自分探しの旅は続く
『炎の凱旋』の宿舎がある町にカリアスの姿はあった。
元パーティーメンバーを送り届け、つい数ヶ月前まで毎日歩いていた石畳の道をセレネと歩く。
この場所を離れ、もう一生戻らないだろうと思っていた。結局その予想は外れ、カリアスの視界には馴染みのある世界が広がっている。
(思い返すと、色々あったな……)
カリアスの頭の中で、この町を出てから今現在までの記憶が蘇る。
森の中でドラゴンを見つけた時の記憶は今でも鮮明だ。あの時感じた恐怖、それを勝る感動。
今となってはセレネの姿を見てそんな感情はいちいち湧いてこない。慣れとは恐ろしいものである。
「カリアス、これからどうする?」
エメラルドグリーンの瞳がこちらを真っ直ぐ見つめる。
森で出会った時、もしカリアスが素通りしていたらこの瞳の輝きは失われていたかもしれない。
ドラゴンを助けた選択は正しかった。
きっと今までの道のりは間違っていない。
「カリアス?」
「あーごめん、まだ決めてない」
「なら、私たちの国に行かない? 王の器のこともダンジョンや過去に起きた出来事も、国に帰ればもっと詳しくわかるかもしれない」
(ドラゴンの国か……行きたいかも)
セレネの提案にカリアスの好奇心が食いつく。
今まで明かされてこなかった最強魔獣の生態。彼らがどんな場所でどんな暮らしをしているか興味は尽きない。
セレネの言うとおり、この先どう進むべきか考える為にもより多くの情報が欲しい。
「そうだね。行こうか、セレネの故郷」
セレネの表情がパッと明るくなり、飛び跳ねて嬉しさを表す。異国調の刺繍がほどこされたポンチョが、彼女の動きに合わせてフワッと空気に弄ばれた。
(ジェイソン、俺もこの国の外を見てくるよ)
小汚い師匠にお土産話をもって帰るのは、まだ先になりそうだ。
今までこの小国である『マリゴナ島』を出ようとは一切考えていなかった。自分一人の実力では難しいと思っていたのだ。
(でも、セレネと一緒なら……)
過酷だった今回の旅を経て、カリアスの考えは変わっていた。
師匠のように、もっと外の世界を知りたい。セレネに選ばれた王の器として、広い世界を見て未来を見すえたい。
「長旅になるだろうから、ここで必要なものを調達しよう」
備は旅の基本である。
カリアスは新しい冒険に胸を高鳴らせつつ、冷静な思考を忘れない。
「セレネ、一緒についてきてくれるか?」
「もちろん!」
セレネのぱっちりした目が、糸のように細まり弧を描く。にっと引き上げられた彼女の口角につられるように、カリアスの口元もほころびる。
笑い合う二人を邪魔するかのように、突風が二人の間を通り過ぎた。
まるで誰かさんが「私を忘れるな!」と言っているようだ。
セレネも同じことを思ったのだろう。視線がぶつかった二人は、声を上げて笑うのだった。
これは、無能な家畜番と言われた召喚士カリアス・アンドレウ・メノールターナが、最強魔獣ドラゴンと出会って自分探しの旅に出る話。
そして、カリアスの旅はまた新たな道へと進んでいく。 一章(了)




