第三話 知られちゃいけない
知らない方が幸せだった。
自分が既に亡くなっているということを。
生前の自分は幸せな毎日を送っていた。
幸せの絶頂の時、私は死んだのだと思う。
理解者が必要だった。
月子をみたとき、警戒はされるだろうが、近寄ってみようと思った。
彼女は生きながらにして故人と話せる人だったから、家族とコンタクトを取る糸口が得られるのではないかと思った。
「あなたはきっとご家族に愛されて育ったんでしょうね」
自分が人間ではないということを悟られまいと、びくびくしていたので、月子がそう言って微笑んだとき少し驚いた。
「そうだと思います」
記憶の片隅にいる両親が、私のことを自慢の娘だと思っていてくれたような気がする。
「月子さんに会えて助かりました」
彼女は親切な人で、自分のことをほとんど覚えていない私を叔母さんの家に連れていってくれるとのことだった。
月子は実在しない私を認識できているが、彼女の叔母さんに私の姿が見えるのだろうか?
案の定彼女の叔母さんに紹介されたとき、叔母さんは私と目が合うことがなく、宙を眺めて挨拶してきた。
「・・・。あ、えーと、尭さんっていうのね。月子の叔母です。よろしくね」
なぜ実際には見えていない私を月子に合わせて歓迎してくれたのかはわからなかったが、どうぞどうぞと受け入れてくれたので、不思議に感じながらも礼儀正しく挨拶しておいた。
やっぱりそうか。
「ええ、月子ちゃんには力になるって言っておいたわよ」
叔母さんが、姉さんと語りかけるので電話の相手が月子の母親のようだということがわかった。
話の流れからすると、月子が友達だと言って叔母さんには見えない私を連れてきたので、彼女を傷つけないように話を合わせておいたとのことだった。
親身になってくれている月子には実際に私のことが見えているというのに、叔母さんには彼女がおかしな言動をしているように見えているのだろう。
月子の母親はどうなのだろうか。
霊感などの能力は遺伝すると聞いたことがあるが・・。
迷惑をかけているが、月子以外のツテがないので、私は彼女の叔母さんの家でお世話になることにしたのだが、叔母さんの飼い犬のポメラニアン、モコにすごく吠えられてしまう。
生前は動物が好きだったのに、こうも敵視されると怖くて仕方ない。
モコも私が近くに行くと身構えて吠え続ける。
叔母さんも月子がいた時はモコに向かって「尭さんにまだ慣れてないのね~」とのんびり言っていたが、私のことをしばらくよろしくと言って帰ってからは明らかに動揺している。
飼い犬があらぬ方向に必死で吠えているのだから気持ちはわかるが。
「ごめんね、モコ・・」
生きていればこの子を怖がらせずに抱っこすることができたのにと悲しく思い、自分は消えてなくなった方がいいのだろうなと感じた。
よろしくお願いします♪