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王の器と行く道


 真っ白な世界から現実へと引き戻される。

 まだ薄暗さに慣れる事が出来ていない目に、白銀の輝きを放つドラゴンと、その前に人の姿で立つセレネの姿は、まるで切りとられたかのように鮮明に認識できた。


「セレネ……」


 カリアスの呼びかけに、セレネがハッと視線をこちらに向ける。

 素早い動きに、エメラルドグリーンの瞳からキラキラと雫が飛び散るのが見えた。

 

「カリアス! お母様に、お母様に会えたよっ」


「あぁ、そうだな…………でも」


 二人が以前と同じように暮らす事は、多分もう二度とない。

 セレネの母であるドラゴンの姿は、もう徐々に光の粒子となって薄れ始めている。


「カリアス、全部聞いたよ。大丈夫、私はもう一度お母様に会えただけで嬉しい。ありがとう」


「なんでっ」


(なんで、そんな嬉しそうに笑って言うんだよ……)


 一人生まれ故郷を飛び出して、あんなにも会いたがっていた母親。再会は果たせたものの、もう一緒にいる事はできない。なのに、セレネは「ありがとう」と、花を咲かせた様な幸せの笑顔でそう言った。


「お母様には、行くべき場所があって、私には居るべき場所がある。それは運命(さだめ)なんだよ、カリアス。お母様に会えて、ちゃんと話を聞けて、私は納得できたの」


 スッと立つセレネの姿、柔らかい笑み、彼女の全てが少し大人びた様に見える。

 

「色々巻き込んじゃって、ここまで付き合ってもらって。もう充分なくらい感謝しているの。だから、次はカリアスの番だよ」


「俺の番?」


「カリアスは知りたいんでしょ? 自分の名前のことや、自分は一体何者なのか」


「それは……」


「カリアスは私が選んだ『王の器』だよ」


 セレネはそう断言した。

 思い返せば、この場所に着いてから幾度となく『王の器』と言う言葉が出てきている。先ほど、セレネの母もカリアスの事を『王の器』と言っていた。


「王の器って……一体何なんだ」


「私達、魔獣が探し求めている先導者であり、未来を作る人だってお母様が。ドラゴンに選ばれ契約を交わした人間は、そう言われているみたい」


「俺はそんなたいそうな者じゃないよ。第一、君と契約を交わしたのは偶然だし」


「カリアス、これも運命(さだめ)なんだよ。出会いは偶然だったとしても。もし仮に、王の器を探して旅をしていたとしても、私はきっとカリアスを選んでる」


「そんな訳……俺は召喚士としても落ちこぼれで」


「そんな事ない! カリアス、ジェイソンさんが言っていた召喚士の才能を思い出して」


 カリアスはセレネの必死の訴えに、朧げな記憶を脳裏に蘇らせる。


『召喚士の才能はね、大きく分けて二つあるんだ。一つは魔物を引き寄せる力。そして二つ目は単純明快、魔力量だ』


 彫りの濃い顔をした初老である師匠の姿が、セレネにそう教えていた。


「魔物を引き寄せる力と、魔力量……」


「そうだよカリアス、考えてみて。確かに魔力量は少ないかも知れない。でも、『魔物を引き寄せる力』はどう? カリアスは、最強魔獣である私の心も引き寄せた。アリアちゃんだってそう。カリアスは、誰にも負けない召喚士としての才能を持っているでしょ」


「だとしても……」


 確かに、物心ついた時からアリアを含め、周りに魔獣の姿があった。

 でもそれは、魔獣が住む『ユリニアの森』で生活していたからだと思っていたし、それが当たり前だと思っていた。


「カリアス、私はお母様と約束したの」


 セレネは横にいる母の姿を見上げながら、優しく微笑む。

 そんな娘を愛おしそうに目を細めて見るハイネの姿は、もう既に半分以上が光の粒子へと変わっていて、輪郭もぼやけ始めていた。


「あなたが自分の運命と向き合って、どう生きるのか。私はこの目で見届けたい」


 セレネは母と自分の道を理解して、歩み出している。

 二人の親子が嬉しそうに視線を交わしている姿を見て、カリアスはそう思った。

 未だ自分の存在意義が分からず、拗らせている自分が情けなくも思えた。

 

(王の器か……)


 そんな役目を自分が果たせるのだろうかと、不安な気持ちは拭えない。

 だが、ここで逃げるのは違う気がした。

 何よりも、自分の名前の意味や存在する意味を知りたいと思ったのは、セレネの言う通り、紛れもなくカリアス自身である。

 これが運命(さだめ)なのであれば、その意味を知る一番の近道である事は間違いない。


「分かった。俺も自分の(うんめい)を受け止める」


 カリアスの覚悟を、神々しい光を放つドラゴンとセレネが、女神の様に柔和な笑みで聞き入れるのだった。

 


 

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