第四話 you don't need me anymore
知っておきたいと思った。
尭が亡くなった原因もだが、彼女の家族や周りの人たちのことがどうにも気になった。
しかし本人が生前の記憶を無くしているのでなかなか詳しい情報にたどり着けない。
成仏できていないということは、何か死んでも死にきれなかった理由があるのではないか。
彼女と初めて会った場所や見た目の年齢などから、私はその辺りで亡くなった女の子のことを探し始めた。
しばらく調べると、尭と私が雨宿りをしていた場所からそう離れていない団地の前で凍え死んだ少女の事件があったことがわかった。
亡くなった少女のことを訊きたくて声をかけると、団地の住民たちからは私を受け入れたくない様子が感じ取れた。
「あなた倉橋さんのお宅とはどういうご関係?奥さんはお姉ちゃんの自慢はよくしてたわね」
「亡くなった千ちゃんはうちの娘と小中と一緒だけど、いい子だったわよ。でも今になってあなた何なんですか?」
聞き込みを初めてしばらくすると、尭の本当の名前は千で、尭は優秀なお姉さんの名前であることがわかった。
そして彼女たちの両親、特に母親は相当な毒親だったようだ。
尭はお姉さんに憧れていたのだろうか。自分の本当の名前は記憶にないのかもしれない。
「あなたはずっと不幸だったの・・?」
私から知らせるつもりはないが、直に自分が既に亡くなっていることはわかってしまうだろう。
結局素人の自分ではたいした収穫もなく、数日が過ぎたとき、私の元に一通の手紙が届いた。
『手を引け』
誰からだろう。
この人物は尭の死因を知られたくないと思っている。
万が一のために、この件を誰かに話しておいた方がいいのかもしれない。
自分は厄介なことに首を突っ込んでしまったのだろうか。
まだ終わっていない。
何かできることがまだあるはずだ。
尭が凍死したのは事故ではなかったのかもしれない。
誰かの助けが必要だ。
千が亡くなってからというもの、母の目の下にはずっとクマがある。
私も時々背後に妹がいる感じがして、恐る恐る振り返ってみたりする。
あの子はもうこの世にいないのだから、考えることはようそうと思うのだが、彼女のことを思い出さない日はない。
「あなたはもう自由になったのよ」
妹は亡くなってしまったが、母から縛られることはなくなったのだと思うと羨ましくもある。
「お母さん、お腹空いてる?」
毎日虚ろな目をして居間のソファに座っている母にチャーハンを持っていった。
「あるもので作ったけど、美味しそうにできたよ」
私をぼんやりと見ると、母は「いつもありがとう千ちゃん」と言った。
私は千ではないよと思いながら、食べてみて!と皿を差し出した。
目を合わせることもなく、料理が上手になったねと褒めてくれる。
そんな話し方しないでよ。
心の中で思う。
千がいた時、母は私に勉強の話しか振らなかった。
それか、夕方遅くまで遊んでいる妹を見かけたかという質問。
私たち母娘は典型的な親子ではなかった。
「千ちゃん、また鍵なくしちゃったみたい。お姉ちゃんのをとりあえず貸してあげて」
私が家に入れなくても、図書館やカフェで時間を潰すことができると母は思っていた。
以前は母にどう思われようと気にならなかったが、あのこの代わりとして扱われるのはこたえる。
「残酷だよ、お母さん」