第一話 クールビューティー
一目でわかった。
この人は自分の言いたいことを言える類の人間だと。
今でも覚えてる。
月子を初めて目にしたのは激しい雨が降る日だった。
押し黙ったその顔からは、かすかな色香を感じられて、同姓に強い関心を示すのもどうかとが思ったが、見とれずにはいられなかった。
「・・・。大丈夫ですか?」
目を逸らすことができなかったので、知らない人なのに思わず声をかけてしまった。
「・・・。なぜ?」
赤の他人に疑問を投げかけられ、月子はどうして自分に構うのだという表情をした。
この人は極端に人を嫌うタイプなのだろうか・・。
理由なんてどうでもいいではないかと思ったが、心配になったのでと呟いた。
「大丈夫です。余韻に浸っていただけなので・・」
構わないでくださいという態度をとられたものの、この人の面倒をみるのが自分に与えられた役目のような気がして私は傍観しているしかなかった。
「名前を聞いてもいい?」
思いがけず話しかけられたので、尭だと答える。
「そう・・」
私の名前はお気に召さなかったのかしらと思いながら、あなたはと問う。
「月子」
へえ、と思った。
これほど名前にぴったりの人がいるのだなと感心した。
たった今あったばかりなのだからもちろん本当の彼女のことはわからない。
けれど彼女がこの世に生を受けたことをなんだかありがたいと思った。
「小雨になってきたわ」
私を直視した月子は口角をくいっとあげて微笑んだ。
笑うと意外に可愛らしくなるのだなと面白くなった。