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最強魔法生物ドラゴン

 森の中に横たわるその銀色のドラゴンに、カリアスは目を奪われる。

 一際目立つ存在感に圧倒的な魔力。普通の人が見たら間違いなく逃げ出すか、腰を抜かしそれすらできないかの二択だろう。


 通常であれば、ダンジョンのラスボスとしてしか姿を現さないドラゴンがなぜダンジョン外で存在するのか。そもそもなぜこのユリニアの森にいるのか。

 疑問は尽きない。


 が、そんなことよりもカリアスの頭に浮かんだことはただ一つだった。


「なんて美しいんだ!」


 召喚士としての相なのか、学者に育てられた魔物への探究心なのか、カリアスの心は驚きから好奇心へと変わっていた。


 目を輝かせながら足を一歩踏み出した時、カリアスはある異変に気がつく。


「怪我……をしているのか?」


 輝きを放つ巨体の所々に傷が見え、呼吸も荒い。ぐったりと横たわった顔はどこか苦しげだ。


 身の危険も顧みず、カリアスは急いでドラゴンに駆け寄った。近づくと更にその圧倒的なオーラを体全体で感じ、鳥肌が立つ。


 ドラゴンの体を見える範囲で隅々確認したカリアスは、ぐったりと横たわっているドラゴンの頭に更に近寄った。


「おい! 大丈夫か! おい!」


 声の限り叫ぶが、意識が朦朧としているのか全く反応せず、こちらに気付く気配すらない。


(クソっ!)


 カリアスはドラゴンに話しかける事を諦めると、その場にしゃがみ込み肩にかけていた鞄を地面に降ろした。蓋を開け何か使える物がないかと、中身をゴソゴソと漁って確認し始める。


 数日分の食料と愛読している本、もしもの時の為に持ってきていたポーションや、その材料と道具、そして治療用具。


(この体の大きさにはポーションが足りない……。とりあえず応急処置を施して森の中で使えそうな植物を調達してこよう)


 そう決めると、カリアスは数少ないポーションを鞄から全部引っ掴み出し、ドラゴンの治療を始めた。

 少しでも効果が出ればと、全てのポーションを無理やりドラゴンの口に流し入れ、飲み込むのを確認する。

 身体中にある怪我を確認し、傷の深いものから血液で固まってしまった汚れを洗い流し始める。


 ここがユリニアの恵みを多く含んだ綺麗な池の辺りであった事が功をそうした。治療に使ったり、ポーションを生成する上で綺麗な水には困らないだろう。


 綺麗になった傷口からは新しい血が滲み出てき始める。そこに、ポーション生成用に持ってきていた止血作用のある薬草をすり鉢ですり、素早く押し当てた。少量しか無いが、効果はあったようで出血が止まった。カリアスは他の薬草もいくつか混ぜ合わせ傷口に追加で塗ると、鞄に入っていた包帯を巻こうと手にする。

 しかし、その巨体ゆえにどう考えても長さや幅が足りない。カリアスが困っていると、さっきまでドラゴンの側で心配そうにそわそわしていた森の精霊達が傷口に集まっていく。


「これは……」


 精霊達の纏う光は、治癒魔法独特の薄緑色の輝きを放っている。情に満ち溢れたその様子に、カリアスは何故彼等が自分をここに連れてきたのかを悟る。


(助けたかったんだな……このドラゴンを……)


 本来、森の外から来た者にはあまり干渉せず、ただこの森を豊かにする存在である精霊が、必死にこのドラゴンを助けようとしている。

 ふとドラゴンの顔に視線を向ける。先ほどより心なしか表情が和らいだ気がする。

 精霊達のためにも、このドラゴンの治療に専念しよう。カリアスはドラゴンの寝顔を見ながら心の中でそう思った。


「さて、他の傷口もやらないとな」


 まだまだ数え切れない程のたくさんの傷が、ドラゴンの硬い鱗に刻まれている。かすり傷が多いが、それでも酷いところは鱗がえぐれて下の組織が姿を現している。

 なによりも体が大きい分、処置をするだけでも一苦労しそうだなとカリアスは思わず苦笑いを溢した。

 しかし、大変だからといって傷ついた魔物を見捨てられる様な性格をカリアスはしていない。


「よし、頑張ろう!」


 少し折れそうになった心を奮い立たせ、カリアスは治療を再開させるのだった。


 あらかた酷い部分を治療し終えたカリアスは、周りがざわついている事に気付き、慌てて背後を見渡した。すると、好奇心なのか心配してなのか、森中の魔物達が集まってきていた。中には使えそうな薬草を持ってきているゴブリンや、池には食料になりそうな水草を咥えた水棲馬ケルピーが顔を出してこちらの様子を伺っている。


(精霊達だけではなく、他の魔物達もこのドラゴンを助けたいのか……)


 改めてその巨体を見上げる。

 最強の魔物と言い伝えられ、ダンジョンのラスボスになるその強さ。誰もが知っているその存在は、今だ謎に満ちている。

 彼らは一体どこで生まれ、どこで生き、何を思っているのか。

 他の魔物達にとってドラゴンの存在とは一体どういったものなのか。


 治療の甲斐あってか、呼吸が穏やかになったドラゴンを見ながら、カリアスは続々と湧き出てくる疑問を頭の中で考える。が、そんな事を今考えた所で意味がないと結論づけ、カリアスはため息を一つついた。


(とりあえず、治すことに集中しなくては)


 カリアスは昔から傷ついた魔物を放っておけない性格だ。育った環境のせいも多少あるかもしれないが、生まれ持ったものが大きい。


 魔物にはいろんな種類がいる。優しいものから悪戯好きだったり、人を恨んだり嫌ったりする物もいる。それゆえに、魔物は得体が知れないと理解を得られず、忌み嫌っている人々も今だに存在している。


 カリアス自身、助けてあげた魔物に襲われることは何回も経験していた。しかし、どうしても助けてしまう。


 このドラゴンも治ったら命を狙ってくる可能性だってあるのに、現にカリアスは治療を施し、その時はその時だと割り切っていた。


 その魔物に対しての異常なまでの優しさが、カリアスの最強の素質であり、今後の人生を大きく変えることとなる。


 が、本人がそれを知るのはまだ先の話である。

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