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指名制天使  作者: ぶらいんど
1/3

第一日:語り口

 

はじめまして皆様。

私の名前は「透谷 凛 (とおるや りん)」と申します。

私には夫がございまして、

名前を「透谷 閑 (とおるや しずか)」と言います。

年齢的には、2人とも人生の折り返しが

迫ってきているところであります。

 さて、紹介はこれぐらいにいたしましょう。

そろそろ夫が帰ってくるはずでございます。 

あ、口調は普段通りに戻しますね。




 ――――――――――――――――――――――――――




「ただいまー!!りんりん!!」


 あ、バカが帰ってきた。


「おかえりなさいしずか。」


「あれ!? 呼び方、かえちゃったの…?」


 いくつになっても呼び方を変えるつもりはないらしい。

最近は嬉しさよりも気恥しさが勝ってきたけど、

仕方ない。


「……しずくん」


「かわいーーーーーーーー!!」


 わ、抱きついてきた。

このぎゅーってくるのがすき。嬉しいなぁ。

でもまぁ、いまだにこの愛情表現をする同年代の夫婦は

多分いないんだろうなぁ…


「あ、りんりん。朝約束したデート、

今日は高級なバーにでも行こうかと思うんだけど、

どう?」


 そうだった。今日は外食デートって言われてたから、

ご飯作らなかったんだよ。楽ちんでありがたい。


「もし気分が乗らなかったら、

高級な居酒屋という選択肢が待っているよ。」


 ……?


「高級な居酒屋って?」


問い返すと閑は私の頭を撫でながら言う。


「そりゃあ、ビアホールさ。

ビアホールって、高級な居酒屋って意味だろう?

高級な踊り場もダンスホールって言うし。」


 バーにしよう。


「バーにしよう。」


思考と言葉の見事な一致である。


「わかった!じゃあ支度が出来たら早速行こうか!」


うん。

ビアホールは決して高級な居酒屋などではない。いいね?




 ――――――――――――――――――――――――――




 かなり高そうなバーだ。

大きな1枚ガラスの窓から綺麗な夜景が見える、

暗めの穏やかな雰囲気の店。

ちなみにホテルのラウンジ。高級ホテルの。

テーブルの上にメニュー表が2つ。

たぶん羊皮紙?で出来ていて、

しかも英語じゃない言語で書かれてる。

とっても素敵な店。

でもね。


 でもなんで予約名が「りんりん」なの!?

「おふたりでご予約のりんりん様」とか、

恥ずか死するかと思ったわ!!

まぁ、いつもの事だけど…。


しずくんがお酒を頼んでくれた。

こういう所に不慣れな私をリードしてくれる。

私のしずくん。

お酒は「ルジェ・カシスオレンジ」という名前。

いっぱい説明されたけど、とにかく私の誕生酒らしい。


とりあえず、乾杯。


「りんりんの可愛さにかんぱーい!!」

「か、かんぱい。」


もう。言っても辞めないからいいけど。

言われる身にもなって欲しい。顔が熱くてしょうがない。

誤魔化すようにお酒を飲む。

顔の火照りをお酒のせいにできるように。


しばらくお互いを見つめ合う時間が過ぎた。

若い頃が懐かしい。今は2人ともいい歳だ。

今年で37歳。もう誕生日は過ぎてしまった。

若々しさが逃げていく。

でも、閑は変わらず美しい。

美しくなくなった私を閑は愛してくれるの?

最近は誕生日を過ぎる度に不安になる。

そんな時はあの、最高の誕生日を思い出す。



閑にプロポーズされた日、私の誕生日だった。

今日みたいなホテルのラウンジでの出来事。

その時すっごく印象に残るプロポーズをされたが、

もう閑は覚えていないかも。


「あのね、りんりん」

「うぇ!?」


 うっわすごい声出た。めっちゃ間抜けな声。

というかそれより、いつに無く真剣な声だ。

まるでプロポーズでもするような…


「結婚したこと、後悔してない?」


 結婚することで、諦めてしまった夢もある。

でも若い頃の夢が全て叶うわけないし、

結婚を後悔してるってわけではない。

夫はこの年でアイドル勧誘されるくらいイケメンだし、

毎日いっぱい愛してくれる。

愛してくれるの。すっごく。

……………………………夜もね。


 とってもしあわせ。だから、


「後悔してないよ。夢はあったけど、

今以上に幸福になれていたとは思えないからね。」


ゆっくりと頷き、

綺麗な目でまっすぐ見つめながら、閑は言う。


「よかった。そして、夢があったのも知ってる。

何回か話してくれたからね。夢を話す君は

とってもキラキラしていた。だから…」


少し恥ずかしさを覚えながら、聞く。


「だから…?」


閑はゆっくり、しっかりと言う。


「それを、叶えてあげる。」


閑は優しいけど、私はもうおばさん。もういいの。


「いや、もういいん…」


言いかけた言葉を制して、閑が聞く。


「りん、プロポーズの言葉覚えてる?」


覚えてる。今まで聞いたことがあるようで、

1度もなかった言葉だったから。

『僕は、あなたに、僕以外誰も与えることのできない

贈り物をすることができます。』

既に超絶惚れてたからプロポーズするまでも無く、

だったけど、この言葉はとてもはっきりと覚えてる。

結構期待してたし。

でもてっきり、

閑、忘れてるかと思ってた。


「覚えてるよ…!」


「よかった!!」


閑はじっと私を見ながら言う。


「じゃあ、少し長くなるけど、

それについてお話をするね。」


閑はグラスを傾けて、喉を潤すように飲む。

その様はとっても艶やかで…


「僕は、天使に魂を売ったんだ。」


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