もう一人の召喚士
瞼をパッと開ければ、眩しいほどの光で目が眩んだ。もう一度瞼を閉じ、今度はゆっくりと光に順応させていく。
(ここはどこだ……)
アルバート・デュークは、視界の先に見える澄み渡った空を眺め、心の中で疑問を漏らした。ゆっくり体を起こそうとするが、節々がギシギシと鈍い感覚にとらわれる。起き上がることを諦め、また頭を地面につけた。
体がだるく、このまま一眠りしたい衝動に駆られる。その誘惑に引っ張られないように、アルバートは最新の記憶を辿っていった。
(確か、ダンジョンに入ってドラゴンと戦って……っ!)
最後の記憶を思い出したアルバートは、ガバッと上半身を起こした。体の悲鳴、頭の重さ。そんなものは微々たるもので、全てを思い出したアルバートは、自分の失態に死にたくなった。
「クソォーーーー!」
叫ぶ声が開けた視界に響き渡り、吸収される。
「クソォ! クソォ! クソォ! クソォ!」
地面を殴りつけ、拳から血が流れ滴った。
アルバートの旅は、順調に進んでいたはずだった。
計算外だったのは間に割って入ったもう一体のドラゴン。そして自分を眠らせた謎の男。
「あともう少しで王の器になれたはずなのに!」
最強魔獣、ドラゴンとの戦いに劣勢だったことなど忘れ、アルバートの怒りの矛先は、戦いに割って入った者達へと向けられる。
「あいつらさえいなければ!」
周りを見渡しても、それらしき存在を確認できない。アルバートが導いた『炎の凱旋』の姿も見当たらず。そもそも、人の姿が全くない。
(ここは一体どこなんだ)
ふと、自分の後方に見覚えのある淵が見えた。それは、アルバートが先ほどまでいたであろう『巨巌の洞窟』に続く、抉られた大地の外周。
怠い体を奮い立たせ、足に力を入れる。よろけながらも立ち上がったアルバートは、吸い寄せられるように歩き出した。おぼつかない足つき。それでも、スピードを徐々に上げていく。
「おいおいおい、一体どういう事だ!」
陥没した大地は、変わることなく目の前に存在した。
しかし、その中心にあったはずのダンジョン『巨巌の洞窟』の姿が見るも無惨に朽ち果てていた。
こちらを誘うようにぱっくりと開いていた洞窟の入り口は、もう存在しない。そこに残るは、形を失った土石の山だった。
「もう入れないじゃないか!」
最大のチャンスを失った悲しみ。もう一度挑むことも叶わない。
長い旅を経てやっと辿り着いたはずだった場所は、眠っている間に、ダンジョンですら無くなっていた。
そんな事実に、狂いそうなほど怒りが湧き出る。
「絶対許さない……あいつらを……」
そして、旅の目的が変わり始める。
「あの邪魔したドラゴンを見つけて服従させてやる!」
自分こそ王の器になるべき存在だと、疑うことを知らないアルバート。既に別のものがその存在となっているのたが、そんな可能性は彼の頭には微塵も浮かばない。
「まずはあのドラゴンだ! 絶対に見つけ出してやる!」
白銀の光に、エメラルドグリーンの瞳。脳裏に焼き付く敵の存在。
王の器になる為。復讐する為。
そのどちらも叶えられる結論に、アルバートは怒りを通り越して武者震いがする。
「待ってろ……」
アルバートは、目の前に広がるダンジョンの成れ果てに見切りをつけ、背を向ける。
そして、振り返ることなくその歩みを進めていくのだった。




