家族を養うためにも沢山必要だ。

それに、お前らの知っている名だと、

『ウリエル』って知ってるだろ?

あの人のファンクラブ高ぇんだ。

最近どんどん値上がりしてやがる。」


ファンクラブがあるとは驚きだったよ。

確かにウリエルって美人さんっぽい名前だ。

でもそれより興味が湧いたのは、天使が使う通貨だ。


「天使は何を通貨として使うんだい?

それにそれはどう貰うの?給料制かい?」


「天使が扱うのは概念だ。

わかりやすいよう仕事量って言っておくか。

Wじゃあねえぜ。Qでもねぇ。

高校生のてめぇは混乱するかもだけどな。

仕事量ってのは魂を捌いた量のことだ。

魂を案内し、整理し、管理した仕事の成果が

そのまま通貨に還元されるわけだ。

そのほかにも生まれ変わり先の書類を

用意したり色々仕事はある。」


「じゃあ完全歩合制ってわけかい、」


「いや、その他にも土木年金ってのがあって、

世界作りを手伝ったお礼に、

神様から毎月支給される仕事量もある。

これは世界作りの時に約束されたもので、

永遠に貰えるんだ。

これがあるから何とか成り立ってるが、

今の話とさっきの話。

ちゃんと聞いてたら気づくだろう?」


さすがに気付いた。歩合制ならその元となる

仕事がないと成り立たない。なのに、

魂は地獄に行ってすっからかんって訳だ。

でも。


「でも、それなら神様に変えてもらえば?」


「それができねぇから困ってるんだ。

言っちまうと、地獄を作ってくれって

直接お願いしたのは俺ら天使なんだよ。

魂の願いは聞くべきだってな。

神様は世界に変革がきたされる事を

知っていたが、世界作りを手伝ってくれた

天使の頼みをひとつも聞かないという

選択肢はないって言ってくださったんだ。

そして地獄を作ったあと、

あとの変化は天使たちの手で

乗り越えなさいと言われた。

だからこれは俺らで解決せにゃあならん。」


なるほど。彼らはかなり切羽詰まってるが、

神様に頼らずに乗り切ろうとしてるわけだ。

僕は彼が話終わるまで、聞き続けた。


「そしてひとつの方法を思いついたんだ。

これはさっきてめぇが天使は悪魔なの?

って聞きやがったように、

もともとは悪魔の考えた手法だ。

悪魔が仕事の少なかった時代、

自分の権限の許す限りの願いを叶え、

引き換えに地獄に来てもらっていた。」


つまり今の天使の状況は、

昔の悪魔の状況に酷似しているわけだ。


「この手法を真似し、

天使は人間に自分の権限でできる限りの

願いを叶え、引き換えに器が壊れた後、

魂は天界で過ごし、その管理の仕事を

担当した天使を指名して任せる。

『指名制天使』制度を設けたんだよ。」


「天界での退屈を我慢する代わり、

願いを叶えてもらえるって感じか。

そしてそれは指名された天使の

仕事になる、と。」


この時僕はまだ迷ってたんだ。

この上なくいい話に聞こえる。

でも、彼の最初の方の言動から、

この話自体を信じる人が少なく、

まだ浸透していないのだろう。

となると天界でひとりぼっち。

かなり寂しそうだ。


「その通り。

これで説明は終わりと行きたいが、

条件がある。

①叶える願いは一つだけ。

②担当の途中変更はできない。

このふたつだ。

まぁ願いについてはオススメがあるがな。」


「オススメかい?」


「あぁ。おれゃあ天使だ。

世界と天界の輪廻の管理者。

人間の欲ってのは一生では

収まりきらんらしい。

そこで管理者の権限の出番だ。

つまり、「転生の権利」を

てめぇに渡すことができるのよ。

時代はてめぇが生きる時代に限定、

容姿もそのままだが

全くの別人として生まれ変われる。

回数に制限はあるけどな。

そうすれば人間の欲が

満たされるんじゃねぇかって寸法よ。」


「回数制限があるのかい?」


「あぁ。108回だ。

お?中途半端って顔だな。

だが誰が十進法が綺麗だと決めた?

人間の感覚だろう?

てめぇらに時間を数える方法を

教えた時、天界と同じ十二進法を伝えたのに

頑なに使わねぇから

時計が読めねぇ子供が出てきやがる。」


大分話がそれてきたが、

他にも何か制限があるのか聞いてみた。


「まぁ何分あんたが最初だ。

色々試したいから制限はねぇ。

なんだったら誰か道ずれでもいいぜ。

天界でひとりぼっちは寂しいだろうよ。」


そう言われた瞬間、1人の女の子が思い浮かんだ。

周りがみんな「カッコイイ!!」しか言っていない中、

僕が病んでしまっていることを、

唯一初見で見抜いた子。

かわいい凛さん。

条件なんてどうでもいい。

あの子と一緒に行けたら……


「他を誘ってもいいのかい?

その場合でも願いはひとつかい?」


僕は必死に聞いたんだ。


「あぁ。そいつの了承があれば

誘ってもいいさ。

だが願いは一つだけ。

それも誘ったやつと共有だ。

あと、もし誘って断られたら

そいつの記憶を改ざんするから

心配すんな。

さて、誰か誘うか?

どうすんだ?」


僕の答えはひとつだった。


ご感想など頂けたら次回投稿までの期間が短くなる気がします。

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